意識
こちらの世界に来て、司書教諭を始めた。
そのまま生きていきたかったのに、なぜか聖女としての真実が明かされ始めた。
平和すぎて、仕事はないくせに。
「あぁ、司書教諭に戻りたい」
一日中、本に囲まれて過ごしていたい。
おすすめの本を教えたり、巷で人気の本をいれたり。
司書教諭としての仕事をゆっくりと熟しながら、本と向き合っていたい。
「スイ様は本当に、本がお好きなんですね」
朝の支度を整えてくれていたリンちゃんが、くすくすと笑った。
「未来の旦那様は、本に負けないように頑張らなきゃなりませんね」
「未来の旦那様って……。私は、結婚する予定ないけど」
「あら、お忘れですか」
リンちゃんは、宝石箱を取り出した。
その中には、私が普段身に付けているアクセサリーがたくさん。
箱を開ければ、ベルベットの上に置かれたアクセサリーが煌めいていた。
青い花々で作られた、あの花の髪飾りが──。
「……うぎゃっ」
それは、フィスロが作り、贈ってくれたもの。
王太子であり、『緑の王』である青年で。
その昔、『運命』という絵画の中で『青の聖女』が婚姻を結んだ相手。
そして、それは──。
「わ、忘れてなんか……!」
忘れてはいない。
意識から外していたのだ。
フィスロと私が婚姻を結ぶなんて。
結婚なんて、日本でもあまり真剣に考えたことはなかったから。
私には、本さえあれば充分だったから。
「お似合いだと思いますよ」
リンちゃんは、にこにことしながら青い花の髪飾りを手にした。
「殿下は、スイ様を待ち侘びていらしたので」
待ち侘びていたのは、『本浦翠』なのか『青の聖女』なのか。
私が婚姻に関して積極的じゃないのは、この疑問があるからだ。
そう、きっと。
きっと、そうだよね。
うんうん、きっと。
*
「で、いつ『義姉上』と呼べるようになるんです?」
「ア、アーノルドまで……!」
廊下ですれ違ったアーノルド。
私の髪飾りを見て、真剣そうな目で言ってきた。
「僕のこと、『さん』付けではなくなりましたね。やっと『義弟』として見られるようになったってことでいいですか!?」
「なんでよ!?」
ルーア王国の王子兄弟は、面倒くさい性格だった。




