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真紅の女神  作者: 彷徨いポエット
第四章 告げられた絶望
21/29

4 捜索

 リリス達は、キリコの買ってきた服を片手に、ユニコーンに戻ってきた。


「必要なのは、情報収集に長けた人間と、銃撃戦を考えて、銃器に長けた人間。あとは……」


 リリスが宙を見つめながら指折りに数を数えだす。


「一応、応急処置ができる程度でいいから、看護兵の知識を持っている人間も欲しいわね」

「私、持ってます」


 キリコが手を挙げる。辛い状況下であるにもかかわらず、笑顔を絶やす事なく、リリスの清涼剤の役を担っている。それを見て、フェリアシルは思わず苦笑をする。


「じゃぁ、キリコは確定ね。後は、銃器に長けた人間というなら、ラッセンと私が同程度だけど……」

「どれくらい?」


 リリスの言葉に、フェリアシルは少しだけ思い出すように顔を天井に向ける。


「動体射撃で私が四十七点。ラッセンが四十四点。一応、スコープ無しで」

「はぁ……。すごいですねぇ。スナイパー部隊並みですね」

「そうなの?」


 フェリアシルの言葉に素直に感心するキリコと、不思議そうな顔をするリリス。


「……リリス、あなた、もしかして去年の公式記録会の平均値、知らないの?」

「ん? 私は自分のベストを尽くすだけ。他人の数字に興味はないわ」


 あっさり答えるリリスにキリコが大きく溜息を吐く。


「去年の平均値は三十三点です」


 因みに私はスコープ付きで二十二点でした、と申し訳なさそうにキリコは付け加えた。


「へぇ……。じゃぁ、平均以上なんだ」

「あなたが異常なの。動体射撃でスコープも使わずに、常時百点出す人間なんて、リリス以外に知らないわよ」


 呆れた口調でフェリアシルは答えると、腰に手を当てる。


「この艦で、銃器に長けた人間という条件を満たしているのは、リリスを除いて、私とラッセンの二人。情報収集という観点から見てもラッセンは外せないわね」

「ふぅん……。信じているんだ?」


 フェリアシルの言葉に、リリスは含み笑いを浮かべる。


「な、何よ? 単に純粋な事実を述べているだけよ。あと、私も行くわ。今、この艦に必要なのは指揮官ではなくて『あなたのHAT』アルテミスを完成させる為の技術系の人間と、補給作業に必要な人間だから、そういう意味では、私は用無し」


