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真紅の女神  作者: 彷徨いポエット
第三章 『伝令神』対『冥王』
16/29

5 絶対防御性能

「全弾、ヒットです!」


 キリコの声に、ブリッジクルーの誰かが喜びの声を上げる。


「喜ぶのは、撃墜確認してからにしなさい!」


 フェリアシルは険しい顔をしたまま、メインモニターを見つめる。


「し、しかし、あれだけの砲火を至近距離で受ければ、いかにプロキニウム合金の装甲とはいえ……」

「リリスは『戦闘状態』を解いていない。それが証拠よ!」


 フェリアシルの言葉通り、爆発を確認しながら、ヘルメスはスーパーロングバレルの射撃体勢を維持したままだった。


「敵影確認! ダメージ軽微です!」


 キリコが叫ぶよりも速く、ヘルメスは急上昇していた。



 鋭く突き出されたヒートランスが空を切った。


『勘が前よりも鋭くなったな!』

「チィッ!」


 爆発の中から、殆ど無傷で飛び出すハーデスに、リリスは小さく舌打ちをしながら、コントロールパネルの上で指を滑らせる。ヘルメスが素早く体勢を整え、続けざまにスーパーロングバレルの弾丸を三発放つ。


「な!?」


 リリスは自分の目を疑った。確かに頭部の中心を捉えた筈の弾丸が、()()()()()()()()()()()()


