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真紅の女神  作者: 彷徨いポエット
第四章 告げられた絶望
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1 遠き夢

――リョウ・ミツムラ少尉だ。


「リリス・ヒューマン……少尉よ」


 リリスは夢を見ていた。遠く、昔の夢。まだ一年程しか経っていない筈なのに、それほどまでに遠く感じる、過去の記憶。


「久しぶりね、リョウ!」


 嬉しそうに抱きついたのはリリスの方からだった。


「おいおい、ずいぶんと甘えるようになったな、泣き虫リリス」


 その言葉にリョウから離れると目を細めて睨みつける。


「今、何か言った?」

「いや、何も」


 慌てながら手を振るリョウに、リリスは吹き出すように笑う。


「士官学校卒業してからだから、もうじき三年か?」

「そうね。あんたの噂、よく聞くわよ? HAT壊しまくっていたんでしょ? とてもじゃないけど、士官学校時代に火星支部でHAT教習課程次席とは思えない腕前だって、もっぱらの評判よ?」


 リリスの声に全く嫌みはないが、端的に事実を言うその姿に、リョウは苦笑いをする。


「まぁ、な。士官学校時代に、お前と一緒に考えた『クリムゾン・エッジ』を何回か試してみたんだが、どうにもうまくいかん」


 リョウは頬を掻きながら、リリスの方に視線を送る。


「……あんた、それ、本気でやったの?」


 氷点下に近い位置まで冷めた声に、リョウは頷く。


「あのねぇ、あれはガンナーが『私』だからできるフォーメーションよ? 私の方はあれをやっても、たいして苦労しないけど、他の誰にあれをやれと言うのよ?」

「……お前、どうやってあれを再現したんだ?」


 リョウの言葉に、リリスはニッコリと笑うと、両手を頭の後ろで組む。


「べっつにぃ? 私の方が気にするのは、せいぜい前衛への援護射撃回数くらいだもの。それが多いか少ないかの違いよ。まぁ、あんたほど私を楽にしてくれた奴は、いないけどねぇ」


 意味ありげに視線を送る。


「援護の回数って、お前、どれくらいの精度を射撃システムに入力しているんだ?」

「ん? 射撃システム? 使ってないわよ、殆ど」


 リリスの言葉に軽く相槌を打ち、次の瞬間、リョウは驚きの声を上げる。


「お前、使ってないって、あれ全部、完全手動(フルマニュアル)なのか!?」

完全(フル)、じゃないわね。一応、相対距離算出と、速度計算の数値。そこら辺は戦艦の射撃管制を利用させてもらっているけど、それ以外のところが、私の分担。そもそも、私の機体に射撃システムらしいのが積まれているっていうのも聞いた事、最近は無いわね」

「それ、全部手動じゃないのか……?」


 リョウの呆れかえった言葉に、リリスは笑いながら、そう言うかも、と返す。


「だって、HATの射撃システム、ムラが有り過ぎるんだもの。あれじゃ、敵機の打ち漏らしが多過ぎて、役に立たないわ」

「……で、それを他の機体にデータリンクさせないのか?」


 リョウの言葉に、リリスは小さく首を横に振る。


「精密すぎて無理だそうよ。整備班も私の射撃調整について来れなくて、何人転属願いを出した事か……」

「……そういや、この前、こっちの艦に転属してきたメカニックが、お前の射撃調整についてなんか言っていたな……」

「あぁ、あの人。確か、私が『十五秒以内なら誤差を認めてあげる』って言ったら、勝手に怒って『そんな機械にも判別出来ない事を人間にさせるな』とか言って、転属願いを出していたわね。ここに『それ』ができる人間がいるのに」


 リリスの要求が高いのだ。特に射撃管制に対しては。通常『一度』単位で文句を言うパイロットはそれなりに多い。たまにコンマ五度、つまり『三十分』単位で文句を言うスナイパーもいる。だが、リリスの場合は更に百倍以上細かい『十五秒以内』だ。結局、リリスの機体に対して射撃システムを『積む必要なし』という方向に傾く。


「ま、過ぎた事は無しにして、どう? こうしてコンビを再結成したんだから、ついでにチーム名をクリムゾン・エッジにして、あの形を再現しない?」


 リリスは嬉しそうにリョウに言うと、答えが返ってくるのを待つ。


「フム、悪くない。それならいっそ、機体のパーソナルカラーも真紅にするか?」


 リョウの言葉にリリスは頷く。


「そうね。それもいいかも。そう言えば、なんでリョウは自分の機体のパーソナルカラーを青くしてたの?」


 リリスは青い髪をなびかせながら、リョウに振り向く。その髪を一房、リョウは自分の手にすくい上げると、リリスの目の前にちらつかせる。


「なぁに、リョウ?」


「……お前の『髪の色』だからだよ」


 僅かに照れながら言うリョウに、リリスもまた照れた笑いを浮かべていた。

 


 それは、リリスにとって、確かに『現実にあった』充実した夢だった。


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