可能性
「ではここで、婚約式を執り行おうか」
話が急展開すぎる。
私が『青の聖女』だってことが分かって、じゃあ『緑の王』はいるんだってなって。
そっから一気に話が飛び過ぎてない!?
「え、ちょっと、それはマジですか」
「マジマジ。……と言いたいところだが」
ってか、『マジ』ってこの国にある言葉なの?
そんな疑問はさておき、王様はにやりと笑った。
「心の準備ができていなさそうだしな。まだ待つことにしよう」
「あ、ありがとうございます……?」
「将来の婚約者を、自分で探してみるといい。がんばるのだぞ」
「……もしかして、そっちが本音だったりします?」
「さぁな」
絶対そうだ!
楽しんでいやがる!!
ふと、何かを感じ取ったのか、私は広間の貴族たちを見てみた。
彼らは、好奇心のかたまりのような目で私を見ている。
目を向ければ、「がんばれ!」とガッツポーズをしてくる貴族までいた。
……さては、『緑の王』の正体を知っているな?
「私だけなんで教えてくれないんです!? これも、おもしろそうだからですか!?」
勢いづいて、王様に近づく。
すると、国王は真剣な目になった。
「それは、決まりなのだ」
「え?」
「『緑の王』は、生まれたときに分かると記されていた。そして、『緑の王』が生きる時代において、我ら中枢機関が行うべきことは、彼を隠すことなのだ。特に、『青の聖女』からな」
……ということは。
まさか、『緑の王』は王太子!?
いや、なんとなく検討は付いていたけど。こうやって改めて言われると、驚くものがある。
「隠すのはなんで? 『緑の王』は何か秘密があるんですか?」
「それは、本人しか分からない。我らはただ、彼を守ることだけを使命として受け継がれてきただけなのだ」
国王ですら、分からないこと。
それは、偉大なる聖女が遺した秘密。
平和の秘密が、きっとそこには隠されている。
「王太子が呼んでいる。その声を、『青の聖女』そなたが拾うのだ」
これは、私に課されたものなんだ。
でも、司書教諭はどうなるんだろう。
司書教諭は、ずっと追い求めてきたものだ。
学生時代に憧れて、勉強してようやく資格を取った。
その矢先になぜか召喚されちゃって、絶望はしたけどこっちで司書教諭になれて。
生きる世界が違ってしまったけど、間違いなく私の生きがいだったんだ。
って、ちょっと待って。
あの『王太子が呼んでいる』って、そっちの意味だったの!?
てっきり、自分から姿を現してくれるんだと思ってた!
許さん!
*
国王との謁見が終わり、私はすぐに神殿に向かった。
どうしても確認したいことがあったから。
「おや、聖女様。今日はアップルパイが焼けておりますぞ」
「……神殿長のこと、フィスロって呼びたくなるよ」
出迎えてくれた神殿長は、意気揚々としてアップルパイを勧めてきた。
いやいや、それどころじゃないのよ。
私は、神殿の書庫に行きたい気持ちをぐっと堪えながら、礼拝堂へ向かう。
その後ろでは、「お菓子にも本にも目を向けられないとは……。明日は雨が降りそうですな」と神殿長が余計なことを言っている。
本当に失礼ね。
「これこれ。確認したかったんだ」
礼拝堂に入り、すぐさま私は『運命』の絵へ近づく。
王宮礼拝堂でもよかったんだけど、あそこは詳しい話を聞ける人がいない。
だから、一番詳しいであろう神殿長がいる礼拝堂を訪ねたんだ。
「ねぇ、神殿長。『青の聖女』と『緑の王』は、お互いの色が付いた宝石を交換してるよね。つまり、これってこと?」
私は、魔力で聖杖を取り出す。
それは、銀色に青い宝石が嵌めこまれた、私の杖だ。
「いえ、それはご本人だけが使えるものです。交換しているものは、言わば『よりしろ』ですな」
「よりしろ……」
「ご自分の魔力が込められた杖または指輪を、この先を共にするお相手に渡すのです。そうすることによって、お互いを守り、繋がり合うことを意味します」
なるほど。
とは言え、私の青い宝石は完全なサファイアみたいなものではない。
エメラルドグリーンを混ぜた、ターコイズブルーのような宝石だ。
『運命』の絵の宝石は、完全なサファイア。
つまり、この私の宝石は、いつかターコイズブルーじゃなくなるんだ。
王様は、『緑の王』と共鳴しているからだと言っていた。もし、『緑の王』を見つけたとしたら、この宝石はサファイア色になるのだろうか。
「それは、分かりませぬなぁ。魔力の色は十人十色、スイ様の色は共鳴してもしなくても、ターコイズブルーの可能性はありますぞ」
神殿長は、ほっほっと続ける。
きっと、分からないことだらけなのだ。
なにせ、『青の聖女』と『緑の王』は、予言されていてもいつ現れるか分からない存在なんだから。
もう一度、『運命』を見つめる。
交換されている杖と指輪は、それぞれ銀色と黒色に輝いていた。
……ん?
杖の銀色は、私の杖と同じってこと。
じゃあ、指輪の黒色は?
もしかして、緑の宝石が嵌めこまれた黒い指輪を持っている人が、『緑の王』ってこと?
緑の宝石ってことは、魔力がその色だってこと。
現時点で、『緑』のイメージがある人は。
「アーノルド、ヒースさん、フィスロ……」
アーノルドが、第二王子ではない可能性?
ヒースさんが、側近ではなく王太子?
フィスロが、ただの聖女補佐官ではない?
可能性は、まだ多い。




