アーノルドの心
「ようやく、兄さんが呪縛から解き放たれるね」
「言い方が悪いけど、本当に呪縛だな」
夜遅く。
寝ようとした矢先、バルコニーに人影が見えた。
その影は、ずっと慕っている兄のもの。
アーノルドは、警戒もせずに窓を開けた。
「聖女先生……スイ様は?」
「明日、王宮図書館に入り浸るらしい。そのために早く寝たと報告があった」
「あはは、先生らしいや」
兄さんのために、温かい紅茶を淹れた。
大好きな兄さんは、僕の紅茶を「おいしい」といつも飲んでくれる。
「アーノルド。スイ様に『替わり』の話をしたそうだな」
「うん。でも、僕は兄さんの『替わり』になんかならないよ。僕は、兄さんを支えていきたいから」
これは、本音。
玉座だとか、栄誉ある称号とかはいらない。
兄さんと一緒にいられれば、本当にそれだけで幸せだから。
「聖女先生は、兄さんの正体に気付いているのかな」
「さぁな。もし気付くような素振りがあったら報告するようにと、リンには伝えてある」
そう言って、兄さんは微笑んだ。
紅茶のカップを置き、「おいしかった、ありがとう」と言ってくれる。
僕の頭をぽんと撫でてから、兄さんは立ち上がった。
王族の側近や近衛兵と同じように腰に差した剣が、きらりと煌めく。
「また、どこかで」
「うん。待ってるね」
兄さんは、バルコニーから外へと姿を消した。
あぁ、早く兄さんの正体を見抜いてくれたらいいのに。
そうしたら、あんな嘘をつかなくても話せるのに。
だから、王族は堅苦しい。
何かを守るためには、何かを犠牲にして嘘をつかなければならないから。




