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真紅の女神  作者: 彷徨いポエット
第三章 『伝令神』対『冥王』
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4 対峙

 ゆっくりと、闇に飲み込まれる青白い奔流の中に、黒い点が一つ。


「……また来たか……」


 それは静かに呟いた。


「何度目になる? 俺は貴様とも道を別った。ここから先は俺の道だ」


 その声が電波に乗り、近付いてきた艦艇に届く。

『な、何を言う! 再びHATに乗りたいという、貴様の望みを『叶えてやった』恩を忘れたとは言わさんぞ!』


 クラウドエッグから延びるガスの足に入ってこないのは正解だ。


「そうだな。だが、俺は『こんな身体』にしてくれと頼んだ覚えはない」


 冷たく、そして静かに答える。


「だが、戦士としての死に場所を与えてくれた貴様に感謝をしたのも確かだ。故に、貴様を殺す事なく、プロキオンまで連れて来てやったのだ」

『き、き、貴様!?』


 トーンを上げる声に、リョウはゆっくりと機体を回頭させる。そしてハーデスの胸甲が緩やかに開き始める。


「それ以上さえずるな。これ以上、俺に付きまとうのであれば、貴様に向けてケルベロスキャノンを照射する。嫌ならばこの場から消え去れ」

『貴様をプロキオンに渡さねば、私の命が……』


 その声に空間が震えた。


「貴様の命など、それこそどうでもいい事だ。今まで、貴様がテストパイロットにしてきた数々の仕打ちを考えろ」


 リョウは静かに呟いた。


「それでもなお、俺をプロキオンに渡したいと言うのであれば、本気で照射する」

『き、貴様! 覚えておれよ!』


 急いで立ち去る艦艇にハーデスの胸甲が閉じる。


「ああ、もちろんだ。この戦いが終わって、生き残れば、貴様を殺しに行ってやる」


 そう呟くと、別の方向に機体を向ける。


「こちらは団体さんか……。よくよく、俺は邪魔らしい」


 近付いてきた艦隊に向け、ハーデスはガスの足から飛び出し、勢いよく、戦闘隊形をとる相手に向かって飛び込んで行った。



「戦闘?」


 リリスはパイロットスーツに腕を通しながら、モニターに向かって声を出す。


『はい。多少のずれはありますが、目標宙域と思われる空間で、戦闘と思われる震動をキャッチしました』


 キリコの言葉にリリスは唸る。


「こちらから見て、ガスの足のどちら側?」

『奥側です』


 きっぱりと言うキリコにリリスは再び唸る。


「じゃぁ、共和国とハーデスね。他に報告ある?」

『その戦闘に乗じて、奉龍教団親衛隊の動きがあるようです』

「親衛隊の真龍艦隊、か。たしか、艦隊総司令はハン・ローフェイ提督だったわね?」


 キリコが頷くとリリスは考え込むように首を捻り、ヘルメットを手にする。


「わかった。フェルに代わってちょうだい」

『はい、代わったわよ。短距離ワープの他に注文はある?』


 通信が自分に移るのを予想していたであろう素早さに、リリスは微かに笑う。


「ワープアウトと同時にヘルメスの射出。後の指揮権はそっちに委ねるわ。私は真龍艦隊に挨拶をして、そのまま、ハーデスとの戦闘に移るから、よろしく」


 リリスはそこまで言うと、カタパルトデッキに向かう。


『本艦はただ今から短距離ワープを行います。ワープアウトと同時にヘルメスの射出。全艦第一種戦闘配置! いい? 演習じゃないわよ! 少しでも気を抜いたら、承知しないわよ!』


 おおよそ軍艦の艦長とは思えない、フェリアシルの言葉使いに、リリスは苦笑すると、ヘルメスのコクピットに入り込んだ。



 プロキオン奉龍教団親衛隊、真龍艦隊総司令を務めるハン・ローフェイは自分達の艦隊に近付く、一機のHATに興味を抱いた。


「地球連邦軍、クリムゾン・エッジのリリス・ヒューマン、か……」


 遠距離通信で聞いた名前に静かに笑う。


「たった一機。いい度胸だ」

『あら、お褒め頂けるのですか? 奉龍教団の方が?』


 通信モニターの向こう側で、若い女パイロットが意外そうな顔をする。


「私は別に身分の貴賎は問わんよ。特に、君のような優秀な人間には、な」

『……で、私の要求はお呑みいただけますか?』


 リリスの顔は真剣だ。だからこそ、ハンは興味を持ったのだ。


「まぁ、君たちがガスの『向こう側』で何をしようと構わぬし、共和国に痛手を与えてくれると言うのであれば、それに越した戦果は無い」


 自分の手駒を全く失う事無く、相手の手駒だけを削る事が出来る。ハンはそう言っているのだ。それはリリスにもわかっていた。


『ガスの『向こう側』ならば、ですね?』

「そうだ。こちら側に来るのであれば、私が動かねばならない」


 言質を取るような口調のリリスに、ハンは頷く。


『了解しました。努力します。ありがとうございます、ハン提督』


 笑顔のまま、通信が切られるのを確認すると、ハンはすぐさま索敵手に指示を出す。


「最大望遠で索敵! いいか、あの黒いHATには手を出すな。我々は教団の勢力圏内を防衛するだけでよい。後は勝手に聖龍艦隊が面倒を見てくれる!」


 遠ざかっていく紅いHATを見ながら、ハンは小さく笑みを浮かべた。



「ククク……」


 虚空に哄笑が響き渡る。


「脆い、脆いぞ、貴様らぁ!」


 爆風と爆炎が幾つも彩る中、黒い影が躍る。


「この程度の戦力で俺と戦えると思っていたのか!? 大した手応えもない!」


 最後に残った、全く戦闘能力を持たない空母を真っ二つに折るとリョウは叫んだ。


「つまらんなぁ……」


 リョウは呟いた。


「俺を、楽しませろ……」


 哀れむように。


「リリス……早く来い……」


 愛しむように。


「早く、こぉい!」


 そして、焦がれるように。


『叫ばなくとも、今行くわよ!』


 ノイズの向こう側から、懐かしい声が響き、同時にハーデスは急制動をかける。そして半瞬前まで自分がいた空間を横切るように、火線が走った。


『待たせたわね、リョウ』


 火線の元を辿る様に向けた視線の先にあるのは、スーパーロングバレルを構えた新型のHAT。真紅に染め上げられた、その機体。


「……待ちくたびれたぞ、リリス」

『リョウ……』


 怒りとも、憎しみとも、そして憐みとも取れる声色。


『来てあげたわよ、あんたの望み通りに。説明してもらいましょうか、この事件を起こした本当の意味を!』


 愛用のスーパーロングバレルを筆頭に、機体に装備された全ての銃火器の照準がハーデスに合わせられている。返答次第で、その全てが火を吹く。


「いまさら必要か、そのような事が?」


 リョウの静かな声が響いた。


「その程度の火力で、このハーデスを沈められると思うな!」

『リョォォ!』


 返答と同時にリリスは叫び、ヘルメスの全銃火器が火を吹いた。


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