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迎え

「聖女スイ様。お迎えに上がりました」


 学園長と話していたとき、ふと現れたヒースさん。

 艶やかな緑色の髪が、窓から入ってきた風によってふわりと揺れる。


「お、お迎え……!?」

「王太子殿下がお呼びです」


 王太子が、私を呼んでいる……?


 今まで姿を現さなかった、王太子。

 その王太子が、ついに動き出した。


「国から平和が消えるんですか?」

「え?」

「だって、聖女は国が大変なことになったときに召喚しているんでしょ? なら、何か起きたのかなって」


 私の言葉に、ヒースさんは真剣な光を瞳に宿した。

 そして、ふっと視線を横にずらす。

 その視線の先には、フィスロがいた。


「スイ様。ここは大人しく従いましょう」

「はぁ? 従うも何も、王太子殿下のお呼びに返事すらしてないよ」

「……三食、食後にデザート付き。おやつの時間もありです」

「なんでお菓子で釣ろうとしてるのよ」


 それに釣られるのはフィスロでしょ!

 私は、そんなのに釣られな──。


「王宮の図書館が、司書不足だそうです。そちらで働くことも可能ですよ」


 なんですって?





「あはは。それで行くことになったんですか!」


 放課後の図書室。

 図書委員とアーノルドが、わらわらと遊びに来ていた。

 

 アーノルドがくすくすと笑い、それにつられて図書委員たちも笑い出す。

 私は、恥ずかしくなって机に突っ伏した。


「王宮図書館の司書って、最高のエサだ……! 釣られてしまった自分が悔しい!」

「諦めた方がいいですわ」

「聖女先生らしいですけどね」


 セイラとレンくんが、慰めのようなそうでないような言葉をかけてくれる。


 ううう、最悪だ。

 王宮なんて行きたくない。

 そりゃ平和の秘密とかは知りたいけど、私は本に囲まれて過ごしたいのだ。

 王宮に行けば、トラブルに巻き込まれること間違いなしである。

 私のライトノベルで培った思考が、危険信号を鳴らしている。


「……せんせい」


 ふと、誰かが私の服を引っ張った。

 見れば、リアがちょんと服をつまんでいる。

 目を伏せていて、顔も見えない。

 こんなしおらしい彼女を見るのは初めてで、私は「どうしたの!?」の声を上げた。


「リア?」

「……ここには帰ってこないの?」

「え?」

「私、図書室でにこにこしてる聖女先生が好き。聖女先生に会うのが毎日楽しみ。王宮に行ったら、そのまま帰ってこないっていうのは、悲しいです……」


 大きな瞳に、大粒の涙をためているリア。

 泣くまいと必死に堪えているのか、ぐっと唇をかみしめている。

 その様子に、私は心を打たれた。


「リア……!」


 リアのことを、思いっきり抱きしめた。


「大丈夫、司書教諭は辞めないから。司書教諭としての授業とかがない時間帯に、ちらっと王宮に行く程度だからね」


 つまりは、非常勤講師みたいなもの。

 必要な時間帯だけ魔法学園の図書室に出勤し、他の時間は王宮へ行く。

 ヒースさんのご厚意──ではなく。


 司書教諭だけは絶対に辞めないとごねた結果である。


「じゃあ、これからもいる!?」


 ぱぁっと顔を輝かせたリア。

 うんうん、リアはその笑顔が一番可愛いよ。


「いるよ。安心して」

「よかったです」

「安心しましたわ」


 気付くと、レンくんもセイラもほっとしたような顔になっていた。

 ……みんな、寂しがってくれていたんだね。

 嬉しいな。

 教師冥利に尽きるよね。


「僕は、王宮が自宅なので」


 その横で、アーノルドはキラキラ顔をしていたのだった。

 一度言ってみたいね、そのセリフ。





「んじゃあ、フィスロ様ともっと一緒にいるって訳ですね~」

「え?」

「これ、読んでおいてくださいね」

「我が図書委員おすすめの本ですわ。絶対に読んでくださいませ」

「読むべきですね。生徒会長命令です」


 その後、四人から『恋愛心理干渉論─初心者でも分かりやすい恋愛入門編─』という本を渡されたのだった。

 誰だ、こんな本を図書室に入れたのは!?


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