予言
「聖女先生!」
王宮図書館。
一人で本を物色していると、ここでは聞かないであろう言葉が飛び込んで来た。
「あ、アーノルドさん」
「やっぱりここにいた」
図書館にやってきたのは、第二王子だった。
いつもの制服ではなく、王子としての装い。
キラキラした装飾が付いた服、耳元で揺れるイヤリング。
学園でも王子様なのに、余計に王子様感がアップしていた。
「聖女先生が王宮に来られるということで、会いたくて来てしまいました」
「それは嬉しい。ありがとう」
「図書委員たちの悔しがっていた顔が見物でしたよ」
ふっふっふと笑うアーノルド。
確かに、ここはアーノルドの家と言われてもおかしくない訳で。
その家の中に私がいるんだもん、会うのは自由。
うわぁ、やっぱり王族って規模が違うね。
「にしても、かっこいいね。王子様って感じ」
「えへへ、恥ずかしいですけどね」
アーノルドの装いに目を奪われていると、彼は恥ずかしそうに言った。
「今日は学園が休みなので、兄さんの仕事の手伝いをしてたんです」
「王太子殿下の?」
「はい。僕は、国王を支える王弟として在るので」
そっか。
国王にはならないけど、それと同じくらい大事な役目に就くんだね。
それは責任重大だ。
「ところで、先生はずっとここにいらっしゃるんですか?」
「うん、そうだね。今のところ、何もやることがないからね」
ここに来た意味は、ルーア王国の秘密を知るため。
だけど、今日はフィスロが別の仕事でいない。
それに、特に聖女としての仕事はない。
つまり暇なのである。
「じゃあ、お城探検でもしますか!?」
アーノルドが、元気よく提案してきた。
*
王宮は、王族のプライベート空間と政治を行う空間で分かれている。
その他にも、付属施設は多い。
変わらないのは、その豪華さだった。
「うわ、すごいね」
「あまり飾らなくてもいい気がしますけどね。国民を安心させるためには、必要なことなんです」
王宮が豪華なのは、国が潤っているため。
国の中心が廃れていたら、国民は生活が脅かされているのではないかと不安になる。
そのため、王宮はどこもかしこも豪奢だった。
「ていうか、このお城探検は誰かの許可を得てるの?」
「きっと大丈夫です。父上も兄さんも、きっと許可してくれます。きっと」
「『きっと』をそんな連呼されると、ちょっと不安なんだけど」
「まぁ、大丈夫です」
ほんとかなぁ。
少し怪しみながらも、探検を楽しんでしまう。
謁見の間、応接の間、祈りの間。
さまざまな部屋が、王宮の中に造られている。
その中で。
「あれ。ここって神殿の礼拝堂そっくりだ」
「そうなんです。かつての聖女様が造った、王宮礼拝堂なんですよ」
ステンドグラスが嵌め込まれた、神聖そうな空間。
そこに、カツカツと入っていくアーノルド。
陽の光が差し込んでいるからか、第二王子の背中が神々しく見えた。
ふと、壁を見る。
真っ白い壁には、一枚の絵画が飾られていた。
「あれ、これって……」
「あぁ、『運命』ですね。王家に伝わる、聖女の予言絵ですよ」
「予言?」
それ、神殿長は言ってなかった。
予言って、何を予言してるんだろう。
「かつて、この国王と聖女が存在したのはご存じですか?」
「うん。神殿長から聞いたよ」
「そのとき、神殿長が何か言っていませんでしたか?」
神殿長が? 何を言っていたか?
うーんと、ちょっと待ってね。
頭をフル回転させるから。
えっと、確か絵の説明を受けた。
確か、『かつて、聖女と国王が交わした契りじゃ。いつかの世で巡り合うであろう予言を記し、それを絵に起こさせた。いずれ、この『運命』を背負う者たちに向けてな』って言ってたっけ。
……っあ、『予言』って言ってる!
それに──。
「詳しくは国王に聞いてみるといい、って言ってた……」
「えぇ。詳しいことは国王が知っています。僕が知っているのは、この『予言』の部分です」
アーノルドは、『運命』に手をかざした。
「この絵に描かれていること、これが『予言』です」
「つまり?」
「これは、いずれの世で同じことが起きるものです。そして、この状況は婚約式とされています」
つまり、国王と聖女の婚約式の絵という訳だ。
そのとき、ふと昨日のフィスロの言葉が頭をよぎった。
『時に、王族と婚姻を結ばなければならないケースもありますけど』
この聖女様はきっと、そのケースなのだ。
そして、その状況は、いつかまた起きる。
それを指している絵ということだ。
「聖女先生」
アーノルドが、私を呼んだ。
振り返れば、緑色の瞳がじっとこちらを見ている。
「兄をよろしくお願いいたします、聖女様」
そう放たれた言葉。
それは、いつしかアーノルドが言った言葉と、一言一句違わない言葉だった。




