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HP10の凡人おじさん、ダンジョンマスターになる。~魔物合成で世界に抗う反逆譚~  作者: 藍之介


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第1話 ダンジョンマスター

 俺が気が付いたとき、最初に覚えた感覚は背中の冷たさだった。

 まるで真冬の打ちっ放しのコンクリートに直に寝転がっているような、芯まで凍みる感覚。

 安物のせんべい布団がついに寿命を迎えたのか、それとも酔っ払って駅のホームで寝てしまったのか。

 そして俺は、重たい鉛のような瞼を、無理やりこじ開けた。


「……え?」


 思わず間の抜けた声が出る。

 そこには、絶望的なまでの「暗闇」が広がっていたからだ。

 天井のシミも見えない。窓から差し込む日の光もない。

 自分の手先さえ見えないほどの、完全なる闇。

 ここは俺が寝床にしているワンルームアパートではなかった。

 湿気をたっぷりと含んだ空気が、鼻腔を刺激する。カビと、土と、古びた水のような匂い。

 地下の空間特有の、あの淀んだ空気であった。


 起き上がろうとして、身体中に走る激痛に呻く。

 全身の節々が、油の切れたブリキのおもちゃのようにきしむ。


「ぐ、ぅ……なんだ、ここ……」


 手を地面につく。ザラリとした感触。フローリングでもアスファルトでもない。

 これは……、地面? それも、自然そのものの、ゴツゴツとした岩肌である。

 心臓が早鐘を打ち始める。

 拉致? 事件? それともたちの悪いドッキリか?

 俺は慌てて自分の身体を確認する。


 首元にはネクタイ。

 着慣れたビジネススーツ。

 足元には、履き古して色あせがひどい革靴。

 こんな正体不明の暗闇の中で、俺はなぜかきっちりとスーツを着こんでいる。


 混乱する頭で、必死に記憶の糸を手繰り寄せる。

 俺は一体なにをしていたんだっけ……?

 落ち着け、焦らずに一つずつ思い出していこう。


 とりあえず、自分の名前からだ。

 俺の名前は『ボンド』。


 漢字で書くと『凡人』。

 両親がとあるスパイ映画の大ファンで、主人公の名前から付けたそうだ。

 キラキラネーム全盛期とはいえ、我が親ながらあんまりな当て字だった。

 小学校の点呼の時間、先生が「ぼんじん君」と読み間違えるたびに、教室中がドッと沸いたあの恥辱。

 「お前、名前の通り普通だなー!」とバカにされ続け、いつしか俺自身も「俺は所詮、凡人だからな」と卑屈な愛想笑いを浮かべる大人になっていた。


 現代日本で、目立たず、騒がず、空気のように生きてきたサラリーマン。

 それが俺だ。

 よし、ちゃんと記憶はあるようだ。


 昨夜は何をしていたっけ?

 いつものように、残業を終えて、コンビニでストロング缶を買って……。

 そこから先が、どうしても思い出せない。

 頭の中に靄がかかったように、記憶が途切れている。


「誰か! 誰かいませんか!」


 とりあえず、助けを乞うように叫んでみる。

 俺の声は虚しく反響し、闇の奥へと吸い込まれていく。

 ……どこからも返事はない。

 あたり一面を静寂が包んでいる。

 時折、どこか遠くで「ポチャン」という水滴の落ちる音が聞こえるだけであった。

 孤独感が、冷気と共に足元から這い上がってくる。

 俺は、ここにきて今の絶望的な状況を理解し、恐れを感じていた。


 ここでじっとしていても、どうにもならない。

 俺は意を決すると、震える足に力を込めて、暗闇の中を歩き出した。

 革靴が岩場を踏むたびに、カッ、カッ、と乾いた音が響く。

 文字通り壁伝いを手探りで歩いていく。

 数歩進んだところで、冷たく湿った岩壁に指先が触れた。


「行き止まり……か」


 壁伝いに歩けば、いつかは出口か入り口にたどり着くはずだ。遭難時のセオリーだった気がする。

 俺は、時折行き止まりに当たりつつも、壁沿いに進んでいった。

 だが、歩けども歩けども、周囲の景色は変わらない。

 そもそも見えないのだから変わりようがないのだが。

 動物の気配すらないのが、この場所の異様さを感じさせる。


 体感で30分ほど歩いただろうか。

 恐怖で呼吸が荒くなる。

 少し休憩するか。


 俺はその場で、冷たい地面に腰を下ろした。

 一体ここはどこなんだ……。

 ふと、スーツの内ポケットに違和感を覚えた。

 普段なら名刺入れが入っている場所。

 そこに、硬質な板状の感触がある。


「……スマホ?」


 一縷の望みをかけて取り出す。

 長方形で、薄い。手触りはガラスと金属。

 どう見てもスマートフォンだ。

 だが、俺の使っていた機種とは違うものだった。

 メーカーのロゴもなければ、カメラのレンズも見当たらない。


 俺は震える手で、側面にある電源ボタンらしき突起を押し込んだ。


 ブゥン……。


 微かな振動と共に、その「板」が覚醒した。

 闇の中に、淡い青白色の光が広がる。

 暗闇に順応していた目には、その光はあまりにも強烈に映った。


「うっ……!」


 目を細めながらも、俺は画面に食い入るように視線を向けた。

 なにかSOSを発信できるものは?

