第6話 最初の襲撃者
俺は激しい音と大きな衝撃で目を覚ます。
ダンジョンそのものが鳴動しているような、低い地鳴りのような音、そして地面が大きく揺れている感覚。
俺は頭を抱えるようにして、その揺れが収まるのを待った。
やがて音と揺れは収まっていく。
安全を確認すると端末を見た。
制限時間のカウントが、0を示していた。
そしてストーリー画面に表示されている文字も切り替わっていた。
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【ストーリー3:最初の襲撃者】
生まれたばかりのダンジョンは、時間とともに外の世界に開放される。
どうやら、王都の近郊にある『嘆きの森』の中に、このダンジョンの入口が繋がったようだ。
これから、様々な冒険者たちがこのダンジョンに挑んでくるだろう。
なぜなら、ダンジョン・コアを壊した人間は、特別なスキルを習得できるからである。
ミッション:襲撃者を撃退しろ
制限時間:2日23時間57分
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王都近郊……。
いかにも人が多そうな場所だ。
それに……、ダンジョン・コアを壊した人間は特別なスキルが得られるだって?
クソっ。敵は本気で挑んでくるってことか。
俺は悪態をつきながら、マップを開いた。
最初の部屋の入り口に配備していたスライムの青い点が、既に消えていた。
「……来たな」
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
何かに反応したように、脳内に映像が流れ込んでくる。
テレビの砂嵐のようなノイズ交じりの映像。
それは、スライムたちの天井から見下ろすような画角。
そこに見えたのは、革の鎧を着た男と、ローブを着た女、そして小刀を持った男の三人組であった。
「戦士、魔法使い、斥候……バランスのいいパーティだ」
典型的な冒険者パーティ。装備はそこまで豪華には見えない。
初心者か、あるいは下級の冒険者か。
だが、素人の俺たちよりは遥かに戦闘慣れしているはずだ。
彼らはやがて、俺たちの待ち受ける、第二の部屋へと向かってくる。
俺は大きく息を吸い込んだ。
「総員、戦闘配置!」
俺の声に応えるように、通路の奥でゴブリンたちの唸り声が微かに響いた。
脳内に流れ込んでくる映像のノイズが、心臓の鼓動に合わせて激しくなる。
俺は奥歯が砕けそうになるほど強く噛み締めながら、視界の隅にあるマップと、脳内の映像を交互に睨みつけていた。
ついに来た。第二の部屋、その入口。
先頭を歩くのは、小刀を持った斥候の男。
薄暗い洞窟の中、松明を持った魔法使いの女が中央に、そして最後尾に大剣を背負った戦士が続いていく。
彼らの足取りに躊躇はない。
まるでピクニックにでも来たかのような、弛緩した空気すら感じられた。
「……ッ!」
俺は乾いた唇を舐める。
だが、相手が油断している今こそが唯一の勝機だ。
俺たちが仕掛けるのは、入口の死角を利用した電撃作戦。
ゴブリンたちの身長は子供程度だ。
岩場の陰に隠れれば、大人である彼らの視界からは完全に消えることができる。
距離が縮まる。
あと五歩。三歩。一歩。
戦士が、ゴブリンたちが潜む岩の横を通り過ぎようとした、その瞬間。
(いまだ、やれッ!)
俺の敵意が伝播したかのように、ゴブリンたちが飛び出した。
「ギャウッ!!」
先陣を切ったのは、好戦的な性格の『ゴブじ』だった。
低い姿勢からバネのように跳躍し、錆びたナイフを戦士の首元を目掛けて突き出す。
完璧なタイミングだった。
死角からの、回避不能の奇襲。
俺は拳を握りしめ、勝利を確信した――はずだった。
ガィィィンッ!
硬質な金属音が、洞窟内に反響する。
ゴブじのナイフは、戦士の首に届いていなかった。
その軌道を遮ったのは、戦士が背負っていた大剣の、分厚い刀身だった。
「――チッ、やっぱり居やがったか。隠れてるつもりか知らんが、獣臭えんだよ」
戦士が不敵に笑う。
鞘から抜く動作すらなく、ただ背中の剣を盾にして防いだのだ。
俺は瞬時に理解する。
こいつらと俺たちじゃ、反応速度が違う。
戦闘の経験値が違う。
背筋に、冷たい汗が落ちる。
空中に体が浮いたままのゴブじも、驚愕に目を見開く。
その隙を、冒険者たちが見逃すはずがなかった。
「燃やしちゃっていいわよね?」
「ああ、明かり代わりにしてやれ」
後方の魔法使いが、杖を振るう。
詠唱すら聞こえなかった。
ただ一言、彼女が唇を動かした瞬間、洞窟内が赤熱した。
「《フレイム・バースト》!」
轟音。
爆発的な炎の渦が、入口付近を包み込む。
「ギャアアアアアッ!!」
断末魔の叫び。
炎の直撃を受けたゴブじが、火だるまになって転げまわる。
その小さな体は、数秒もしないうちに炭のように黒く縮んでいき、そして動かなくなった。
――死んだ。
俺の部下が。仲間が。
あっけなく。
だが、絶望はそれだけでは終わらなかった。
爆炎は広範囲に広がり、天井や壁に張り付いていたスライムたちをも飲み込んだのだ。
『……!』
声なき悲鳴。
情報収集のために配置していたスライムたちが、逃げる間もなく蒸発していく。
俺の脳内に表示されていた複数の視界が、プツリ、プツリとノイズ混じりにブラックアウトしていく。
一つ消え、また一つ消え……。
十秒も経たないうちに、脳内の映像は完全に途絶えた。
残ったのは、マップ上で逃げるように動くゴブいちとゴブさんと、俺の足元で震えているスウだけとなった。
「う、そだろ……」
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