お茶会
王宮は、いつ来ても煌びやかな場所だ。
豪奢なシャンデリアに、ふかふかのカーペット。
王家の権力がドーンッと現れた建物のように感じる。
そして、今回の目玉である王宮図書館は、東の棟にある。
国会図書館とは違い、王国建国に関する資料が主に収められている。他にも、古代魔術の禁書とか。
「うわ、やっぱりすごいね」
図書館に着くなり、私は目一杯息を吸い込む。
本の香りは、ずっと体中で感じていたいのだ!
「これはこれは、聖女様」
禁書が無くなった事件(犯人は猫)でお世話になった司書さんが、奥からすっと現れた。
グレアさんという名前で、歳は神殿長より少し若いくらい。
大ベテランの司書さんという訳だ。
「聖女様が来られると聞いて、ものすごく楽しみにしたんですのよ。スイ様専用のお席もご用意しましたので、ぜひたくさん書物をお読みになってくださいな」
「わぁ! ありがとうございます!」
すごい!
さすが、グレアさん!
専用の席を用意してくれているなんて、感動だよ!
「じゃあ、さっそく……」
ふらふらと近くの本棚に近づいていく。
しかし。
「まずは謁見ですよ」
首根っこをガッと掴まれた。
「フィスロ! 裏切る気!?」
「裏切るも何も、結託はしてませんよ」
「この、生意気補佐官め!」
こうして私は、大好きな本の前から遠ざけられていったのだった。
*
今まで、国王との謁見と言えば、謁見の間で行われた。
でも、連れていかれたのは別の場所。
王宮の奥、警備が強いところ。
「よく来たな、スイ殿よ」
国王の執務室だった。
「な、なんでここなのよ」
隣に立っているフィスロに、ひそひそと話しかける。
どう考えてもおかしいでしょ、これ。
国王の執務室に入るなんて、身内でもないのに。
フィスロはどこまで権限を持っているのよ?
「場所は僕が決めて良いと言われたので、『王宮のお菓子が食べたいです』って言ったんです」
「なんで!?」
確かに、国王が座っている応接セットのテーブルには、煌びやかなお菓子で溢れている。
それに、どんどん後からあとからお菓子は追加されていく。
……多すぎない?
「ほら、座れよ」
国王が、ひらひらと手を示す。
最高権力者に言われてしまうと、断ることはできない。
私は、色々とツッコみたいところを我慢して、ソファに座った。
その隣に腰かけたフィスロ。
国王がお茶とお菓子に手を付けたところで、さっそくスコーンに手を伸ばしている。
いや、どんだけ食べたかったのよ?
「王宮のお菓子はおいしいですからね。何年食べても飽きませんよ、これは」
フィスロに、はいっとスコーンを渡される。
仕方ない。
私はスコーンを半分に割ると、口の中へ放り込んだ。
「……おいしい」
悔しいくらいにおいしかった。
「はっは。いいじゃろ」
王様はご機嫌そうだ。
紅茶のカップを持ちながら、楽しそうにこちらを見ている。
「本好き聖女と、甘党補佐官か。良い組み合わせじゃないか」
「良い組み合わせなんですか?」
絶対、良い組み合わせじゃなさそうだけどな。
……って、そうだ。
ここに来た目的を忘れてたよ。
私は、マカロンを押し込んでから口を開く。
「で、執務室に呼ばれた理由ってなんです?」
とりあえず、一番聞きたいことを言ってみた。
すると、国王はカップをことりと置く。
そして、ふっと真面目な顔になった。
あ、なにか教えてくれるのかな。
私の背筋が、自然とまっすぐになる。
「それはな」
「それは?」
「……お茶会をするためだ」
お、お茶会?
「王宮のお菓子はおいしくてな。ぜひ一度、スイ殿に食べさせたかったのだ」
それだけ?
「それだけですよ」
フィスロが、口いっぱいにお菓子を入れて復唱してきた。
えぇい! 緊張して損した!
んで、なんでそんな呑気に食べてるのよ!?
可愛いリスみたいにさ!
こうして、国王の謁見──改め、ただのお茶会は過ぎていくのであった。




