第5話 ダンジョン防衛隊
所持DPは残り85。
俺はここから、さらに戦力を増強することにした。
流石にゴブリン1体では心もとない。
小隊を組むにも最低でもあと数人は必要だろう。
俺は続けてゴブリンを2体召喚した。
それぞれ『ゴブじ』、『ゴブさん』と命名。
これでゴブリン3人体制だ。所持DPは65。
彼らを整列させる。
薄汚い小鬼が三匹並んでいる絵面はシュールだが、不思議と頼もしさも感じる。
俺は彼らに指示を出した。
「いいか、明日、ここによそ者が侵入してくる可能性がある。お前たちの仕事は、ここを守ることだ」
言葉が通じているかは怪しいが、身振り手振りでなんとか説明する。
「敵」「来る」「戦う」「守る」
ゴブリンたちは「ギャウ!」「ギャギャ!」とやる気満々の声を上げた。
錆びたナイフを掲げて士気を高めている。
ゴブリンたちが単純で助かった。
次に俺は、マップを見ながら配置を考えた。
敵は入り口から一本道を通ってやってくる。
最初の部屋、真ん中の部屋、そしてこのコアのある部屋。
全軍をここで待機させるのは下策だろう。
ここまで来られたら、コア自体が攻撃の余波で壊れるリスクが高い。
かといって、入り口で出待ちするのも危険だ。敵の数が多ければ突破される。
「地の利を活かすんだ」
俺は戦う場所を真ん中の部屋と決める。
ここであれば、入口からの光も入ってこないだろう。
この暗闇は俺たちの味方だ。
ゴブリンたちは夜目が利くらしく、さっきから暗い中でも平気で動き回っている。
対して、冒険者は松明や明かりを持ってくるはずだ。
光で照らされる冒険者は標的にしやすい。
俺は残りのDPで、スライムをさらに5体召喚した(25DP消費)。
所持DPは残り40。
これは緊急時の予備として残しておこう。
「スウと、新入りスライムたち。お前たちの任務は『情報収集』と『足止め』だ」
スライムたちは言葉を理解したのか、返事代わりにプルプルと震えた。
スライムは壁や天井に張り付くことができる。
これを入り口付近や通路の死角に配置する。
敵が来たら、その動きを察知して俺に知らせることができればいいのだが……。
その時、自分の視界とは別に、真っ暗な洞窟の中の映像が、ぼんやりとだが脳内に流れ込んでくるような感覚があった。
映像から察するに、スライムたちの視界のようだ。
これがダンジョンマスターの能力か?
ともあれ、これで情報戦がかなり有利となる。
そして、ゴブリン部隊。
彼らは真ん中の部屋の入り口付近、岩陰に隠れて待ち伏せさせる。
奇襲作戦である。
真正面からやり合っては、装備の差で負けるかもしれない。
不意を突いて一撃離脱。そして地形を利用して翻弄する。
ゲリラ戦術こそ、弱者の兵法なのだ。
俺はゴブリンたちを引き連れて、配置場所へと移動した。
現場で直接、隠れる場所や攻撃のタイミングを指導する。
ゴブいちは意外と覚えが良く、2匹をまとめるリーダーとしての素質が見える。
ゴブじは少し好戦的で、ゴブさんは少しぼんやりしている。
召喚した魔物といえども、それぞれ個性があるようだ。
「よし、配置完了だ」
準備を終えて、コアのある部屋に戻ってきた頃には、端末の時計機能(画面の隅に小さく表示されていた)で数時間が経過していた。
疲労がどっと押し寄せてくる。
肉体的な疲れよりも、精神的な摩耗が激しい。
俺は段ボールからサバの味噌煮の缶詰を取り出した。
ゆっくりとプルタブを開ける。
濃い味噌の、どこか懐かしい香りが辺りを漂う。
「……食うか」
もちろん割り箸なんてない。
サバを直接指でつまんで口に放り込む。
これは白飯が欲しくなる味だ。
俺はゆっくりとサバの味噌煮を味わって、ペットボトルに入った水で一服する。
ふと、ゴブいちが入り口で見張りをしているのが目に入った。
俺は少し迷ってから、缶詰の中身を少し残して、手招きする。
「おい、ゴブいち」
「ギャウ?」
こちらへ駆け寄ってくるゴブいちに、缶詰を差し出す。
「食ってみろ」
ゴブいちは目を丸くし、缶詰に入ったサバの味噌煮を興味深げに覗くと、鼻をひくつかせた。
そして、恐る恐る缶詰を受け取り、こってりとした味噌に浸されたサバを指でつまんで口へと放り込む。
口を閉じた瞬間、その目が輝いた。
「ギャウウウッ!」と歓喜の声を上げ、夢中で缶の内側まで舐め回している。
異世界のゴブリンにも、日本のサバ缶は好評らしい。
その様子を見て、俺は少しだけ笑った。
こんな状況じゃなければ、ペットと戯れる休日にも見えたかもしれない。
だが、現実は非情だ。
画面上のカウントダウンは、刻一刻と進んでいる。
残り時間はあと18時間となっていた。
俺はゴツゴツした岩場に横になる。
スーツは既に埃や土でかなり汚れていた。
背中の冷たさは相変わらずだが、近くにコアの温かい光があるせいか、最初よりは寒くない。
明日は、正に生きるか死ぬかだ。
サラリーマン時代、明日会社に行きたくないと何度も思った。
だが、これほどまでに「明日が来てほしくない」と願ったことはない。
「……頼むぞ、みんな」
俺は小さく呟いて、目を閉じた。
泥のような眠気が、俺を飲み込んでいった。
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