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お土産話

 今日は、王宮を出て魔法学園に行くことにした。

 ルーア王国は奇妙すぎるくらいの平和な国だから、護衛などなしの一人である。

 ちなみに、フィスロは王太子としての仕事があるからと、ヒースさんに引きずられていった。


「ただいま」


 魔法学園に着いて、一目散に図書室へ。

 嗅ぎ慣れた本の香りと、自分で整えた理想の環境。

 それらがぎゅっと詰まっている図書室は、実家に帰ってきたような安心感があった。


「久しぶり。元気にしてた?」


 翠玉目録に触れて、挨拶をする。

 他にも、机や椅子たちにもそっと触れた。

 なんだか、すっごく懐かしい。

 ここから色々始まって、今や国の伝説にまで関わってしまった。

 召喚されてすぐだったあの頃は、図書室改善のために突っ走ってたなぁ。

 あの頃に戻りたい。


「お。ちゃんと仕事してくれてる」


 カウンターの中に入ると、やりかけの書類があった。

 図書室イベントの集計、研究論文専用の本棚の整備。

 私が始めた活動を、図書委員たちは守ってくれていたみたいだ。


「ありがとう」


 小さく呟いて、それらにも触れたとき。


「聖女先生!」


 三つの大声が、図書室に響き渡った。

 一番聞きたかった声。

 私は、自分の口角が上がるのを押さえることができなかった。


「図書室は、静かにね」






「図書室は、静かにね」


 そんな当たり前な注意を言いながら、感傷に浸る。

 あぁ、あの子たちだ。

 ここを守ってくれていた、図書委員たちだ。

 私は、潤みそうになる目はそのまま、くるりと振り返った。

 瞬間、ぽすんと誰かが飛び込んでくる。


「おかえりなさい!」

「先生だ!」

「お待ちしてましたわ!」


 リアにレン、セイラだ。

 三人は、私に思いっきり抱きついてきた。


「寂しかったよ~!」

「先生がいない間、たくさんのイベントを考えたんです! ぜひ、ご教授ください!」

「やっぱり、図書室には聖女先生がいらっしゃらないと」

「ふふふ。ただいま、みんな」


 みんながとてつもなく可愛い。

 キラキラと目を輝かせて、私を見上げてくる。

 なんだか幸せだ。


「王宮の図書館はどうでした?」

「全然行けなかったよ。副業の方が忙しくって!」

「聖女は本業なのでは?」

「ちょっとセイラ、フィスロみたいなこと言わないで」


 フィスロ。

 その名を口にして、思わず胸がドキンと跳ね上がった。

 なんでだろ。


「あれ、そう言えばフィスロ様はいないの?」

「うん。なんか別の仕事だって、ヒースさんに……って、もしかして」


 リアの言葉に、ハッとする。

 魔法学園の学生たちは、フィスロのことを『様』と付けて呼んでいた。

 それに、アーノルドも『補佐官殿』と言っていた。

 まさか、みんなはフィスロが王太子だって知ってたの?


「えぇ。知っていますわ」


 私の疑問に応えるように、セイラが軽く頷いた。

 綺麗な長い髪を、さらりとかき上げて。


「我が国の、優秀でイケメンな王太子殿下ですもの。知らない人の方が珍しいですわ」

「え、じゃあ、知らないふりしてたの?」

「そうだよ~。それが、王太子殿下からの命令だったからね」

「なぜかは分かりません。きっと、『緑の王』として何か言われているんだと思いますよ」


 そう言って、レンくんは目をきらりと光らせた。


「国王よりも上の者に」

「王様よりも?」


 なんだそれ。

 じゃあ、王様が『緑の王』について詳しく知らないのも、その何者かが関係してくるってこと?


「詳しくは、フィスロ様に聞いた方が良いですわ。……それより」


 ふいに、セイラが目をギラっとさせた。

 え、急に怖いよ?


「フィスロ様と、どうなったんですの?」

「ど、どうなったとは?」

「ずっと一緒にいたんでしょ? それなりに意識はしたんじゃないの?」

「渡した本、役に立ちました?」


 ぐいぐいと詰め寄ってくる三人。

 私は、嫌な予感がしてズズッと後ずさりした。

 まさか!


「恋バナ!?」

「当たり前! それを楽しみにしてたんだから!」

「で、どうなんです? 手は繋ぎました?」

「いやいや、それよりも付き合ったんですか?」


 そんな訳ないじゃない!

 ……少しはかっこいいなって思ったし、『月が綺麗ですね』っていう言葉まで言っちゃったけど。

 みんなが言うほど、のめり込んでは……!


「顔が真っ赤ですね。良いことありました?」

「早く教えてよ~!」

「焦らされると、余計に聞きたくなりますわ」

「だ~! うるさーい!」


 知らないんだから!

 私は、カウンターの下に潜り込んだ。

 それでも、追いかけてくる図書委員たち。

 追い込まれながらも、私はふっと目を細めた。

 嬉しいなって。


 この賑やかな図書室が、一番好きだ。


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