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真紅の女神  作者: 彷徨いポエット
第二章 亡き父の指令
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4 作戦会議

 指定した時間よりも、五分近く早く部屋に鳴り響くインターフォンの音に、リリスは苦笑しながら、開いているわよ、と声をかけた。

「失礼します」

 無愛想とも取れる口調で入ってきたフェリアシルとラッセンに、リリスは適当な所でくつろぐ様に指示をする。

「で、今回の作戦目的というのは何なのでしょうか? 単独、極秘という単語から、重要任務である事は理解していますが……」

 ベッドのそばに腰を下ろしながら問うフェリアシルに、リリスは笑みを浮かべて、インスタントだけど、とコーヒーを差し出す。

「リリス少佐! 私の質問に答えてください!」

「焦らなくても、すぐに話すわよ。まだ全員集まってないから」

 そう言うと、リリスはベッドに腰を下ろしながら、コーヒーを口にする。そして数分もたたないうちに、更に四人が部屋に入ってくる。

「……これだけ入るとさすがに狭いけど、いいわ。とりあえず座ってちょうだい。それで、まず今回の指令の内容。キリコ、説明よろしく」

 リリスの言葉にキリコは立ち上がる。

「キリコ・ナナセ情報中尉です。今回の作戦目的ですが、先日、冥王星群軌道で起きた停戦協定襲撃事件の犯人を捕らえることです。また、同時にその襲撃事件に使われた地球連邦軍試作型HATハーデスの破壊、およびその設計図の破棄も含まれます」

「ちょっといいかしら?」

「どうぞ、フェリアシル少佐」

 キリコの言葉に手を挙げたフェリアシルは、立ち上がると咳払いを一つする。

「試作型HATの性能がどの程度かは、私は知らないけど、単体であの防衛網を簡単に突破して、ペルセポネを一撃で沈めるだけの破壊力を持っているのは知っているわ。そんな化け物相手に、最新鋭とはいえ、駆逐艦一隻でどうにかなるものなの?」

 フェリアシルの言葉にアルバートが立ち上がる。

「実際に戦闘を行うのはリリス少佐とHATヘルメスもしくはアルテミスです。この艦の役目は、リリス少佐の援護及び敵機を収容するであろう艦船の撃沈です」

「あ、そう。おいしい所は全部、リリス少佐のモノなんだ」

「そう思われるのであれば、あなたがHATに乗ってみますか? それともこの艦で勝負してみますか? 相手は要塞攻略用に考案された機体です。駆逐艦の一隻や二隻を沈めるのに、一瞬の時間も必要ないと思われますが……」

 くってかかるフェリアシルに、アルバートは冷や水のごとき言葉を叩きつける。

「……アルバート少尉、その程度にしておかないと、上官侮辱罪、適用するわよ?」

 リリスが咎めると、アルバートは軽く頭を下げる。

「とりあえずは資料を見てちょうだい。パイロットはリョウ・ミツムラ少尉。これは間違いないわ。それからハーデスを造ったのはリチャード・ルーベリック技術大尉。これも間違いないわね。あと、ハーデスの装甲だけど、少なくとも外部装甲にプロキニウム合金が使われていると見ていいわね」

 その言葉に、フェリアシルの顔から一気に血が引いていくのを、リリスは横目に見た。

「これは、ヘルメスやアルテミスの装甲にも多少使われているけど、耐久性能については」

 一瞬だけ言葉を切る。

「戦艦の主装備であるビーム砲関係はある程度の距離を保てば弾ける。もちろん、従来のHATに使われているビーム武装も同じ事が言えるわね。巡洋艦や駆逐艦の主装備であるレールキャノンに関しても、垂直方向からプラスマイナス十五度を超えれば弾く事が可能よ。これもこの間、私自身が実弾テストで経験済みだから、確実ね」

「敵機の装備に関してはどうです?」

 フェリアシルの言葉にミツルが立ち上がる。

「通常兵装として、連装ビームキャノン十四、大型レールランチャー八、白兵戦用ヒートランス及びヒートソード多数です。それ以外でわかっている物はペルセポネを破壊し、オーディンを中破させた、ケルベロスキャノンがありますが、それ以上の装備はわかっていません」

