迎え
「聖女スイ様。お迎えに上がりました」
学園長と話していたとき、ふと現れたヒースさん。
艶やかな緑色の髪が、窓から入ってきた風によってふわりと揺れる。
「お、お迎え……!?」
「王太子殿下がお呼びです」
王太子が、私を呼んでいる……?
今まで姿を現さなかった、王太子。
その王太子が、ついに動き出した。
「国から平和が消えるんですか?」
「え?」
「だって、聖女は国が大変なことになったときに召喚しているんでしょ? なら、何か起きたのかなって」
私の言葉に、ヒースさんは真剣な光を瞳に宿した。
そして、ふっと視線を横にずらす。
その視線の先には、フィスロがいた。
「スイ様。ここは大人しく従いましょう」
「はぁ? 従うも何も、王太子殿下のお呼びに返事すらしてないよ」
「……三食、食後にデザート付き。おやつの時間もありです」
「なんでお菓子で釣ろうとしてるのよ」
それに釣られるのはフィスロでしょ!
私は、そんなのに釣られな──。
「王宮の図書館が、司書不足だそうです。そちらで働くことも可能ですよ」
なんですって?
*
「あはは。それで行くことになったんですか!」
放課後の図書室。
図書委員とアーノルドが、わらわらと遊びに来ていた。
アーノルドがくすくすと笑い、それにつられて図書委員たちも笑い出す。
私は、恥ずかしくなって机に突っ伏した。
「王宮図書館の司書って、最高のエサだ……! 釣られてしまった自分が悔しい!」
「諦めた方がいいですわ」
「聖女先生らしいですけどね」
セイラとレンくんが、慰めのようなそうでないような言葉をかけてくれる。
ううう、最悪だ。
王宮なんて行きたくない。
そりゃ平和の秘密とかは知りたいけど、私は本に囲まれて過ごしたいのだ。
王宮に行けば、トラブルに巻き込まれること間違いなしである。
私のライトノベルで培った思考が、危険信号を鳴らしている。
「……せんせい」
ふと、誰かが私の服を引っ張った。
見れば、リアがちょんと服をつまんでいる。
目を伏せていて、顔も見えない。
こんなしおらしい彼女を見るのは初めてで、私は「どうしたの!?」の声を上げた。
「リア?」
「……ここには帰ってこないの?」
「え?」
「私、図書室でにこにこしてる聖女先生が好き。聖女先生に会うのが毎日楽しみ。王宮に行ったら、そのまま帰ってこないっていうのは、悲しいです……」
大きな瞳に、大粒の涙をためているリア。
泣くまいと必死に堪えているのか、ぐっと唇をかみしめている。
その様子に、私は心を打たれた。
「リア……!」
リアのことを、思いっきり抱きしめた。
「大丈夫、司書教諭は辞めないから。司書教諭としての授業とかがない時間帯に、ちらっと王宮に行く程度だからね」
つまりは、非常勤講師みたいなもの。
必要な時間帯だけ魔法学園の図書室に出勤し、他の時間は王宮へ行く。
ヒースさんのご厚意──ではなく。
司書教諭だけは絶対に辞めないとごねた結果である。
「じゃあ、これからもいる!?」
ぱぁっと顔を輝かせたリア。
うんうん、リアはその笑顔が一番可愛いよ。
「いるよ。安心して」
「よかったです」
「安心しましたわ」
気付くと、レンくんもセイラもほっとしたような顔になっていた。
……みんな、寂しがってくれていたんだね。
嬉しいな。
教師冥利に尽きるよね。
「僕は、王宮が自宅なので」
その横で、アーノルドはキラキラ顔をしていたのだった。
一度言ってみたいね、そのセリフ。
「んじゃあ、フィスロ様ともっと一緒にいるって訳ですね~」
「え?」
「これ、読んでおいてくださいね」
「我が図書委員おすすめの本ですわ。絶対に読んでくださいませ」
「読むべきですね。生徒会長命令です」
その後、四人から『恋愛心理干渉論─初心者でも分かりやすい恋愛入門編─』という本を渡されたのだった。
誰だ、こんな本を図書室に入れたのは!?