 僅かに顔を赤くし、視線を背けながらも反論だけはする。


「わかった、わかった。まぁ、情報収集という意味だけなら、キリコが誰かに引けを取るとは思えないけど、四人でいい? 少数精鋭が基本だけど……」

「私はもう一人くらい欲しいわ。キリコの銃の腕を踏まえると、ね……」


 フェリアシルがそこまで言うと、足を止める。コンピュータールームの中から出てきたアルバートを目に留めたのだった。


「あ、リリスさん。もういいのですか?」

「え、と。そう言っていられる状況じゃないし……」

「アルバート、あなた、銃器の腕前はどの程度?」


 リリスが戸惑うのを横目にフェリアシルが切り出す。


「はぁ? 何を突然? 私は去年の公式記録会でスコープ無しで三十六点ですが?」


 いきなりの質問にそれでも律儀に答える。


「へぇ……。じゃぁ、平均以上なんだ」

「平均というのは総じて、真ん中より僅かに下回るものですよ」


 リリスの言葉にアルバートは僅かに溜息を吐くと、自分の頭に指をあてる。


「そもそも、連邦軍の動体射撃の平均値を、一人で無理やり引き上げている人間が言わないでください。それから、私の仕事は頭脳労働です」

「……それ、私がバカってこと?」


 目を細めるリリスにアルバートは慌てて手を横に振る。


「そもそも、何の話をしているのかを教えてください。でなければ、私の銃器の腕前が話題になるのかが理解できません」

「リチャード捜索の話よ」


 返ってきた言葉にアルバートは、なるほど、と相槌を打ってから驚いた声を上げる。


「どこにいるのか、わかったのですか!?」

「それは『頭脳労働派』のアルバート君が、きっちり『見つけて』くれたのでしょう?」


 リリスの棘が多分に入った言葉にフェリアシルが、災難ね、と呟く。


「すぐに行くから、準備よ、準備。キリコは応急処置用具の用意。フェルはラッセンを呼んできて。アルバートは場所の特定!」


 最後の言葉だけやけに強調して指示を出す。


「は、はい!」


 アルバートは大きく弾かれたように背筋を伸ばし、敬礼をする。


「あ、敬礼はいらないわ。それよりも急ぎなさい。自分の一番得意で目立ちにくい銃器を用意すること」


 リリスは意地悪く笑みを浮かべると、自分の部屋に向かった。



 惑星アロマの首都テラフ。人口数百万といわれる都市は、中心から約三十キロ圏内に中流以上の裕福な人間が住み、そこから外側はどこまで続くのかわからないスラム街が展開されていた。そこに男二人と女三人の組み合わせが足を踏み入れていた。