「照準システム、完全手動(フルマニュアル)に切り替え!」


 コントロールパネルに指を走らせ、再び射撃。そして同じ結果。


『効かんよ! その程度の射撃はなぁ!』


 正確無比を誇る筈のリリスの射撃を、何故かかわしながら、ハーデスが間合いを詰める。


「チィ!」


 間合いを詰められ、急加速してその場を離れるヘルメスに向かって放たれた、ハーデスからの射撃が機体を掠める。


「こちらヘルメス! ユニコーン、聞こえる!?」


 リリスは急いで通信回線を開く。


『こちらユニコーンです』


 通信に出るキリコに、リリスは急いでコントロールパネルを叩く。


「映像、送るわ! 解析お願い!」


 それだけでわかる筈だ。そう信じ、通信を切ると、再びバーニアを吹かす。


「こいつはどうだ!」


 叫びながら、メガブースターキャノンから光が伸びるが、こちらは装甲で弾ける。


「……あのスピードじゃ、ミサイル系統は全て振り切られるわね……。と、なると近付かなくちゃいけないけど……」


 状況を素早く整理する。ミサイル関係は全て振り切られる。ビームは装甲で弾かれる。そうなれば、残る手段は一つ。


――しかし、捉えた筈の射撃が当たらない。


 心の中で呟いた瞬間、リリスは背中に走る『何か』を感じ、急旋回をする。視界の端に、それまで自分がいた空間を薙ぎ払うかのように、暗い『闇』が走るのを確認する。


「ぐぅっ!」


 肺に押しかかる重圧に耐え、体勢を整えるヘルメスの目の前、数十メートル先に映る黒い機影。胸甲が開いた状態からゆっくりと閉じていく。


「今のが、ケルベロスキャノン……」

『やはり、勘が昔に比べて冴えているじゃないか』


 今までいた空間には『何も』ない。


「冗談じゃないわ。あれを食らったら、このヘルメスにプロキニウム合金を使っているからって……」


 どこか既視感を覚えながら、リリスは呟く。


『そうだ。例えプロキニウム合金であろうと、このハーデスの前には闇の彼方へと消え去るのみだ』


 緊張が二人の間を走る。


「……ビームが効かないなら、実弾を直接当てるしかないわね……」


 呟き、コントロールパネルに指を走らせる。最後のボタンを叩くのと同時に、ヘルメスの背部に取り付けられた、いくつかの武装が排除される。


『いいのか? 武装を排除して』

「効かないのなら、持っているだけ無駄な上に、重いだけの余分な荷物よ。それに、こっちが効かない、という訳では無いでしょう!」


 同時にヘルメスの右腕が、ハーデスに向けられる。


「……アーム・レールキャノン、スタンバイ!」


 リリスの声と同時にヘルメスの右腕装甲がずれ、砲身が顔を出す。


『その程度の武器が効くと思うか?』

「甘い!」


 リリスが叫ぶと同時に、ヘルメスの右腕が火を吹く。


『クゥッ!』


 瞬間、急制動でハーデスが機体を反らした。


「……あんたの方こそ、勘が鋭くなったんじゃないの?」


 リリスはそう呟き、小さく舌打ちをする。自分は正確に、相手の胸甲を狙った筈だった。それが、当たった場所は右腕だ。


「超圧縮された、重さ五百キロの鉄球よ。超新星並みの質量を持つ、この弾なら、プロキニウム合金の装甲を破る事が出来る。私の『切り札』よ」

『そんな物が仕込まれていたとはな! だが、それだけの代物をそう多く積み込む事は不可能だろう? よくて、右腕に後一発、左腕に二発だ』


――読んでいる……。


 リリスの額から流れる汗に、焦りが浮かんだ。



 一方、ユニコーンの艦橋。


「何しているの! 早く解析! それとラッセン!」


 慌ただしく指揮をするフェリアシルに、ラッセンは静かに頷く。


「キリコ、あなたはラッセンにリリスの射撃データの転送をお願い!」


 一瞬、フェリアシルの言っている意味がわからなかった。


「転送って……どういう意味ですか?」

「ああ、もう! この艦は軍の『最新鋭』なの! データリンクシステムを使って、リリスのピンポイント射撃をユニコーンにもやらせるのよ!」


 捲くし立てると、フェリアシルはもう一度ラッセンに視線を送る。


「……了解しました。けど、文句は言わないでくださいね?」


 そう言うとキリコはコントロールパネルを叩く。


「データ転送します。見ても驚かないでください」

「……なんですか!? この異常なデータは!?」


 キリコがコントロールパネルを叩き終わると同時に、ラッセンが悲鳴に似た声を上げる。


「どうしたの?」


 さすがに気になって尋ねるフェリアシルに、ラッセンは顔を横に振る。


「この艦では……いえ、軍艦では無理です」


 ラッセンが絞り出した言葉に首をかしげる。


「リリス少佐は『秒単位』以下で射撃を行っています。しかも『ロックオンシステムを一切使わずに』です。対して軍艦の砲塔は『度単位』での可動が基本で、ロックオンシステムを使う事が前提です。それが私から言える事です」


 キリコの言葉に、フェリアシルはさすがに驚愕の表情を浮かべる。


「軍艦の射撃システムの三千倍以上もの精度で『ピンポイント射撃』をしている、リリス少佐の射撃データは、かつて私たちが所属していた、第一遊撃艦隊で、何度も『共有』しようとして、全て失敗しています」


 優れたデータならば共有をしない方がおかしい。それがされていない理由はリリスがHATのパイロットだという小さな理由では無い、そうキリコの表情が語っている。


「……ああ、もう! だったら、操舵をきちんとしなさい!」

「え……?」


 フェリアシルの言葉に、今度はキリコが驚きの表情をする。


「砲身が固定されているんだったら、機体を動かせって言っているのよ! できないなんて言ったら、そのまま宇宙に叩きだすわよ!」

「……機体を動かす、ですか?」

「そうよ! 砲塔が『度単位』でしか動かないなら、艦を『秒単位』以下で動かせばいいだけじゃないの!」


 さすがのキリコも、その発想にはついていけなかった。誰も考えた事のない事だったが、実にシンプルな答えだった。


「操舵、きちんとしなさい! あと、解析は終わったの!?」


 叫ぶフェリアシルに答えるかのように、サブモニターにイワンの顔が映る。


『……解析終了しました』


 イワンの口から返ってきた答えに、ブリッジクルー全員の声が奪われた。



 牽制のようにスーパーロングバレルの砲身から弾が放たれ、間合いを開く度に、相手からの攻撃が止まり、胸甲が開きかける。


「チィ!」


 何度目になるかわからない舌打ちをして、一気に間合いを詰める。が、決め手に欠くリリスにとって、それは半分自殺行為に近かった。接近戦で勝つ自信は全くない。そして、距離があけば、自分でも訳がわからずに弾が外れる。


『こちらユニコーンです』


 ようやく待っていた通信に、リリスは焦れた顔でスイッチを入れる。


「こちらヘルメスよ! 解析、終わったの!?」

『はい。よく聞いてください。先ほどからの少佐の攻撃は『外れている』のではなく『逸らされている』のです。ハーデスは超重力エンジンを利用した、歪曲空間を展開しています』


 音声のみで伝わってくるキリコの言葉に、リリスは驚愕の表情を浮かべる。


「それって、こちらからの攻撃が当たるわけ、ないじゃないの!」


 悲鳴にも似た声。だが、通信は続く。


『よく聞いてくださいと、言いました。どれだけ空間を捻じ曲げようと、攻撃するためには自分から『窓を開ける必要』があります。そこを狙う以外にはありません』

「無茶を言わないで! そんな難しい事、いくら『私』だからって、この超高機動戦闘中にできるわけがないでしょう!」


 要は相手が射撃をする瞬間に、射撃を逆に叩き込め、と言われた訳である。


『フェリアシル少佐が『切り札』を切るそうです』


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