寄り道 その2
「お待ちを! 軍使なら軍使らしい格好をさせないと」とムトグラフが制止し、急ごしらえでアデンを軍使らしい格好に仕立て上げた。軍使は白装束に白い頭巾を被るのが慣例だ。この白装束は神への誓いを表す。軍使を受け入れた側は、その誇りに懸けて白装束を真っ白なままで送り返すのだ。この白装束を血で染めることがあってはならないとされている。
何とか形にはなったが、「でも心配ですねぇ」とムトグラフはブツブツ言っている。対するウィンはというと「大丈夫大丈夫」と、取り付く島もない。
こうして、リッテンホム城からデルドリオン方面に少し進んだところで監察使軍は停止し、アデンが一人アトルモウ城に向かった。そしてその途中、アトルモウ城から進出してきたスルデワヌトの軍と行き会ったのだ。
「監察使ヘルル・セレイス・ウィンにお仕えしておりますアデンと申します。拝謁の栄を賜り、恐悦至極でございます、陛下」
スルデワヌトの御前に引き出されたアデンは、跪いて口上を述べた。眼前のスルデワヌトは噂に違わぬ覇王の風格を備えている。
「アデンとやら。お前はいつ、いやどの地点で監察使から遣わされた。監察使軍はもう全滅したのではないか?」
「私が監察使軍から離れましてから日が15度ほど傾いたかと。監察使軍はそこに停止して私の帰還を待っております」
「何?」
スルデワヌトの顔が険しくなった。そんなところに監察使軍がいるというのか。スルデワヌトの計算では、監察使軍はロンセーク伯との合流を急いではるか前方を進んでいるはずだ。なぜそんなところをうろうろしているのか。
「先発したアルテヴァーク軍でしたら、ロンセーク伯がお相手しておりましょう」
スルデワヌトはアデンの言葉に驚きはしたが、今度は表情を変えなかった。最初と同じく鋭い目つきでアデンを眺めているだけだ。
「して、軍使殿は余にいかなる用か。聞こう」




