後始末 その3
ルティアセスは蒼白になって床を眺めている。いや、床すらも見ていないのかもしれない。
「ルティアセス卿、答えろ!」とレーネットに命じられると、ルティアセスはのろのろと顔を上げた。それはレーネットが知るルティアセスではなかった。10歳ほど老け込んで、別人のような容貌になっていた。
「ご案内します。どうぞこちらへ」と言って、ルティアセスは広間を出て地下に通じる階段へと一同をいざなった。地下は室温が低く、ひんやりしているが、風通しがないためいろいろな匂いが混ざり合って異臭を漂わせていた。ルティアセスは最も奥にある扉の前に立った。
「サインフェック副伯はこちらにいらっしゃいます」
まともな人間が、こんなところで寝起きしているはずがない。一同は顔を見合わせて、結局レーネットに視線が集まった。扉を開ける役は、レーネット以外に考えられない。
レーネットも人に任せるつもりはなかった。取っ手をつかむと、扉を引き開けた。
何もない部屋の中央に、棺が安置されていた。
「かなり時間がたっております。棺はお開けにならない方がよいでしょう」と、ルティアセスは震えながら口を開いた。
レーネットは棺の横に跪くと、拳で棺の蓋を一撃した。そして、拳を蓋に押し付けたまま動かなくなった。
「何があったのか、話してもらうよ」とウィンが静かに、しかし有無を言わさぬ低い声でルティアセスに命じた。
「サインフェック副伯は、ロンセーク伯と話をしに行くとおっしゃり、デズロントと共にプルヴェントを出立されたのです。しかし、すぐに戻ってきました。いや、サインフェック副伯のご遺体をデズロントが運んできた、と言うべきでしょうか」
ルティアセスは言葉を切り、深くため息をついた。
所々に蝋燭が立てられているが、城の地下は暗い。ルティアセスの表情は誰にも見えなかった。
「デズロントが言うには、ロンセーク伯のところに向かおうとするサインフェック副伯をお止めした際、誤って死なせてしまったとか。我々はサインフェック副伯の死を伏せるしかなかったのです」
スハロートとデズロントがプルヴェントを出て行った後、何があったのかはルティアセスも正確には知らない。後頭部を強く打ち付けたことがスハロートの死因になったようだった。他に外傷はなかった。
デズロントに殺意があったのなら、もっと確実な殺し方をしたはずだ。




