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予言

「聖女先生!」


 王宮図書館。

 一人で本を物色していると、ここでは聞かないであろう言葉が飛び込んで来た。


「あ、アーノルドさん」

「やっぱりここにいた」


 図書館にやってきたのは、第二王子だった。

 いつもの制服ではなく、王子としての装い。

 キラキラした装飾が付いた服、耳元で揺れるイヤリング。

 学園でも王子様なのに、余計に王子様感がアップしていた。


「聖女先生が王宮に来られるということで、会いたくて来てしまいました」

「それは嬉しい。ありがとう」

「図書委員たちの悔しがっていた顔が見物でしたよ」


 ふっふっふと笑うアーノルド。

 確かに、ここはアーノルドの家と言われてもおかしくない訳で。

 その家の中に私がいるんだもん、会うのは自由。

 うわぁ、やっぱり王族って規模が違うね。


「にしても、かっこいいね。王子様って感じ」

「えへへ、恥ずかしいですけどね」


 アーノルドの装いに目を奪われていると、彼は恥ずかしそうに言った。


「今日は学園が休みなので、兄さんの仕事の手伝いをしてたんです」

「王太子殿下の?」

「はい。僕は、国王を支える王弟として在るので」


 そっか。

 国王にはならないけど、それと同じくらい大事な役目に就くんだね。

 それは責任重大だ。


「ところで、先生はずっとここにいらっしゃるんですか?」

「うん、そうだね。今のところ、何もやることがないからね」


 ここに来た意味は、ルーア王国の秘密を知るため。

 だけど、今日はフィスロが別の仕事でいない。

 それに、特に聖女としての仕事はない。

 つまり暇なのである。


「じゃあ、お城探検でもしますか!?」


 アーノルドが、元気よく提案してきた。





 王宮は、王族のプライベート空間と政治を行う空間で分かれている。

 その他にも、付属施設は多い。

 変わらないのは、その豪華さだった。


「うわ、すごいね」

「あまり飾らなくてもいい気がしますけどね。国民を安心させるためには、必要なことなんです」


 王宮が豪華なのは、国が潤っているため。

 国の中心が廃れていたら、国民は生活が脅かされているのではないかと不安になる。

 そのため、王宮はどこもかしこも豪奢だった。


「ていうか、このお城探検は誰かの許可を得てるの?」

「きっと大丈夫です。父上も兄さんも、きっと許可してくれます。きっと」

「『きっと』をそんな連呼されると、ちょっと不安なんだけど」

「まぁ、大丈夫です」


 ほんとかなぁ。

 少し怪しみながらも、探検を楽しんでしまう。

 謁見の間、応接の間、祈りの間。

 さまざまな部屋が、王宮の中に造られている。

 その中で。


「あれ。ここって神殿の礼拝堂そっくりだ」

「そうなんです。かつての聖女様が造った、王宮礼拝堂なんですよ」


 ステンドグラスが嵌め込まれた、神聖そうな空間。

 そこに、カツカツと入っていくアーノルド。

 陽の光が差し込んでいるからか、第二王子の背中が神々しく見えた。


 ふと、壁を見る。

 真っ白い壁には、一枚の絵画が飾られていた。


「あれ、これって……」

「あぁ、『運命』ですね。王家に伝わる、聖女の予言絵ですよ」

「予言?」


 それ、神殿長は言ってなかった。

 予言って、何を予言してるんだろう。


「かつて、この国王と聖女が存在したのはご存じですか?」

「うん。神殿長から聞いたよ」

「そのとき、神殿長が何か言っていませんでしたか?」


 神殿長が? 何を言っていたか?

 うーんと、ちょっと待ってね。

 頭をフル回転させるから。


 えっと、確か絵の説明を受けた。

 確か、『かつて、聖女と国王が交わした契りじゃ。いつかの世で巡り合うであろう予言を記し、それを絵に起こさせた。いずれ、この『運命』を背負う者たちに向けてな』って言ってたっけ。


……っあ、『予言』って言ってる!

 それに──。


「詳しくは国王に聞いてみるといい、って言ってた……」

「えぇ。詳しいことは国王が知っています。僕が知っているのは、この『予言』の部分です」


 アーノルドは、『運命』に手をかざした。


「この絵に描かれていること、これが『予言』です」

「つまり?」

「これは、いずれの世で同じことが起きるものです。そして、この状況は婚約式とされています」


 つまり、国王と聖女の婚約式の絵という訳だ。

 そのとき、ふと昨日のフィスロの言葉が頭をよぎった。


『時に、王族と婚姻を結ばなければならないケースもありますけど』


 この聖女様はきっと、そのケースなのだ。

 そして、その状況は、いつかまた起きる。

 それを指している絵ということだ。


「聖女先生」


 アーノルドが、私を呼んだ。

 振り返れば、緑色の瞳がじっとこちらを見ている。


「兄をよろしくお願いいたします、聖女様」


 そう放たれた言葉。

 それは、いつしかアーノルドが言った言葉と、一言一句違わない言葉だった。


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