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地味なニート追い出したら家計が傾いた

作者: 神楽 柘榴

物語は、ふと思いついたときに形を成します。

基本的に年齢を問わず楽しめるものを綴っていますが、

言葉の輪郭が曖昧になることもあるかもしれません。

それもまた、ひとつの味として受け取っていただければ幸いです。

 ああ、顔が熱い...

 全身びしょ濡れだ...

 目の前には僕のパソコンが煙をあげている...

 僕は人生で最も絶望的な瞬間にいた。しかし、同時に飛び上がりそうなほどの嬉しさも感じていた。


 僕は榊原冬馬(さかきばらとうま)29歳。訳あってずっと家でパソコンをいじっている。

両親と3つ年上の兄の大輔(だいすけ)がいて、兄は僕と違って顔がよく人気俳優でもあるため、

昔から両親に溺愛されていた。

 その一方で、僕は顔が普通で誕生日すら祝ってもらったことがない。

理由を聞けば、「顔が魅力的ではないから。」だそうだ。

 正直言うと、学歴は僕のほうが優秀である。しかし、兄が気晴らしに受けた俳優オーディションでたまたま合格してから、両親は仕事をやめて兄のすねをかじるようになってしまった。

 そんなある日のこと、僕がいつものように自分の部屋でパソコンを触っていると、勢いよくドアが開いて兄が出てきた。なんか嬉しそうだ。「よう、冬馬。これから大事な話があるからリビングに来い。急げよ!」そう言って部屋の外のリビングに行ってしまった。「なんだろう?僕も話に参加させてくれるなんて珍しいな...。なんか嫌な予感がするけど、行ってみるか。」そう思った僕はリビングに向かった。

 すると、そこには家族全員がテーブルを囲んで座っている。しかも満面の笑みで。

僕が空いた席に座ると父と母が口を開いた。

「冬馬、よく聞くんだ。」

「大輔が今度結婚することになったのよ。」

それを聞いた僕は「もしかして式に呼んでくれるとかかな?」と淡い期待を抱いて聞いた。

しかし、それはなんとなく予想していた絶望的な言葉だった。

「冬馬、お前家を出なさい。そこを大輔の妻の部屋にするんだ。」

「...え。なんで?僕は邪魔なんかしないよ。」

そう、僕はひきこもりで家族とは普段は話もしないんだ。なのに、どうして...

「だって、あなたニートでしょ?いつも家にいるし。」

「...えっ。それが理由?僕、ニートなんかじゃ―」

言いかけたが、兄に言葉を遮られてしまった。

「別にいいだろ?俺の妻嫌がるだろうし。だいたいお前顔が普通じゃないか。」

「また顔の話?あのね、僕がいないとこの家庭は―」

「ああ、もううるさいわね!さっさと出ていきなさいよ!」

そう言って母は僕にホースで熱湯をかけてきた。

「うわ、やめて。熱いよ!」

「それならこうよ!」

すると、兄がなぜか僕のパソコンを持ってきて、そこに母が熱湯をかけてきた。

バチッ!!

僕のパソコンは煙をあげて壊れてしまった。

「ああ、何してくれるんだよ!?」

そのときふと思った。こんなやつらに振り回される必要はもうないのではと。向こうは僕をニートと勘違いしているようだし、千載一遇のチャンスだ。

「わかった。出ていくよ。荷物取りに行くから待っててね。」

そう言って僕は家をあとにした。

 このとき、僕は微笑みを浮かべていた。なぜなら―

僕がこの家の大黒柱だったからだ。


 冬馬が出て行って2か月後―

 榊原家は極貧生活を送っていた。

 実は俺の仕事が急に減ってしまったのだ。しかも、父と母がわずかな給料をすぐに使ってしまうため、食べるものも買えない状況だ。

「父さん、母さん。もう少し家計を見直せよ。もうすぐ結婚式なんだから、こんな親がいるだなんて言えないよ。」

 なんで、こんなことに...すると、妻(になる予定)から電話がかかってきた。

そして、告げられたのは衝撃の一言だった。

「冬馬様から聞きました。そんなことをする人とは生活できません。結婚の話は白紙にしてください。」

「えっ!待てよ。結婚はなしってなんで?ていうか、冬馬のことなんで知ってるんだ?話してないのに...というか、様ってなんだよ。あいつはニートだぜ?」

すると、妻、いや元カノは深いため息をついて、

「何を言っているのですか?榊原冬馬様は大手IT企業『煌電(こうでん)システムズ』の幹部ですよ。よくネットニュースに出ているじゃないですか。」

そう言って電話が切れた。その場に沈黙があったあとすぐに俺は冬馬のことを調べた。

 すると、冬馬は入ったばかりのころはシステムエンジニアだったが、会社のシステムをハッキングされたときに素早く対応し、そのうえ犯人まで特定したという手柄により、今や世界で活躍するホワイトハッカー兼セキュリティエンジニアだそうだ。

 それを知った両親と俺は同じことを考えていた。

―冬馬にお願いして仕送りをしてもらおうと


 あの家を出てから僕の生活は明るかった。会社の仕事に集中できるようになったからだ。

 そして、今日は海外のセキュリティソフトを改良するため空港にきていた。

 すると、何やら騒がしい。よく見ると、僕の家族が来ていた!

「冬馬、会いたかった。頼むから金貸してくれ」

いきなり来て謝罪もなしか。まあいい。僕も話したいことがあるから。

「嬉しいよ。来てくれて。僕も渡したいものがあるんだ。」

そして、僕は胸ポケットから1枚の紙を出した。

「なんだ?小切手か?...こんな大金を出してくれるのか。さすが俺の弟だ。」

「何言ってるの?それは請求書だよ。君たちが熱湯をかけて壊したパソコンのね。」

そう、あれは特注品でなかなかお目にかかれない高級品だ。

「それに大輔さん。あなたは最近仕事が減ったよね。それはほとんどの仕事を会社から事務所に言づてにお願いしてたからだよ。」

それに驚いた家族たちは、さらに尋ねる。

「じゃあ、なんで家にいつもいたんだよ。会社に通わずに。」

「知らないの?『在宅ワーク』それで仕事してたんだよ。家にいたのは散財癖のある家族のために家計を管理していたからなんだ。」

 そのことを聞いた家族は膝から崩れ落ち、絶望していた。パソコンを壊された僕以上に。

そして、彼らは警備員に連れていかれた。

 その後のことはよく知らない。


 その後、僕は世界中を回ってセキュリティ対策を強化していた。今じゃ日収だけで家が何件か買えるくらいのエリートだ。

 僕はこの先何をしていくか考えていた。そろそろ結婚も考えていいんじゃないかと。

 そのときは「人を見た目で判断せず、自分を磨ける人を相手にしよう」と心に誓ったのであった。

※本作に登場する表現は、登場人物の視点・過ちとして描かれており、特定の個人や立場を貶める意図はありません。

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