決着 その1
スルデワヌトは、レーネット軍の予想以上の粘りに半ばあきれ、半ば感心していた。レーネット軍はアルテヴァーク騎兵との戦い方をよく心得ている。戦力の8割を投入してレーネット軍を波状攻撃し、かなりの損害を与えているはずだがレーネット軍の陣形にはほとんどほころびが見られない。
レーネット軍を遠望していたスルデワヌトの目が、敵陣に今までにはない動きを捉えた。遠過ぎて子細が見えないため、本陣を300メルほど押し出した。レーネット軍の右翼に監察使の軍旗がはためいているのが見えた。監察使の軍使とやらが持っていたものと同じ意匠なので間違いない。つまり、スハロート軍を敗退させてレーネット軍に合流したというわけだ。
「ルティアセスめ、使えぬ男だったな」
監察使軍は山麓沿いに横陣を展開したようだ。監察使軍が布陣した場所は、高さはさほどないが台地状の地形なので騎兵突撃は不可能だった。レーネット軍に気を取られている間に厄介な場所を取られた。ただし、監察使軍の主力は歩兵なのでアルテヴァーク騎兵に対して攻勢に出ることはないだろう。歩兵では騎兵に追い付けない。
ただし、アルテヴァーク騎兵もかなり消耗していた。500騎を1単位として編成し、順番に一撃離脱戦法を続けていた。レーネット軍を攻撃した後、他の隊が攻撃している間は休めるとはいえ疲労は蓄積する。特に馬の疲労が問題だった。そろそろ馬を捨てて、歩兵として戦わせる時期かもしれないとスルデワヌトが考えていたとき、敵左翼から500騎ほどの騎兵が突出してアルテヴァーク騎兵の一団を粉砕した。続けて、レーネット軍歩兵に騎兵突撃しようとしていたアルテヴァーク騎兵に横槍を入れて、この隊も壊滅させられた。
レーネット軍の騎兵もアルテヴァーク騎兵と何度も交戦して消耗しているはずだった。あれだけ軽快に戦場を駆け回れるのは監察使軍の騎兵しかない。さらにアルテヴァーク騎兵を狩ろうとしている監察使軍騎兵を見て、スルデワヌトは初めて逆上した。
「あの目障りな騎兵を駆逐する。続け!」と命じ、予備兵力として温存していた直属の2000騎をスルデワヌトは動かした。4倍の兵力で監察使軍騎兵を一気に殲滅するのだ。
監察使軍騎兵は、スルデワヌト本隊の2000騎が殺到してくるのに気付くと一目散に逃げ出した。だがアルテヴァーク騎兵を狩るために駆け回っていたからか、速度が出ない。スルデワヌトに一気に距離を縮められた。
この様子を監察使軍本陣で眺めていたウィンは、「やあ、かかったね」と言ってわははと笑った。
もちろん、スルデワヌトには聞こえなかった。




