導き
「どうぞ、スイ様」
ここは、神殿の礼拝堂。
フィスロに「『青の聖女』が召喚される」と告げた人物に会いに来たのだ。
「どこにいるの?」
「こちらです」
誰もいない礼拝堂。
王宮の礼拝堂とは、どこか違うような厳かな雰囲気が漂っている。
その中を、フィスロはコツコツと歩き始めた。
たどり着いたのは、奥の中央にそびえ立つ初代聖女らしき人の像。
フィスロは、その前で足を止めた。
「この方です」
「この方って……?」
「初代聖女様であり、『青の聖女』であられる御方になります。名を、『アイ』様と申します」
アイ。
やっぱり、日本らしい名前だ。
漢字で書くと、『愛』とかになるのかな。
白い像に、そっと近づく。
足元では金色のプレートが輝いていた。
そこには、名前と没年が書かれている。
どうやら、『碧』と書いて『アイ』と読むらしい。
宝石みたいな名前だ。
「この方が、フィスロにお告げを出した人になるってこと?」
「そうですね。ただ、それは夢の中でした。実際にお会いすることはできませんよ」
当たり前だ。
もう何百年も前に亡くなっているのだから。
それでも、なぜか目を離せないほどの魅力がある。
内側から煌めているような、不思議な感覚……。
「スイ様も、この感覚が分かりますか」
像を見上げていると、隣にフィスロが立った。
ステンドグラスの輝きに目を細めながら、すっと像を見上げる。
「説明しようがないこの感覚は、誰に問うても分かりません。夢の中でお会いできたときに聞いてみましたが、その回答は『聖女に導かれよ』でした」
なにそれ。
聖女ってことは、私に導かれろってことだよね。
フィスロが私をじっと見ている。
何かを懇願しているかのように。
そんな期待されても、何も起こらないよ……。
もう一度、金色のプレートを見てみた。
名前と没年が書かれたプレートは、ステンドグラスによって光瞬いている。
青色と緑色に。
「ん?」
たくさんの色がある、ステンドグラスの光。
それなのに、金色のプレートには青と緑の光しか当たっていない。
しかも、二つの色が交差する場所に何か書かれている……。
「それ、僕も見つけました」
フィスロが言った。
「僕たちの色だから、何かあるんじゃないかって。でも、その文字が何と書かれているのか分からないんです」
しゃがみ込んで、その文字を追う。
少し埃を被っていたから、指で払いながら。
そこには。
『Touch my eyes』
「……英語だ」
「エイゴ?」
「日本語じゃない言語だよ。だから、読めなかったんだ」
初代聖女様は、『聖女に導かれよ』と言った。
それはきっと、私にしか読めない文字だったから。
書かれていた言葉を訳すと──。
「私の目に触れて」
「え?」
「この言葉の意味よ。日本語に訳すとそうなるの」
「なるほど。では、初代聖女様の目に触れればいいのですね」
「うん。それも、二人で」
金色のプレートには、青と緑の光。
それは、設計されたものだ。
だとしたら、それもまた初代聖女様からのお導き。
私たち二人で、その目に触れるのだ。
「行きましょう、スイ様」
「どうやって?」
この像、かなりの高さがあるよ?
どうやって目まで行くの?
「もちろん、魔法で」
フィスロは、いたずらっ子のように微笑んだ。
瞬間、フィスロは私の手をとって宙へ浮かび上がった。
予想だにしていなかった私は、突然のことに慌てる。
そんな私の背を、フィスロはそっと支えてくれた。
「もう少しです」
腰、肩、首。
像をどんどんと追い越し、目元まで。
たどり着いた目は、サファイアが埋め込まれていた。
青く、深く澄んだ青色。
それに魅了されそうなほど、引き込まれる。
「さぁ、触れましょう」
自然と繋いでいた手。
それは離さず、私はもう片方の左手を伸ばす。
フィスロは、右手を伸ばした。
ふわ。
触れた途端、光がぶわりと溢れ出した。
それは、私たちを一気に吞み込むような光。
どこかあたたかい光に、そっと身を委ねた。




