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見学

「ごきげんよう」


 フィスロと本を分類する作業を続けていると。

 図書室の扉がトントンと叩かれ、そっと開いた。


「聖女様……いえ、スイ先生。お邪魔しますわ」


 入ってきたのは、アッシュグレーの髪をした若い女性だった。

 羽織っているローブから見て、教師陣だ。

 それに、この人の顔を教員室で見かけたことがある。


「こんにちは。えぇと、ミール先生」

「あら、私のことをご存じなのですね。嬉しいわ」


 ミール先生は、優しげでおっとりした先生だ。

 それでいて、教員からも学生からも一目置かれている敏腕教師。

 その指導方法について聞いてみたい。

 元教育学部の血がうずうずする。


「フィスロ様も、ごきげんよう」

「どうも」


 フィスロも、軽く会釈をした。

 ところで、ミール先生はどうしてここに来たのかな。

 何か調べものでもあるのだろうか。


「スイ先生にお願いがあってまいりましたの。どうか、我がクラスを見学しませんか?」

「え?」


 け、見学?

 それ、してもいいの?


「ぜひ。アーノルドさんからもお願いされていましてね。せっかくの機会ですから」


 王子会長さんが?

 あ、あのとき見学に行けなかったからかな。

 中庭であった日、見学に行こうとしたらフィスロに強制送還されたときだ。

 見学に行きたかったのに行けなくて、ショックだったんだよね。


「良い提案ではないですか」


 私の後ろで、フィスロが言った。

 見れば、フィスロが私を見てにこにこしている。


「図書室も片付いてきましたし。あとは排架場所を決めるために、学生の意見が必要ですよね」


 確かに、排架場所は学生の意見を取り入れてから決めようと思っていた。

 だから、これは良いチャンスかもしれない。


「分かりました。見学させていただきます」

「まぁ! ありがとうございます!」


 ミール先生は、嬉しそうに顔をほころばせた。


「では、行きましょう」

「はい」

「はい」


 ん?

 私の返事の後に、フィスロの声も聞こえたような……。


「フィスロも行くの?」

「当たり前じゃないですか」


 フィスロは、えへんと胸を張った。


「僕だって、懐かしい学び舎に行きたいんですよ」

「……本音は?」

「本ばかり見てたので気が滅入りそうです。とりあえずどこか出かけたい」

「正直でよろしい」


 まぁ、気分転換って大事だよね!





 魔法学園は、四年制の学校である。

 日本で言うところの大学のような教育機関だ。


「あれ、聖女様じゃない?」

「確か図書室の先生になられたんだよな」


 ミール先生のクラスがある三年生棟に行くと、学生が教室からちらちらと私を見ていた。

 ちょっとした転校生のような気分で、どこか気恥ずかしい。

 だから、ちょうどいい感じの壁の後ろに隠れることにした。


「僕は壁じゃありませんよ?」

「恥ずかしいんだもん、仕方ないじゃん」


 教育学部出身で、教員になりたかった私。

 でも、人前に出るのは恥ずかしいのだ。

 こんな矛盾があるけど、教員免許は取れたから後は頑張るしかない。


「どうぞ、スイ先生」


 ミール先生が、1つの教室に入って手招きをした。

 ここまで来たら腹をくくるしかない。

 もともとこの学園の指導を見てみたかったし、なにより図書室のことでアンケートを取りたい。

 なら、教室に入るしかなかった。


「こ、こんにちは~」


 ペコペコと会釈しながら、教室の入り口をくぐる。

 中は、まるで大学の講義室みたいに広かった。

 黒板もあるし、掲示物もある。

 魔法さえなければ、普通の学校だった。


「皆さん、注目してくださいな」


 ミール先生が、おっとりと話し出す。

 すると、ザワザワとしていた学生たちが一気にシーンとなった。

 おぉ、すごい。

 日本だと、大学生でもこんな一瞬で静まり返ることなんてないよ。 

 それだけミール先生の手腕がすごいんだろうな。


「我が国の異界の聖女様、スイ様です。ご存じの通り、スイ様は図書室の先生をしてくださることになりましたね。今日は、そんなスイ先生がこのクラスの授業を見学しにきてくださいました」


 ちょ、ちょっと。

 そんなに私のことを持ち上げないでよ。

 見れば、学生たちが私を輝く目で見ていた。


「すげぇ!」

「聖女先生だね!」

「アーノルド様は、聖女先生とお話されたんですよね!?」

「あぁ!」


 王子会長を含めて、皆で大盛り上がりだ。

 なんでこんなに盛り上がっているのか、分からないけど。


「今でこそ平和ですが、」


 私がぽかんとしていると、フィスロがこそっと教えてくれた。


「異界から召喚する聖女は、この国にとって平和の象徴なのです。聖女がいるから国が守られるのですから、皆が盛り上がるのはそのためですね」


 なるほど。

 聖女がいてこその国なんだね。

 それなら、この歓声も頷ける。


「スイ先生」


 クラスの皆の笑顔を見ていたとき、ミール先生に話しかけられた。

 ハッとして見れば、先生がこちらを見つめている。


「何か、魔法を見せてくださるかしら?」


 んえ!?


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