決意
「ほっほっほ。それじゃあ、王宮に行くことにしたんですな」
神殿にて。
王宮行きのことを伝えに、神殿長に顔を出す。
神殿長は、嬉しそうに微笑んだ。
「正直、国が平和なものじゃから、聖女の祈りなど必要なくてのう。聖女様が気の毒に思えていたゆえ、嬉しい限りじゃ」
「え、でも私を召喚したとき、『待ってましたー!』って叫んでいませんでしたっけ?」
聖女の祈りさえいらないほどの平和さ。
それなのに、なんで私を待ち望んでいたんだろう。
「……フィスロ殿がいないからの、特別に教えてあげよう」
神殿長は、声をひそめて語り出した。
*
神殿長の話から、三日後。
正式に王宮へ赴くことが決まったため、聖女殿をフィスロと共に出る。
「ねぇ、フィスロ」
中庭の花々が、風に揺られてさわさわと揺れている。
緑豊かな中庭。その中には、青い薔薇も植えられていた。
「神話の時代とか、伝説の話とかって信じる?」
「唐突ですね。……まぁ、僕は信じますね。でないと、この職は務まりませんので」
「聖女はいつ召喚されるのか分からないから?」
「えぇ。どの時代の、どの日に召喚されるのかは分かりません。強いて言うのなら……」
フィスロの言葉が、神殿長の言葉から考えたことを確信づけた。
だから、私はフィスロに声を合わせる。
「王太子殿下が成人されたときに、聖女召喚が決定される」
「……ご存じだったんですか」
「ううん。神殿長から聞いたことから考えてみたの」
『聖女と王太子はのう、繋がっているのじゃ』
神殿長に教えてもらったこと。
そこから、自分なりに考えを導き出した。
いつ召喚されるのか分からない聖女。
しかも、召喚されない時代もある。
そのターニングポイントは、王太子に知らせが行くんじゃないかって。
それも特別な日に。
「さすがですね」
そう言って、フィスロは微笑んだ。
「では、僕も一つだけお教えしましょう。スイ様の聖女の色は『青』ですが」
そこで、フィスロは言葉を切った。
ちょうど、回廊に向かって伸びている植物へ向かう。
丁寧な手つきで折り取ったのは、深い煌めきを放つ青い薔薇だった。
「歴代聖女の中で、青色聖女はおりません」
「え……」
聖女の色は、魔力の色であり聖女を示すもの。
私の『青』は、そんなにも稀有なものだったの……?
「もちろん、王太子殿下が起因となっていますが、スイ様にも起因はあるのですよ」
フィスロは、青薔薇を口元に寄せた。
小さく口づけを落とすと、私にすっと差し出してくる。
「参りましょう、青薔薇聖女様。ルーアの秘密を知るために」
受け取った薔薇は、青く輝いていた。
そして、それに呼応するように、フィスロの瞳はエメラルドグリーンに煌めいていた。
◇
「兄さん!」
アーノルドの声。
振り返れば、幼い頃と変わらない瞳で自分を見上げる弟がいた。
「どうした」
「聖女先生は、もう着いたんですか?」
「あぁ。とりあえず客間にお通しした。明日は、図書館へ行くらしい」
「そうなんですね。……ふふっ」
「ん?」
不意に笑った、アーノルド。
その不思議さに、王太子は首を傾げる。
何か、おもしろいことでもあったのだろうか。
「僕は『向こう』の話し方も好きだなって思って」
「そうか」
「兄さんは、どっちが好きなの?」
「……そうだな」
少し考えて、小さく笑みを浮かべる。
考えたことは、噓偽りなく、本心の自分の気持ちだった。
「お菓子が食べたいなぁ」




