表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/70

王太子

 いつだって、『緑の王』は近くにいたんだ。

 自分の知らないところで、私をずっと見ていたんだ。


 真っ白い礼拝堂。

 嵌めこまれたステンドグラスが、色鮮やかな光を映し出す。

 まるで、キャンバスに絵を描いたみたいに。


 私の後ろにいるのは、王太子だ。

 そして、『緑の王』である人。

 だから、ゆっくりと振り返った。

 聖杖を持って、厳かに。


「こんにちは」

「こんにちは、スイ様」


 王太子は、にこりと微笑んだ。

 そして、口を開く。


「ルーア王国王位継承権第一位、王太子を賜わっております」


 銀髪を煌めかせ、エメラルドグリーンの瞳を瞬かせながら。



「フィスロ・ルーアです」





 王太子としての、煌びやかな服。

 深い緑色の生地に、散りばめられたスワロフスキー。

 耳には、輝くエメラルドのイヤリング。

 銀色の髪は、丁寧に結われている。

 聖女補佐官のときとは違う装いが、フィスロを王太子たらしめていた。


「やっぱり、フィスロが王太子だったんだね」

「いつ、気付きました?」

「髪色について教えて貰ったときかな。黒髪は特異な色って聞いて、『緑の王』が持っていた指輪の色に気付いたんだ」


 黒から連想して、ふと思ったこと。

 なんで、あの指輪は黒色だったんだろうって。

 王が持つ指輪なんだから、もっと派手な色でもいいんじゃないかって思ったんだ。


 そしたら、気が付いた。

 その不自然な色は、髪色によって決められたのではないかと。


「聖女の髪は黒だから、王の指輪も黒なんじゃないかって。なら、逆も当てはまるよね。聖女の杖は銀色だから、王の髪は銀色になるんだって思ったの」

「正解ですね」

「それに、フィスロが言ってたでしょ。私の髪色を見て、『アクセサリーにしたら綺麗』だって」


 そこで確信した。

 フィスロが王太子であることは、ずっと前から匂わせられていたんだ。


「さすが、スイ様」


 そう言って、フィスロは微笑んだ。

 いつもとは違う、優雅で美しい笑みだった。

 人は、立場が変わるだけでこうも変わってしまうんだ。

 聖女補佐官のときの、あの無邪気なフィスロはいない。

 王太子として、国を見据えた者が持つ煌めきを放っていた。


「ずっと待っておりました。あなたが、私に気が付くことを」


 フィスロは、身に付けていた白い手袋を取った。

 そして、その手を私に向かって差し出してくる。


「スイ様の隣に立つことができる未来を」


 エメラルドの光が、フィスロの手から溢れだす。

 それは、綺麗な森のような光。

 やがて、その光は静かに消え去る。

 手のひらに残った物は。


「指輪……」


 黒曜石のように輝く、黒い指輪。

 その中央に、大粒のエメラルドが嵌めこまれていた。


「これが、『緑の王』の証です。『青の聖女』を待ち侘びた指輪です」


 そう言って、フィスロは私を見た。

 そこで改めて、私はフィスロの顔を見た。

瞬間、思わず息を呑む。

 フィスロは、泣きそうな顔をしていたのだ。

 

「ずっと、待っていたんです」


 震える声が聞こえた瞬間、私はレモングラスの香りに包まれた。

 驚いて声が出ない。

 私は、フィスロに抱きしめられていた。


「おかえりなさい」


 私の黒髪に、フィスロの優しい唇が触れた気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