 電話は?

 地図は?

 ライトは?

 もう、なんでもいい、頼むから現状を打破する機能があってくれ!


 しかし、画面に映し出されたのは、目を疑うものだった。


 電源が付いたスマホのメイン画面。

 そこには見慣れたアプリアイコンも、時計の数字でもない。

 ただ、真っ黒な背景に、白い明朝体の文字で、青いアイコンがいくつか表示されているだけだった。


『ステータス』

『ストーリー』

『ダンジョン』

『魔物召喚』

『魔物合成』


 ……は?

 なんだこれ。

 ゲーム画面か?

 電波状況を示すアンテナマークもない。

 俺は画面をスクロールしたり、もう一度側面のボタンを押してみたりしたが、表示されるのは青いアイコンだけ。

 俺は混乱したまま、恐る恐る一番上の『ステータス』という文字をタップした。


-----------------------------------------------------

名前: ボンド

職業: ダンジョンマスター LV: 1

HP: 10/10

MP: 5/5

筋力: 3

魔力: 2

耐久: 3

俊敏: 3

運 : 10


【スキル】

魔物合成(LV:1)


【実績】

なし

-----------------------------------------------------


「……おい、冗談だろ」


 乾いた笑いが漏れる。

 『ボンド』は俺の名前。

 名前の下の『職業』欄に【ダンジョンマスター】と記載があった。

 ファンタジー物のネット小説やゲームなんかで出てくるやつか?


「俺が……? 凡人の俺が、ダンジョンマスター?」


 ありえない。夢だ。

 これは間違いなく、悪い夢だ。

 俺は周囲を見回した。どこかに隠しカメラがあるんじゃないか?

 最近は動画サイトに投稿される企画でも、桁違いの金をかけているドッキリもあるだろ?


「おい、出てこいよ! ネタバラシしてくれよ!」


 暗闇にに向かって叫ぶ。

 だが、返ってくるのは自分の声の反響だけだった。


 スー……ハー……。

 俺は一旦落ち着くために、ゆっくりと深呼吸する。

 こういう時こそ冷静さが大事だ。

 多少でも培ってきた社会人経験から、自分に言い聞かせる。


 改めてスマホ?の画面を見る。

 HP10、MP5、筋力3 ……。

 数値の基準はわからないが、ゲームなら初期装備のスライムにすら負けそうな数値だ。

 凡人の名に恥じぬ、圧倒的な弱さ。

 ここだけ妙にリアリティがあるのが腹立たしい。


 ところで、MPって、マジックポイントのことだよな……?

 もしかして魔法が使えたりするのだろうか?

 俺は手をかざして、うんうんと唸ってみるが、当然のように何も出てこない。

 体に異変も感じないし、ネット小説とかでよくある「体内で暖かい力を感じる」こともない。

 あれこれ試してみたが、やはり何も起きないので諦めることにした。


 あと気になるのが……。

 スキルの「魔物合成」だよな。


 スキルと書いてある欄に一つだけ記載されている。

 ネット小説だと、こういうのが大抵チートスキルだけど……。

 魔物もいない今は、試すこともできないな。

 非常に気になるが、一旦横に置いておこう。


 俺はもう一度スマホの画面に目を移す。

 ステータス画面から戻り、次のアイコンの『ストーリー』をタップしてみた。

 映し出された画面を見て、再び驚愕する。


-----------------------------------------------------

【ストーリー1:初めての召喚】


転移者の『ボンド』は、生まれたばかりのダンジョン内で目を覚ます。

自分がなぜダンジョンにいるかもわからず、途方に暮れる『ボンド』。

周囲は暗闇に包まれており、所持品は、ダンジョンマスターに与えられるダンジョン管理デバイスのみ。

何もしなければ、このまま餓死してしまうだろう。

彼は一縷の望みをかけて、魔物召喚を行った。


ミッション:魔物召喚を行う

制限時間:9日17時間34分

-----------------------------------------------------


 なんだこれ?

 心臓の音がうるさい。

 パニックになりそうな自分を、必死に理性で抑え込む。

 そこに書いてあったのは、まさに今の自分の状態であった。

 ミッションなんて……、まるでゲームじゃないか!

 ここが”生まれたばかりのダンジョン”だって?

 それに、制限時間ってなんだよ。

 頭の中で、様々な疑問や突っ込みが反芻する。


 食い入るように画面を見つめていると、制限時間の表記が変わっていくのに気づく。

 やはり時間が経つにつれて、制限時間がカウントダウンされているようだ。

 これが”0”になってしまったら、一体どうなるのだろうか……。


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