プルヴェント占領 その1
「監察使が動いた?」
監察使の宿営地を監視していた家臣からの報告に、レーネットは困惑した。あの男は一体何をしようとしているのか。
「デルドリオン近郊に駐留していた全軍を動かしたようです。ラモリーン街道を南下しているとのこと」
「プルヴェントに向かっているということか。監察使とスハロートの間で何があった。同盟か、敵対か」
いずれにしても、事態の急変に備えて兵を動かせるようにしておくしかない。今すぐ動かせる兵はワルフォガルに駐留させているレーネット派貴族の兵とワルフォガルの周囲に領地を持つ貴族の兵で、せいぜい2000といったところだ。レーネット派の兵を手近に集めておく必要がある。
レーネットは故アルサースの弟であるヴァル・プテロイル・バルデールを呼び寄せた。アルサースには子がなかったので、バルデールにプテロイル家を継がせたのだ。
「バルデール、領主たちに参陣するように伝えてくれ」
これで、1週間後にはワルフォガルに少なくとも3000の兵が集まるだろう。
レーネットの下に「監察使軍動く」の報が入った頃、ウィンたちは既にプルヴェントの近くに到達していた。純軍事行動になるため、商人や娼婦たちの一団はデルドリオンに置いてきた。アディージャは真っ赤な布を振って監察使軍を見送った。誰のために振っているのかは分からない。
ウィンはプルヴェントを半包囲するように軍を布陣させると、プルヴェントに使者を派遣した。
「プルヴェントは直ちに開城し、帝国監察使軍の占領下に置かれること。抵抗しなければあらゆる生命、財産の安全は保証する」
プルヴェントが開城を拒んだ場合、実のところウィンには打つ手がない。たった3000の兵では街を落とすことなど不可能だった。1年くらい兵糧攻めにでもすれば開城するだろうが、そんなことをしている暇はない。プルヴェントを落とさなければならない訳でもない。
ウィンが派遣した使者に伴われてプルヴェント側の使者がウィンの本陣にやって来た。スハロート派の貴族が出てくるのかと思ったら、平民の市行政官だった。ルティアセス他、貴族たちは監察使軍接近の知らせを受けると逃げ出してしまったのだという。
プルヴェント側の使者は、「監察使軍に占領される覚えはない」と言ってウィンの要求に抗議した。
フォロブロンは使者との交渉役に任命されて嫌な顔をしたが、「今回は強面外交だから」とウィンに説得されて引き受けた。ウィンのやる気のない顔では、いくら高圧的な態度を取っても効果がないだろう。
アレス副伯という立派な貴公子のフォロブロンが端正な顔を無表情にして迫ると、身分が低い者に対しては非常に効果がある。その後ろにベルウェンが同じく表情を殺して無言で立っているのだから相当怖い。ウィンとムトグラフは不適任ということで奥に引っ込んだ。




