第9話 敵討ち
「グオオオオオオオオォォォォ!!」
赤黒い光の粒子が晴れ、そこに現れたのは、もはや小鬼と呼ぶにはあまりに巨大な暴力の塊だった。
身長2メートルを超える巨躯。
丸太のように太い腕。
岩石のように隆起した赤銅色の筋肉。
だが、その瞳だけはどこか見覚えがある。
ゴブいちの忠誠心と、ゴブさんの凶暴さを宿したまま、どこか冷たく、知性的な光を放っていた。
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ゴブリン×ゴブリンを合成し『ホブゴブリン』となりました。
また、合成した魔物から、特性【リーダーシップ】を継承しました。
特性【リーダシップ】は特性【隊長】へと進化しました。
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『ホブゴブリン』
端末の画面にはそう表示されていた。
俺は震える声で告げた。
恐怖で震えるのではない。
あるのは、敵を殲滅するという明確な意思と覚悟だけだ。
「仲間たちの敵討ちだ……。殺せ!」
ホブゴブリンが、ニィッと口角を上げた。
その笑顔は、かつての俺のような、愛想笑いではなかった。
強者が浮かべる、捕食者の笑みだった。
巨大な腕が振るわれる。
戦士の顔が、恐怖に引きつった。
反撃の時間が始まる。
「グルルルルゥゥ……ッ!!」
ホブゴブリンが咆哮する。
その声だけで、洞窟内の空気がビリビリと震え、天井からパラパラと砂が落ちてくる。
圧倒的な威圧感。
HP10の俺なら、今の叫び声だけで気絶していたかもしれない。
対する冒険者たちの顔色がさっと変わる。
だが、彼らは腐ってもプロの冒険者だった。
恐怖に腰を抜かしたのは一瞬。すぐに戦士が前に出て、大剣を構え直す。
「チッ、ふざけてやがる! アイツいきなり進化しやがったぞ!」
「嘘でしょ……、ここ、生まれたばかりのダンジョンのはずよね!?」
魔法使いの女が悲鳴交じりの声を上げる。
当然の反応だ。
初期ダンジョンだと思っていたら、いきなり中ボス級のモンスターが出てきたようなものだ。
だが、戦士の男はニヤリと口角を吊り上げた。
「ビビってんじゃねえぞ、ミーシャ! 相手はデカいが所詮はゴブリンの上位種だ。俺は昔、依頼で組んだ討伐隊でやり合ったことがある!」
戦士の言葉に、魔法使いの女――ミーシャの目に理性の光が戻る。
「討伐隊って……、あの時は6人掛かりだったじゃない!」
「俺だってあの頃より腕は上げてる! それに、こいつは武器を持ってねえ。ただの力任せの馬鹿だ。俺が引き付けるから、お前は最大火力の準備をしろ!」
「……わかった! 時間を稼いでよ!」
戦士が叫ぶと同時に、ホブゴブリンが動いた。
ドムッ、と地面を蹴り飛ばし、巨体に似合わぬ速度で肉薄する。
ホブゴブリンは、近くにあった鍾乳石の柱を素手でへし折り、それをこん棒代わりに握りしめていた。
「GAAAAAAAッ!!」
ホブゴブリンが、丸太のような石柱を振り下ろす。
風切り音すら重い、必殺の一撃。
「ふんッ!!」
戦士はそれを回避しなかった。いや、背後の魔法使いを守るために回避できなかったのだ。
彼は大剣を斜めに構え、衝撃を受け流す体勢を取る。
ガガガガガッ!!
石と鉄が激突し、火花が散る。
凄まじい衝撃音が洞窟内に木霊した。
戦士の膝がガクンと沈む。ブーツの裏が地面を削り、ズズズと後退する。
だが、耐えた。
「ぐ、ゥゥ……! やっぱり馬鹿力だ……! だが、受けきれない重さじゃねえ!」
戦士が吼える。
彼は攻撃を受け流した勢いを利用し、大剣を回転させてホブゴブリンの脇腹を薙ぎ払う。
しかし、鋼のような筋肉に阻まれ、刃は皮一枚を裂いただけだった。
だが、確実にダメージは通っている。
「グルッ!?」
「ハッ、図体ばっかりでかくても、動きは単調なんだよ!」
そこからは、一進一退の攻防が続いた。
ホブゴブリンの暴力的で一方的な力。
戦士の洗練された技術と経験。
個の力ではホブゴブリンが勝っているが、戦士は巧みに攻撃をいなし、カウンターで細かい傷を刻んでいく。
互角の戦い。
いや、徐々に戦士のペースになりつつあった。
俺は奥の壁際で、拳を握りしめてその光景を見守っていた。
焦りが募る。
ホブゴブリンは強い。
だが、生まれたばかりで戦い方を知らない。
ただ本能のままに暴れているだけだ。
対して相手は、2人になったとはいえ、連携の取れたパーティだ。
そして気になる点がある。
「……くそっ、何をしてるんだ、あの女は」
俺の視線が、後方の魔法使いに行く。
先ほどから彼女は戦士の背後で杖を掲げ、ブツブツと長い詠唱を続けていた。
その杖の先端に、赤い光が収束していく。
先ほどの《フレイム・バースト》とは比べ物にならない、濃密で、危険な魔力の気配。
まずい。
直感が警鐘を鳴らす。
あれは、ホブゴブリンを倒すためだけの魔法じゃない。
この狭い部屋全体を焼き尽くすような、広範囲殲滅魔法だ。
もしあんなものが発動したら、ホブゴブリンどころか、俺も、背後のダンジョン・コアもまとめて吹き飛ぶだろう。
ダンジョンコアの破壊が狙いか。
なんとか詠唱を止めさせないと……。
だが、ホブゴブリンは戦士に足止めされ、魔法使いに近づけない。
戦士もそれを理解しているからこそ、無理に攻めず、防御に徹して時間を稼いでいるのだ。
このままじゃ、全滅する。
スウの犠牲も、ゴブリンたちの死も、全て無駄になる。
ダンジョンコアが壊れ、俺は死に、ダンジョン自体も消滅する。
何かないのか。
俺にできること。
HP10の、ゴミのようなステータスの俺にできることは……。
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