「こういう場所はあまり好きじゃないのよね」


 リリスが溜息を吐きながら呟いた。


「意外ですね。私にはリリスさんが苦手としている場所があるとは思いませんでした」


 ラッセンの言葉にリリスは振り返る。


「正確に言うと『苦手』よりも、妙に『悪意』が多過ぎて、それが『殺意』なのか『敵意』なのかが、わからないのよ、ね!」


 言葉の途中でリリスは、ホルスターに収めていた銃を、真横を通り過ぎようとした男の後頭部に押し当てる。


「な、何するんだ!? 姐さん!」


 抗議の声を上げる男にリリスは冷徹な笑みを浮かべる。


「ん? どうでもいいけど、今、私の懐からすった財布を返してもらえる?」


 リリスはそのまま空いている左手を男の方に差し出す。


「スリの腕自体はすごいかもしれないけど、狙った相手が悪かったわね」

「わ、わかったよ、悪かった! 今返すから!」


 男は慌てて自分の懐から女物の財布を取り出し、リリスの左手の上に置く。財布が手の平に乗った瞬間、リリスは笑みを浮かべたまま、銃の安全装置を解除した。


「これ、何の冗談?」

「か、返しただろ!?」


 再び上がる抗議の声にリリスの瞳が冷たい光を放っていた。


「中身、入ってないわよ?」


 笑みは浮かべたまま、静かに凄みを利かせる。その表情に男は諦めたかのように、別のポケットから数種類のカードと紙幣を取り出す。


「素直でよろしい。で、ついでで悪いけど、この男の居場所、知っているかしら?」


 リリスは財布を懐にしまうと、そのまま写真を一枚取り出す。


「じょ、情報なら、それなりの対価が……」

「いいわ。素直に吐いたら、この世で後悔をする権利。吐かないのなら、あの世で後悔をする権利をあげるけど、それでいい?」


 引き金に指をかけたまま、リリスは男の額から銃口を僅かに離す。


「わ、わかった! 言うから、その物騒な物を収めてくれ! その男なら、ここから南西に一キロくらいにある、オリーブっていうホテルの廃墟に隠れている!」

「事実なの? 嘘をついても構わないわよ?」


 ただし、と付け加えて、再び銃口を男の額に触れさせる。


「奉龍教団の人間とかも入って行った! 間違えようがねぇよ、あの装束は!」

「わかった。これ、情報料ね」


 銃口を離し、安全装置を戻すと、男の口に紙幣を数枚ねじ込む。


「と、いう訳で、結構簡単に情報が、て……何、固まってるのよ、あんたたち?」


 リリスは振り返ると、呆れた表情と驚いた表情を浮かべる四人に疑問を口にする。


「誰が、こういう場所は好きじゃないんですって?」

「私には非常に慣れているように見えましたが?」


 フェリアシルとアルバートの言葉に、リリスは苦笑を浮かべる。


「まぁ、この手の相手はフォボスでは日常茶飯事だったけど……」


 そこまで言うと、リリスは声を下げる。


「尾行されているわよ、私たち。距離で大体、二百から三百。つかず離れずといったところかしらね。いい腕をしているわ」


 あからさまに表情を変えると、男の指した南西方向に足を向ける。


「いいの? 尾行されているんでしょ?」

「だから、さっきも言ったように『悪意』が多過ぎて、わからないんだって」


 フェリアシルの疑問にリリスはそう言うと、歩き出す。


「やりたいのなら、させておくわ。で、ギリギリのところで、私とキリコ、それとアルバートでそっちは片付ける」

「わかったわ。それじゃぁ、ホテルの中には先に私たちが入り込むのね?」


 フェリアシルはリリスが頷くのを確認して、リリスの後ろを歩きだした。



 ホテルオリーブの廃墟に着くと、リリスは視線だけで合図を送り、キリコとアルバートに物陰に隠れるように指示を出す。同時に、フェリアシルとラッセンがホテルの中に駆け込んだ。


「さすがに気付いているから、出てきなさい!」


 リリスはそう叫びながら銃の安全装置を解除する。銃口の向けられた先から、温和な表情の老人が顔を出す。


「何の事かね?」

「……その声、もしかして、真龍艦隊のハン・ローフェイ提督?」


 老人の顔を見るとリリスは意外そうな顔をした。


「変装しても無駄よ? 私、銃器の扱いと人の声を覚えるのだけは、常人に及ばない位置にいる自信あるから」

「フム。どうやら、元連邦軍一のスナイパーはいろいろと特化した能力を持っているようだ」


 リリスの言葉に、老人は顔につけた、いくつかの装飾品を外すと、笑みを浮かべた。


「で、どうして提督自らが、このような所に護衛一人も無しにいるのですか?」

「いや、最初は邪魔者を消すためにこの星に来たのだが、君たちの情報を耳にして手駒にできないか、という相談を持ちかけに来た」


 あっさり。そういう言葉がはまり過ぎるほどの言葉をハンは口にした。


「聞くところによれば、君たちは地球連邦軍に指名手配されているではないか」

「そうね。でも、人材確保だけが目的じゃぁ、無いわよね?」


 リリスの声にハンは肯定の意味を含めた笑みを浮かべる。


「無論、それだけではない。君が操っていた、真紅のHAT。あれは非常に興味深い」


 ハンは、やはりあっさりと言葉を綴る。


「そりゃぁ、教団はHATの開発が三大軍事勢力で一番遅れているから、地球の新型は喉から手が出る程、欲しいでしょうけど、そう簡単に渡すと思うの?」


 リリスもあっさりと言葉を返す。


「地球に裏切られて、それでも、なお任務をこなすのかね? 君たちになら、私が教団にそれなりの地位を約束できるが……」

「断るわ。私、神様というか宗教自体に興味は無いの」


 リリスの言葉にハンは首を横に振ると身体を反転させる。


「平行線のようだな。なら、一言だけ言っておくが、私が言った邪魔者とは」

「リチャードの事でしょ? でも、新型を欲しがる素振りを見せながら、あいつには興味なしなのね?」


 リリスはその言葉を言った瞬間、ハンの身体が僅かに震えるのを見た。そして、それが笑っているのだと気付くのに数秒を要した。


「新型は欲しい。が、あの男の機体には、教団として興味がない、という事だ。後は、まぁ、本人から直接聞きたまえ。それから、あの男を始末したいのなら、我々に任せたまえ。相応の罰は与えておこう」

「どういう事……?」


 リリスが疑問の声を上げると、ハンは黙ったまま歩き出した。その後ろ姿にリリスは微かな不安を感じながらも、銃の安全装置を戻す。


「いいわよ、出てきても。どうやら急がな……」


 リリスがみなまで言い終わるよりも早く、大きな轟音がホテルの最上階から響いた。


「銃声!?」


 キリコとアルバートの声が重なるのと同時にリリスはホテルの中へ飛び込んでいた。


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