開戦 その2
戦闘時、フォロブロンは監察使軍の騎兵部隊を指揮するためウィンの近くには居られない。ウィンの近くには、不在のベルウェンに代わってラゲルスが配置された。ラゲルスはベルウェンを一回り大きくしたような男で、盛り上がった筋肉で袖がはち切れそうになっている。見た目に違わぬ武勇を誇るが、細かいところにも気が回る頭脳派でもある。彼がウィンの護衛兼ウィンの指揮の補佐を務める。
もちろん、20人ほど護衛の兵もウィンの周りに配した。いずれにせよ、この監察使軍司令部が戦闘に巻き込まれるようでは戦いは負けなので、彼らの役目は戦うことではなくウィンを逃がすための時間稼ぎになる。
レーネット-ウィン連合軍は、今のところアトルモウ城に向かうともダウファディア要塞に直行するとも決め難い経路を選んで進んでいる。スハロート-スルデワヌト同盟に対する陽動である。攻城戦では防御側が圧倒的に有利だが、どこを攻めるかを選べるという点では攻撃側に利点がある。会敵に有利な地点に移動するまではその優位を活かしたかった。
「敵が籠城するという可能性はないのでしょうか」とムトグラフが遠慮がちに質問した。
「あるよ」
「え?」
「あるよ」
「そうなのですか?」
「そうなのだ」
別にウィンはふざけているわけではない。質問に率直に答えているだけで他意はない。だがこれでは、いつものことだが話が進まない。フォロブロンが代わりに説明を始めた。
「籠城にも利点がある。敵の拠点は2つ。こちらにはそれを同時に攻めるほどの兵力がない。よって、どちらかを全力で攻略することになる。敵は籠城して攻撃を防ぎつつ、もう一方の拠点から我々の背後を突くことができる。もう一方からの攻撃に備えるためには、攻城戦のための戦力を割くしかない。これでは攻撃が中途半端になり、戦いがいたずらに長引くことになりかねない、というわけだ」




