寄り道 その3
「では恐れながら申し上げます。陛下がサインフェック副伯のご心配をされるのはご無用。帝国のことは帝国がしかるべく計らいますので、陛下は自国の繁栄のみをお考えください」
「だがこうして参った以上は国への手土産が必要だ。手ぶらでは無能の物見遊山との誹りは免れまい」
「サインフェック副伯に勝ち目はありません。敗者に付き合って滅びの道を歩む方がはるかに屈辱となりましょう」
「言うではないか。だがサインフェック副伯が負けようとも余が勝てばよい」
「戦には流れがございます。サインフェック副伯の敗北は陛下の足をすくうでしょう」
スルデワヌトを前にして、ここまで言い放った者は初めてだった。その点には感心したが、言っていることは「退け」というだけで妥協点は見えなかった。
「アデン、言いたいことは分かった。他に言うことがなければ話は終わりだ。主の下に帰るがいい」
「では最後に一つだけ。陛下が敗走する際、監察使は追撃致しません。安心してお帰りください」
アデンの申しように、スルデワヌトの家臣たちは殺気だった。剣の柄に手を掛けて前に出た者もいる。スルデワヌトはそれを醒めた目で制して笑った。
「なるほど、監察使殿は余を見逃してくださるか。それは安心なことだ」そう言うと、すっと立ち上がって立ち去った。交渉終了だ。
スルデワヌトにその意志がなくても、その家臣たちがアデンの安全に配慮するとは限らない。長居は無用とばかりに、アデンは馬に乗ると全力で帰投した。
取りあえず、ロンセーク伯が戦っている間の時間稼ぎはできただろう。




