第14話 深海の塔 -第1層- ②
「早速、お出迎えってわけかよ……!」
俺は冷静に分析しようと努めるが、冷や汗が止まらない。
1対2。
しかも、あの蟹の装甲。
ゴブいちの大剣が通じるのか?
見た感じ、戦車並みに硬そうだぞ。
「ゴブいち! まず蟹をやれ! 俺は……隙を見て援護する!」
情けない指示だが、これが限界だ。
HPが皆無の俺が前線に出れば、ハサミがかすっただけで即死だ。
ゴブいちは「グオッ!」と短く応え、地面を蹴った。
巨体に似合わぬ俊敏さ。水しぶきを上げながら突進する。
「ギチッ!」
蟹が反応し、巨大な右のハサミを振り下ろす。
単純だが、質量任せの暴力的な一撃。
ゴブいちはそれを正面から受けず、スライディングのように身体を低くして懐に潜り込んだ。
戦士との戦いで成長したのか、動きが素早い。
ガギィンッ!!
ゴブいちの大剣が、蟹の足の付け根を狙って振り抜かれる。
凄まじい金属音が塔内に反響した。
だが――硬い!
蟹は咄嗟のところで、足を守った。
大剣と甲羅が激突し、火花が散る。
しかし、ダメージは与えられず、蟹の甲羅に白い傷がついただけであった。
「嘘だろ……、あの腕力で斬れないのか!?」
ゴブいちは舌打ちするようにバックステップで距離を取る。
そこに、死角から半魚人が槍を突き出してきた。
「キシャアッ!」
速い。
水中を泳ぐような滑らかな刺突。
ゴブいちは大剣の腹を盾にして防ぐが、2対1の数的不利が徐々に彼を追い詰めていく。
蟹が重戦車のように圧力をかけ、半魚人がその隙を縫って鋭い攻撃を繰り出す。
見事な連携だ。この塔の試練とやらは、そう簡単には攻略させてくれないようだ。
俺は柱の陰で歯噛みした。
何か手はないか。
このままじゃ、ゴブいちが削り殺される。
考えるんだ。
俺の武器は、自分の筋力でも魔法でもない。
『ダンジョンマスター』としての能力だ。
俺にできること……召喚だ。
所持DPは290。
ここに追加戦力を投入するしかない。
だが、Eランクのゴブリンやスライムを呼んだところで、あの蟹のハサミでプチッと潰されて終わりだ。
スウの時のように、犠牲にするのか?
いや、違う。
もっと、効果的な手は……。
俺の視線が、新しく追加された『ポイズンモス(30DP)』に止まる。
状態異常か……。
効果は未知数だが、毒系の攻撃なら甲羅の上からでも効くんじゃないか?
それに、あの蟹、目は露出している。
「……賭けるしかねえ!」
俺は30DPを消費し、ポイズンモスを召喚した。
さらに、囮役としてスケルトン(30DP)も2体追加する。
計90DPの出費で、残りは200DP。
ブオンッ!
俺の目の前に光の粒子が集まる。
現れたのは、子供の頭ほどもある巨大な蛾と、錆びた剣を持った骨人形たち。
蛾の羽ばたく音と、骨がこすれる音が不気味に響く。
生理的嫌悪感が凄まじいが、今は頼もしい味方だ。
「行け! スケルトンは半魚人の足止めだ! ポイズンモスは蟹の顔に鱗粉をぶっかけろ!」
俺の命令を受け、異形の軍団が動く。
カカタッ、カカタッ!
スケルトンたちが、恐れを知らぬ動きで半魚人に突っ込んでいく。
しかし、やつの槍捌きの方が一枚上手であった。
一体目は一瞬で頭蓋骨を砕かれ、骨の山と化した。
だが、もう一体のスケルトンが、半魚人に向かって飛び掛かる。
「キシャアッ!?」
スケルトンに飛び掛かられた、半魚人がバランスを崩す。
その好機を、ゴブいちが見逃すはずがない。
蟹の相手をしていたゴブいちは、ターゲットを瞬時に切り替えた。
「グオオオッ!」
大剣の一閃。
今度は、肉を断つ確かな手応え。
飛び掛かっているスケルトンごと半魚人の胴体が、斜めに両断された。
緑色の血が派手に噴き出し絶命する。
2体のスケルトンが犠牲になったが、半魚人を仕留めることができた。
残るは蟹だ。
相棒を殺された蟹が、怒り狂ったように泡を吹く。
「ギチチチチッ!!」
ハサミを振り回すその暴れっぷりに、ゴブいちも攻めあぐねていた。
そこに、天井付近を旋回していたポイズンモスが急降下爆撃を仕掛ける。
バサササッ!
蟹の頭上、突き出した目玉の至近距離で、ポイズンモスが激しく羽ばたいた。
紫色の粉が、キラキラと舞い落ちる。
はたから見ると、空中に光が舞う、とても幻想的な光景である。
だが、その正体はポイズンモスの毒だ。
「ギィッ!? ギチッ、ギチッ!」
蟹の動きが狂った。
毒の効果か、それとも視界を奪われた混乱か。
蟹はその場で回転し、デタラメにハサミを振り回し始めた。
その余波でポイズンモスが叩き落とされ、潰れたトマトのように弾け飛んだ。
……すまない、ポイズンモス。
きっちり役目は果たしてくれた。
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