「つまり、それ以外の武器が出てきたら、その瞬間、終わりって事?」

「そ、それは……」

 半分おどけた口調のフェリアシルに、ミツルは答えに窮した。

「それに関してはイワン技術中尉が説明してくれるわ」

 リリスが助け船を出すのと同時に、ミツルの右隣に座っていた男が立ち上がる。

「イワン技術中尉です。試作型HATヘルメス及びアルテミスの開発主任です。今あった質問ですが、外部兵装が増える事があっても、内部武装が増える可能性は殆どありません」

「どうしてそんな事が言えるのよ? どう見たって、あのハーデスの大きさはスレイブニルの四倍以上あったわよ? あれで内部武装が少ないのは納得できないわ」

「少ない、ではなく必要ないのです」

 フェリアシルの言葉にイワンは静かに答える。

「先ほど、アルバート少尉の言葉にあった通り、このハーデスの開発目的は要塞攻略です。つまり、HATや戦艦を沈める事が目的ではありません。言うなれば、ケルベロスキャノンがあれば充分で、他の兵装は軍艦でいうところの対空武装のようなものです」

 イワンの言葉に全員が水を打ったように静まる。つまり、対空武装とケルベロスキャノンの二種類だけで、先日の事件が起きた、という訳だ。それを始末するのに、手持ち戦力はあまりにも微弱すぎる。誰もがそう思っている筈だ。

「これが、相手の戦力。で、これからの方針。まずは火星の衛星フォボスに立ち寄って、リョウ少尉の肉親に彼の居場所を確認します。これは私とキリコ中尉、それからフェリアシル少佐が現地で情報収集します」

「な、なんで私が!?」

 リリスの言葉にフェリアシルが大きな声を上げる。

「アルバート少尉はラッセン少尉と共に、事件当日の詳細を洗う事。残りの人はこの艦のスタッフと協力してヘルメスとアルテミスの整備と調整をお願い。優先順位はヘルメス。以上、健闘を祈ります」

 リリスが敬礼をすると、五人は立ち上がり、敬礼を返すと部屋を退出する。

「……不満がある様ね、フェリアシル少佐?」

「いくつか疑問があります。まず、リョウ少尉について」

 そう言うと、フェリアシルは黙り込む。

「まぁ、知っていると思うけど、リョウは私のパートナーだった人よ。ついでに、付け加えるなら幼馴染みで士官学校の同期。友人たちには関係さえも疑われたほどの仲」

 リリスの答えにフェリアシルは十分以上考え込んだまま黙っていたが、やがて口を開く。

「では、実際に対峙した時に討てますか? あなたに」

「……撃つわ。それが、パートナーだった私にできる最後の事だから」

 きつい言葉を叩きつけられ、一瞬答えに窮すが、何とか絞り出す。

「わかりました。その言葉、今は信じます。では、もう一つだけ」

「なに?」

「なぜ、フォボスでの探索に私を指名したのですか?」

 その質問に対してリリスは、さてね、とお茶を濁すように微笑むと、フェリアシルに部屋を出るように指示する。

「わかりました。では、出港手続きがあるので、私はこれで失礼します。火星に着き次第、報告します」

「わかったわ。ああ、それからフェリアシル少佐」

「なんですか?」

 立ち上がったフェリアシルにリリスは右手を差し出す。

「階級も一緒だから敬語で話す必要もないし、階級を付ける必要もないわ。できれば、呼び捨てにしてくれると嬉しいのだけど……」

 リリスの言葉にフェリアシルは静かに笑うと、右手を握り返す。

「了解しました、リリス・ヒューマン少佐」

 手を離すと、そう言葉と敬礼を残して部屋を後にした。

「了解、してないじゃない」

 リリスは苦笑しながら、自分の右手を見つめて呟いた。

「この作戦の性質から考えると、心の距離、縮めないといけないわね」

 右手を握り締めると、リリスは僅かに笑みを浮かべた。

「まずは、愛称から、かな」

 リリスはそう呟くと、握った手を開き、静かに目を閉じた。

「フェリアシル・メルブラット・フィンクス少佐、か……。一番呼びやすいのは『フェル』よね。見てなさい、()()()。私は気に入った人間の心に入り込むのがどれだけ上手か、教えてあげるわよ」

 目を開くと、リリスはもう一度、力強く右手を握りしめた。


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