真実
「平和の真実?」
今日の夜は、眠れそうにない。
立っているのが疲れてきたから、バルコニーの手すりに座った。
フィスロは呆れながらも、一緒に腰かけてくる。
「聖女祭のときに僕が言ったこと、覚えていますか?」
聖女祭のとき?
なにか話したっけ?
「……歳を取ると物忘れが進むって言いますよね」
「うるさい、まだ新社会人だよ」
年齢的には、まだ二十代なんだからね。
……忘れたことには間違いないけど。
「僕は、こう言いました。『平和というのは、争いごとと表裏一体の関係です。すぐに壊れる、脆いガラスみたいなものです。それを、聖女様は存在するだけで安定してくれます。だから、聖女は必要なんです』と」
あ、なんか聞き覚えあるかも。
平和すぎる国に対して、なぜ私が召喚されたのかを問いかけたときだよね。
あの日も、バルコニーで話していた気がする。
場所は違うけど。
「聖女様は、存在するだけで世を平和にしてくださいます。それは、初代聖女である『青の聖女』様が望んだことなんですよ」
「え、でも聖女が召喚されない時代もあったんでしょ?」
確か、そう聞いた気がする。
だったら、聖女がいない時代は平和じゃなかったってこと?
「聖女様は、知らずのうちに神聖力で国を守ります。それが平和へと繋がるのです」
ふと、そこでフィスロは言葉を切った。
黒い指輪を月に掲げて、じっと見入る。
まるで、魅了されているかのように。
「……初代聖女様は、平和へのお気持ちが強い方でした。ですから、こう考えたのです。『神聖力を、死後も保ち続けていきたい』と」
「じゃあ、それが切れるごとに新しい聖女が召喚されるの?」
「えぇ。それも、向こうの世界『ニホン』からのみです」
日本だけ?
あ、初代聖女が日本人だったから?
だから、日本語が通じてる世界になってるの?
「その通りですよ」
フィスロは、妖しげに微笑んだ。
*
「この世界の寿命は、千年です」
んえ!?
せ、千年!!
言うの、唐突すぎない!?
「魔法でなんでも解決できますからね。死因は寿命ばかりです」
なんてこった。
まさか、そんなことが現実だなんて。
「スイ様の世界での十年は、こちらでは一年になります。時がゆっくりと流れていますから、言語が広まっていったのも頷けますよね」
いやいや、頷けるもなにもびっくりなんですが!?
「聖女が召喚されるのは、神聖力が落ちてきたとき。そしてそれは、その時代の国王に知らされます。ただ、この時代において稀有だったのは、僕という存在です」
そう言って、フィスロは指輪を弄び始めた。
そんな貴重なもので遊んでいいのか不安だけど。
「『緑の王』は、国王よりも高い地位に位置づけられます。ですが、神聖力によって争いは排除されているので、国王から恨まれることはありません。便利ですよね」
あっけらかんと言うフィスロ。
なんだか、この話自体が夢物語みたいになってきたよ……。
「聖女が召喚されると知らされたとき、僕はある人から告げられました。『青の聖女』が召喚される、と」
ある人……。
それって、レンくんが言ってた『国王よりも上の人』ってことかな。
誰だか知らないけど、ちょっと怖いな。
「会いたいですか?」
「え?」
「会いたいのでしたら、紹介しますよ」
なんだそれ。
会うことができない人かと思ったら、そんな簡単に会えるんかい!
まぁ、探る必要がなくなるからいいけどさ。
「では、会いに行きましょう。アポは要りません、突撃訪問です!」
うーん。アポは取った方がいいと思うよ?
日本だとそれが当たり前だからねぇ。
「って、もう真夜中じゃん! 今からは行かないから!」
先方にも迷惑になるでしょうが!
「そんなことないですよ?」
「そんなことあるんですっ! ほら、眠れるようにホットミルクでも淹れてあげるから!」
「クッキーも欲しいです!」
この、甘いもの好きめ!
夜食は体によくないぞ!




