第11話 報酬と選択肢
静寂。
荒い息遣いだけが、ホブゴブリンから聞こえてくる。
終わった、のか?
俺は薄れゆく意識の中で、手元の端末が振動するのを感じた。
『侵入者を撃破しました』
『DPを獲得:20ポイント(戦士)』
『DPを獲得:20ポイント(魔法使い)』
『パーティ殲滅ボーナス:50ポイント』
『合計獲得DP:90ポイント』
端末の文字が、ぼやけて見える。
勝った。
生き残った。
だが、代償は大きすぎた。
俺のHPは、もう風前の灯火だろう。
傷口が熱く、寒いし、眠い。
このまま、出血多量で死ぬのだろうか。
それもまた、凡人の最後としては似合いかもしれない。
ホブゴブリンが、ゆっくりと俺の方へ歩いてくる。
その巨体が、俺の前で膝をついた。
彼は心配そうに、俺の顔を覗き込んでくる。
その瞳には、知性とともに、深い忠誠の色が宿っていた。
俺は震える手で、彼のごつごつした頬に触れた。
「よく、やったな……。お前は、最高の……仲間だ……」
ホブゴブリンが、悲しげに低く喉を鳴らす。
その時、端末が再び明るく輝いた。
『ミッション達成:襲撃者を撃退しろ』
『ストーリークリア報酬を受け取りますか? YES/NO』
報酬。
その言葉に、一縷の望みをかける。
ポーションでも、回復魔法でも、なんでもいい。
俺は最後の力を振り絞り、『YES』をタップした。
ファンファーレのような音が鳴る。
そして、俺の身体が温かい光に包まれた。
「……あ、れ?」
光が傷口に染み込んでいく。
激痛が引いていく。
裂けた肉が塞がり、失われた血液が戻ってくるような感覚。
『レベルが上がりました。LV1→LV2』
『全ステータスが上昇しました』
『【ダンジョン構築】が可能になりました』
『200DPを獲得しました』
光が収束し、俺は深く息を吐いた。
助かった。
俺は生きている。
レベルアップによる回復か、はたまたミッション達成の特典か。
俺は身体を起こし、破れたスーツの隙間から、傷一つない肌を確認した。
スーツは血で真っ赤なままだが、中身は新品同様だ。
「はは……、本当に、ゲームみたいだな」
乾いた笑いが漏れる。
だが、その目は笑っていなかった。
またもや、突然現れる段ボール。
中身は水と缶詰だった。
どうやら食料は、ストーリーのクリア報酬で追加されるらしい。
どちらにせよ、前に進むしかないってことか……。
俺は立ち上がり、物言わぬ死体となった冒険者たちを見下ろした。
彼らが殺したスウやゴブリンたちのことを思うと、同情なんて欠片も湧かなかった。
むしろ、こいつらを養分にして、もっと強くなってやるという暗い決意が胸を満たす。
死体から使えそうな装備品を外す。
大剣、杖の破片、小刀、革鎧。
ホブゴブリンには、岩のこん棒よりは大剣の方が似合うかもしれない。
全ての処理を終え、一息ついた俺の目に、新たなポップアップが飛び込んできた。
『ストーリー』のアイコンに、またあの不吉な赤いビックリマークが点滅している。
俺は覚悟を決めて、それをタップした。
画面に表示された文字を見て、俺は思わず眉をひそめた。
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【ストーリー4:第1の選択】
最初の襲撃者を撃退した『ボンド』。
冒険者パーティ『赤い閃光』がどうやら全滅したらしいという情報は、王都に伝わることになる。
彼らはまだDランクパーティになったばかりであったが、期待の新星として注目されていたのだ。
冒険者ギルドはダンジョンの推奨ランクをCランクへと引き上げることを決定。
Cランクの冒険者パーティは、Dランクとは一線を画している。
ホブゴブリンだけでは戦力が足りないだろう。
『ボンド』は最初の選択をすることとなる。
【選択肢】
1.『深海の塔』へ挑む
2.何もしない
制限時間:1時間51分
(制限時間内に選択しない場合、2を選択したものとします)
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「……選択肢だって?」
俺の足元には、まだ冒険者たちの死体が転がっている。
むせ返るような血の臭いと、焦げた肉の臭いが充満するこの最奥の部屋で、俺は呆然とスマホの画面を見つめていた。
ふと、視線を足元に落とす。
そこには、青い光の粒子が、ほんのわずかに残っていた。
スウの光だ。
ついさっきまで、俺の足にまとわりついていた、冷たくて心地よい感触。
あのプルプルとした愛らしい重みは、もうどこにもない。
「クソッ……」
奥歯を噛みしめる。
悲しむ暇さえ与えてくれないのか。
このふざけたシステムは、友の死を悼む時間すら「無駄」だと切り捨ててくる。
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【ストーリー4:第1の選択】
……
【選択肢】
1.『深海の塔』へ挑む
2.何もしない
制限時間:1時間47分
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画面の文字が、無慈悲にカウントダウンを刻んでいる。
俺は熱くなった目頭を乱暴に袖で拭った。
感傷に浸っている暇はない。
スウが命懸けで繋いでくれたこの命を、ここで無駄にするわけにはいかないんだ。
「考えるんだ……今の俺にできる最善手を」
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