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モヤモヤ

 王宮図書館は、誰でも入れるところではない。

 通行証を持った者のみが入れる場所。

 私は、聖女として通行を許可されていた。


「本をね、もっと探しやすくしたいの。どうしたらいいかしら」


 司書であるグレアさんに相談された。

 今日は、王宮図書館に引きこもっていた。

 考えることが多すぎて、頭がパンクしてしまいそうだったから。

 気が紛れることをしようと、フィスロが提案してくれたのだ。


「そうですね。棚見出しとかどうですか?」


 以前、魔法学園の図書室に取り入れた棚見出し。

 本棚から作者名がひょこっと出ているおかげで、探しやすさがぐんとアップするのだ。


 そう言えば、魔法学園の図書室に行けていないな。

 聖女として、『青の聖女』として考えることが多かったから。

 特に、『緑の王』らしき人物たちについての考察ばかりしていた。


「……グレアさんは、王太子殿下の正体をご存じなんですか?」


 ふと、そんな問いかけが口から出た。

 あっと気づいたときには、既にグレアさんに届いていた。

 まずい、変なこと聞いちゃった。


「あ、ごめんなさい」

「いいえ。悩むものね、仕方ないわ」


 グレアさんは、ふふっと微笑んで流してくれた。

 ふぅ、よかった。

 本に囲まれて気が抜けたのかも。

 言動には注意しなくちゃ。


「……一つ、言えることとしては」


 胸を撫で下ろしていると、グレアさんが呟いた。

 図書館を見回して、思い出に浸るような顔になる。


「王太子殿下が姿を隠したのは、スイ様が召喚されることが決まったとき。その日まで交流があった人や顔を知っている人は、黙秘しなきゃならなくなったの」


 ほら、とグレアさんは自分の口を指差した。

 グレアさんは、「王太子殿下の正体は──」と話し出す。しかし、その正体の名を言うところで、声が止まった。まるで、強制的に止められたように。


「こうなるのよ」

「だから、徹底して情報が洩れないんだ……」


 不思議。

 誰が、何の目的を持って動かしているんだろう。

 ますます分からなくなる。


「深く考えないことよ。そんなときは本でも読んで、落ち着きなさいな」


 グレアさんは、一冊の本を手渡してくれた。

 そして、目線で何かを訴えてくる。

 その視線の先には、フィスロが立っていた。

 迎えに来てくれた、聖女補佐官の姿が。





「ねぇ、スイ様」

「なに」

「そんなに静かだと、僕の方が変になっちゃいます」

「……どういうことよ」

「だって、こんなに静かなスイ様はじめてです! いつも、何かしら騒いでいらっしゃるのに!」

「失礼ね!」


 そんなに騒いでないよっ!


「お、いつものスイ様だ」


 キッとフィスロを睨むと、彼はにこにこと笑った。

 眩しい笑顔。

 その笑みを真正面から見ることができなくて、思わず顔を背けてしまう。

 変なの。胸がドキドキ言っている……。


「それで、グレアさんから何の本を渡されたんです?」

「これ」


 渡された本。

 それは、『禁断恋愛物語 セレナ編』というものだ。

 セレナという女の子の物語で、どうやら色々な女の子の恋愛物語シリーズらしい。

 なんでこんな本を渡してきたんだ?


「スイ様の回りには、恋愛物語好きな人ばかりですね。図書委員たちも」

「そうなのかも。あ、これフィスロにってグレアさんが」


 フィスロにはこれを、って託されてたんだよね。

 そのタイトルは。


「『婚約者に想いを伝えよう!』って……。なぜこれを?」

「いずれ婚約者ができたときのためなんじゃない?」


 グレアさんの選書は、よく分からない。

 でも、何かしら意味があるのかもね。

 ……意味があったらちょっと怖いけど。


「ちなみに、フィスロには婚約者っているの?」

「……一応」

「んえ!?」


 ま、まぁ貴族なら当たり前か。

 だから、グレアさんはその本をフィスロに渡したのかな。


 あれ。

 ドキドキしてた胸に、チクリという刺激があった。

 なんでだろう。

 モヤモヤが止まらないや。


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