答え合わせ
「こんにちは、聖女様」
今日は、王宮図書館ではなく王宮礼拝堂に行くことにした。
そのため、フィスロと一緒に回廊を歩いていたところ。
ふと、誰かに話しかけられた。
「あ、ヒースさん」
ヒースだった。
相変わらずの綺麗な緑髪に、ドキリとする。
もしかしたら、彼が『緑の王』で王太子なのかもしれないって。
「どうかしたんですか?」
「いやぁ、実は聖女補佐官殿をお借りしたくて」
「フィスロを?」
フィスロは、王国の中でも優秀な魔法使いらしい。
そのため、その力を借りたい人は多い訳で。
ヒースは王太子殿下の側近ということになっている。
ならば、何か王太子殿下のことで力を借りなければならないことがあったのかもしれない。
「いいですよ」
別に、断る理由はない。
だから、私はフィスロの背中をぐいっと押した。
「……スイ様」
「ん?」
「さすがのフィスロも傷つきます」
フィスロは、私を見てわざとらしく肩を落とした。
ま、まぁ、私もフィスロがいないとつまらないんだけどね。
優秀な力を借りたいっていうお願いなら、断る必要はないかと思って。
「大丈夫よ。さっさと行ってらっしゃい」
「扱いが酷いです。スイ様、どうか神殿の礼拝堂の方に行ってください。神殿長からお菓子を貰いたいです」
「そんなこと、どうでもいい。はいはい、またね」
フィスロは、「あぁぁ!」と叫び声を上げながら連れ去られていった。
おもしろい。
*
王宮礼拝堂に着く。
人はいなかったため、私は一人で礼拝堂へ入った。
お目当ては、『運命』の絵画。
ステンドグラスの色鮮やかな光によって、絵画は美しく煌めいていた。
絵画を見上げる。
ぞっとするくらい綺麗な絵を、私はじっと見つめた。
聖女の持つ、銀色の聖杖。
王の持つ、黒い指輪。
なぜこの色なんだろう、と考えたときがあった。
それは、髪色の意味について知ったあのとき。
髪色に意味があるなら、これにもあるんじゃないかって。
そんな単純に考えたことだった。
『異国の聖女様の黒髪は、象徴的なものです。それを際立たせるために、聖女服は白色なんですよ』
いつの日か、リンちゃんが教えてくれたこと。
黒髪は、異国の聖女以外に見られない色。
その色が神格化していても、おかしくはない。
絵に描かれた『青の聖女』は、やっぱり黒髪をしていた。
まるで、王が持つ指輪と同じような──。
『意外と近くにいるものですよ』
『辛いでしょうけど、耐えてください。いつか、王太子殿下が迎えに参ります』
『王太子殿下は見ておられます。そして、きちんと指示を出してくださいます。聖女様と王太子殿下は、どこかで繋がっているものなんですよ』
『兄さんを、よろしくお願いいたします』
蘇る、言葉たち。
そして。
『スイ様の髪は、本当にお綺麗です。この色、アクセサリーにしたら美しいのでしょうね』
陽が、礼拝堂に差し込んだ。
白い壁を煌々と照らし、神聖な空気を醸し出す。
そして。
カツン──。
誰かの足音が響いた。
それは、礼拝堂の扉の向こうから聞こえてくる。
そして。
ギィ……。
扉が開かれた。
誰なのか、それを知るために振り返ることはしなかった。
魔力を集め、銀色の聖杖を生み出す。
それに嵌めこまれた青い宝石が、力を得たように強く煌めき始めた。
「……こんにちは」
振り返ることができない。
だから、震える声で精一杯の言葉を発した。
聖杖を握りしめて。
コツ、コツ……と足音が私に向かって歩いてくる。
近づいてくる度、私の鼓動はバクバクと暴れ始める。
王太子は、誰なのか。
私の『青の聖女』と対となる『緑の王』は、誰なのか。
考えて、考え抜いて。
その答えに、ようやく達した。
後ろにいる人の姿は見ていない。
でも、誰だか分かる。
間違えてはいない。
きっと、あの人だ。
「こんにちは、王太子殿下」
ようやく会えたね。
待ち侘びたよ。
私は、聖杖を持ったまま、ゆっくりと振り返った。




