お土産話
今日は、王宮を出て魔法学園に行くことにした。
ルーア王国は奇妙すぎるくらいの平和な国だから、護衛などなしの一人である。
ちなみに、フィスロは王太子としての仕事があるからと、ヒースさんに引きずられていった。
「ただいま」
魔法学園に着いて、一目散に図書室へ。
嗅ぎ慣れた本の香りと、自分で整えた理想の環境。
それらがぎゅっと詰まっている図書室は、実家に帰ってきたような安心感があった。
「久しぶり。元気にしてた?」
翠玉目録に触れて、挨拶をする。
他にも、机や椅子たちにもそっと触れた。
なんだか、すっごく懐かしい。
ここから色々始まって、今や国の伝説にまで関わってしまった。
召喚されてすぐだったあの頃は、図書室改善のために突っ走ってたなぁ。
あの頃に戻りたい。
「お。ちゃんと仕事してくれてる」
カウンターの中に入ると、やりかけの書類があった。
図書室イベントの集計、研究論文専用の本棚の整備。
私が始めた活動を、図書委員たちは守ってくれていたみたいだ。
「ありがとう」
小さく呟いて、それらにも触れたとき。
「聖女先生!」
三つの大声が、図書室に響き渡った。
一番聞きたかった声。
私は、自分の口角が上がるのを押さえることができなかった。
「図書室は、静かにね」
*
「図書室は、静かにね」
そんな当たり前な注意を言いながら、感傷に浸る。
あぁ、あの子たちだ。
ここを守ってくれていた、図書委員たちだ。
私は、潤みそうになる目はそのまま、くるりと振り返った。
瞬間、ぽすんと誰かが飛び込んでくる。
「おかえりなさい!」
「先生だ!」
「お待ちしてましたわ!」
リアにレン、セイラだ。
三人は、私に思いっきり抱きついてきた。
「寂しかったよ~!」
「先生がいない間、たくさんのイベントを考えたんです! ぜひ、ご教授ください!」
「やっぱり、図書室には聖女先生がいらっしゃらないと」
「ふふふ。ただいま、みんな」
みんながとてつもなく可愛い。
キラキラと目を輝かせて、私を見上げてくる。
なんだか幸せだ。
「王宮の図書館はどうでした?」
「全然行けなかったよ。副業の方が忙しくって!」
「聖女は本業なのでは?」
「ちょっとセイラ、フィスロみたいなこと言わないで」
フィスロ。
その名を口にして、思わず胸がドキンと跳ね上がった。
なんでだろ。
「あれ、そう言えばフィスロ様はいないの?」
「うん。なんか別の仕事だって、ヒースさんに……って、もしかして」
リアの言葉に、ハッとする。
魔法学園の学生たちは、フィスロのことを『様』と付けて呼んでいた。
それに、アーノルドも『補佐官殿』と言っていた。
まさか、みんなはフィスロが王太子だって知ってたの?
「えぇ。知っていますわ」
私の疑問に応えるように、セイラが軽く頷いた。
綺麗な長い髪を、さらりとかき上げて。
「我が国の、優秀でイケメンな王太子殿下ですもの。知らない人の方が珍しいですわ」
「え、じゃあ、知らないふりしてたの?」
「そうだよ~。それが、王太子殿下からの命令だったからね」
「なぜかは分かりません。きっと、『緑の王』として何か言われているんだと思いますよ」
そう言って、レンくんは目をきらりと光らせた。
「国王よりも上の者に」
「王様よりも?」
なんだそれ。
じゃあ、王様が『緑の王』について詳しく知らないのも、その何者かが関係してくるってこと?
「詳しくは、フィスロ様に聞いた方が良いですわ。……それより」
ふいに、セイラが目をギラっとさせた。
え、急に怖いよ?
「フィスロ様と、どうなったんですの?」
「ど、どうなったとは?」
「ずっと一緒にいたんでしょ? それなりに意識はしたんじゃないの?」
「渡した本、役に立ちました?」
ぐいぐいと詰め寄ってくる三人。
私は、嫌な予感がしてズズッと後ずさりした。
まさか!
「恋バナ!?」
「当たり前! それを楽しみにしてたんだから!」
「で、どうなんです? 手は繋ぎました?」
「いやいや、それよりも付き合ったんですか?」
そんな訳ないじゃない!
……少しはかっこいいなって思ったし、『月が綺麗ですね』っていう言葉まで言っちゃったけど。
みんなが言うほど、のめり込んでは……!
「顔が真っ赤ですね。良いことありました?」
「早く教えてよ~!」
「焦らされると、余計に聞きたくなりますわ」
「だ~! うるさーい!」
知らないんだから!
私は、カウンターの下に潜り込んだ。
それでも、追いかけてくる図書委員たち。
追い込まれながらも、私はふっと目を細めた。
嬉しいなって。
この賑やかな図書室が、一番好きだ。




