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決意

「ほっほっほ。それじゃあ、王宮に行くことにしたんですな」


 神殿にて。

 王宮行きのことを伝えに、神殿長に顔を出す。

 神殿長は、嬉しそうに微笑んだ。


「正直、国が平和なものじゃから、聖女の祈りなど必要なくてのう。聖女様が気の毒に思えていたゆえ、嬉しい限りじゃ」

「え、でも私を召喚したとき、『待ってましたー!』って叫んでいませんでしたっけ?」


 聖女の祈りさえいらないほどの平和さ。

 それなのに、なんで私を待ち望んでいたんだろう。


「……フィスロ殿がいないからの、特別に教えてあげよう」


 神殿長は、声をひそめて語り出した。





 神殿長の話から、三日後。

 正式に王宮へ赴くことが決まったため、聖女殿をフィスロと共に出る。


「ねぇ、フィスロ」


 中庭の花々が、風に揺られてさわさわと揺れている。

 緑豊かな中庭。その中には、青い薔薇も植えられていた。


「神話の時代とか、伝説の話とかって信じる?」

「唐突ですね。……まぁ、僕は信じますね。でないと、この職は務まりませんので」

「聖女はいつ召喚されるのか分からないから?」

「えぇ。どの時代の、どの日に召喚されるのかは分かりません。強いて言うのなら……」


 フィスロの言葉が、神殿長の言葉から考えたことを確信づけた。

 だから、私はフィスロに声を合わせる。


「王太子殿下が成人されたときに、聖女召喚が決定される」


「……ご存じだったんですか」

「ううん。神殿長から聞いたことから考えてみたの」


『聖女と王太子はのう、繋がっているのじゃ』


 神殿長に教えてもらったこと。

 そこから、自分なりに考えを導き出した。


 いつ召喚されるのか分からない聖女。

 しかも、召喚されない時代もある。

 そのターニングポイントは、王太子に知らせが行くんじゃないかって。

 それも特別な日に。


「さすがですね」


 そう言って、フィスロは微笑んだ。


「では、僕も一つだけお教えしましょう。スイ様の聖女の色は『青』ですが」


 そこで、フィスロは言葉を切った。

 ちょうど、回廊に向かって伸びている植物へ向かう。

 丁寧な手つきで折り取ったのは、深い煌めきを放つ青い薔薇だった。


「歴代聖女の中で、青色聖女はおりません」

「え……」


 聖女の色は、魔力の色であり聖女を示すもの。

 私の『青』は、そんなにも稀有なものだったの……?


「もちろん、王太子殿下が起因となっていますが、スイ様にも起因はあるのですよ」


 フィスロは、青薔薇を口元に寄せた。

 小さく口づけを落とすと、私にすっと差し出してくる。


「参りましょう、青薔薇聖女様。ルーアの秘密を知るために」


 受け取った薔薇は、青く輝いていた。

 そして、それに呼応するように、フィスロの瞳はエメラルドグリーンに煌めいていた。






「兄さん!」


 アーノルドの声。

 振り返れば、幼い頃と変わらない瞳で自分を見上げる弟がいた。


「どうした」

「聖女先生は、もう着いたんですか?」

「あぁ。とりあえず客間にお通しした。明日は、図書館へ行くらしい」

「そうなんですね。……ふふっ」

「ん?」


 不意に笑った、アーノルド。

 その不思議さに、王太子は首を傾げる。

 何か、おもしろいことでもあったのだろうか。


「僕は『向こう』の話し方も好きだなって思って」

「そうか」

「兄さんは、どっちが好きなの?」

「……そうだな」


少し考えて、小さく笑みを浮かべる。

考えたことは、噓偽りなく、本心の自分の気持ちだった。


「お菓子が食べたいなぁ」


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