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愚者たちの輪舞 ―ブランタール公の凱旋―  作者: 中里勇史
反撃

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グライス軍出陣

 皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍は、トローフェイルの包囲を完了した。


 自隊の手配を終えたアークラスムが、「う~む」と言いながら戻ってきた。


「なあ伯爵(ウィン)、グライス軍に合流するってわけにはいかないんですかい」

「うん、いかない」

「それだけ!?」

「もう少し丁寧に説明したらどうだ。手を抜くな」


 フォロブロンがたしなめる。


「なるほどそういうものか」


 ウィンは、わははと笑いながら頭をかいた。


「アークラスムの疑問は、兵力集中の原則の観点では正しい。皇帝軍とラフェルス・カーリルン軍も合わせた兵力で敵主力を殲滅できれば理想的だ」


 「ただ……」と言って、ウィンは地図を人さし指でコツンとたたいた。


「グライス軍との間には敵の占領下にある街がある。恐らく、各街に主力軍の一部が駐留している。グライス軍への合流を優先すると、各街に駐留している主力軍の一部に背後を衝かれる恐れがある」

「だから動かない、ってことですか」

「トローフェイルにも主力の一部がいる。我々は、トローフェイルに駐留している兵が主戦場に参戦できないようにしておく。これで、主戦場はナインバッフ公(ケルヴァーロ)が若干有利になるはずさ」


 ウィンは、一気に説明すると水筒の水をあおった。


「なるほど。面白い包囲戦になりそうですな」


 アークラスムは、そう言って街を眺めた。


「つまり、ヌヴァロークノ軍は各街に分散することで姿を消し、かつ補給の問題を軽減しているんだろう」


 レンテレテスが地図を眺めながら顎をさする。


「この状態を長く続けるわけにもいかぬでしょう。ヌヴァロークノ軍は、グライス軍を殲滅してオルドナ伯領の支配権を確立したいはず」

「そうだね。ヌヴァロークノ軍とグライス軍は近く衝突する」

「グライス軍に合流するのが危険である以上、グライス軍を少しでも楽にすることを目標にすべきだろうな」と、フォロブロンが続けた。

「トローフェイルはどう出ますかね?」

「トローフェイルにいるヌヴァロークノ軍は、本隊に合流したいだろうな」


 アークラスムの疑問に、オルロンデムが答える。


「この状況は……」


 レンテレテスが嫌そうな顔をした。


「ザロントム攻防戦を思い出すな」


 フォロブロン以外の全員が顔をしかめる。

 フォロブロンはザロントム攻防戦に参加していない。


「攻囲側は敵を挑発して城外に引きずり出そうとする。籠城側は、出陣を戒めて閉じこもろうとする。ところが、籠城側は出陣したい、攻囲側は出陣させたくない、と」

「トローフェイルを無理に落とす必要はない。グライス軍が勝つまでの間、敵の一部を拘束しているだけでいい。まあ、そういうわけだよ。アークラスム」

「本来の人口の何倍ものヌヴァロークノ軍を抱えた街が長く籠城するのは難しい。兵糧攻めを続けていればそう遠くない未来に降伏する可能性もあるな」


 フォロブロンが、蓋然性の高い観測を口にする。


「仕上は、ナインバッフ公(ケルヴァーロ)にお任せするとしよう。うん、今回は楽ができそうだね」


 ウィンはわははと笑った。



 ヌヴァロークノ軍出現の報がケルヴァーロの下にもたらされたのは二月四日。その前日の二月三日に、約二万の軍勢がミラロール南東三十キメルほどに位置するゲルペソルから出陣したという。


「二万? 少ないな」


 ヌヴァロークノ軍本隊は五万を超えるとみられていた。


 ファウフェレスは首をかしげた。

 サンツァーツは顎を指で摘まんだまま考え込んでいる。

 ケルヴァーロは腕組みをして天井を見上げた。


 観測から導き出された予想値、報告の信憑性、仮説、願望。これらをどう整合させるか。報告を願望と直接結び付けるのは最も悪手だ。

 「出現したのは二万だった。実はその程度の兵力だったのだ」という安易で魅力的な結論を出せば間違いなく敗北する。

 ケルヴァーロは顔を天井に向けたまま、横目でヨーレントを見た。


「ヨーレント卿、ヌヴァロークノ軍はポルセアルに向かっているのか?」

「いえ、ゲルペソルから五キメルほど南下したところに布陣しました」

「五キメル南か……。サンツァーツ、どう見る?」

「罠ですな」

「やはりそう思うか」


 ファウフェレスはオルドナ伯領の地図を思い浮かべた。そこに各街を配置する。


「トローフェイル、ポルセアル、アンネーメル……。我々がヌヴァロークノ軍に向かって北上すると、各街からヌヴァロークノ軍が出陣してきて包囲される、ということか」


 ケルヴァーロは天井を見上げたままニヤリと笑った。嫡男も軍議に付いてきている。

 サンツァーツはファウフェレスに向き直り、「ガルトザーレ伯(ファウフェレス)の推測通りかと」と言って肯定した。


 ナインバッフ・グライス軍も五万強に達したが、各地の守備にも兵力を割かねばならない。会戦に投入できる兵力は四万程度だ。五万強の敵に包囲されれば勝ち目はない。


 ケルヴァーロは目を閉じて沈黙した。

 ケルヴァーロは頭の中で兵を動かし、戦わせた。無数の作戦、無数の敵の動きを作り出して、何度も戦いを想像した。

 一同はそのケルヴァーロを見守る。


「よし、決めた」


 ケルヴァーロは目を開くと、一同を見渡した。


「小細工は面倒だ。ゲルペソルから出てきた敵を一気に殲滅する」

第四章は、残り5話。

ついに姿を表したヌヴァロークノ王国軍。

その主力の殲滅に向かうナインバッフ・グライス軍。

次回「ゲルペソル会戦 その一」、お楽しみに!


『公爵親子・主従の優雅な休日』(https://ncode.syosetu.com/n8484mm/)を先にお読みいただくと、ケルヴァーロらにより感情移入できると思います。

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