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学園長の訪問

 神殿での調べものは、捗っているようで捗らなかった。

 というのも、文献が古すぎて読むのに手間取ってしまうのだ。

 そのため、私は魔法学園の図書室で司書教諭をしながら、借りることができた本をペラペラを捲っている。


「大変そうね」

「あ、学園長先生」


 授業時間中。

 フィスロが席を外したタイミングで、学園長がふらりと現れた。

 私の座るカウンターの前に立ち、読んでいた本を覗き込む。


「歴代の聖女様で、国について疑問に思った方はいなかったわね」

「え、誰もですか?」


 そんなことってある?

 気持ち悪いくらい平和な国に対して、疑問を覚えない方が不思議だよ。

 平和が続いているのに、聖女を召喚し続けている理由とかさ。


「……スイ様は、まず補佐官殿から色々と聞くといいわ」


 カラーン、とベルが鳴る。

 授業終了の鐘だ。

 鳴り終わって少し経つと、図書室に姿を現す学生がちらほら。

 次はお昼休みだから、図書室へやってくる学生が多くなるのだ。

 

 学生たちに気を使ったのか、学園長はカウンターの中に入ってきた。

 私の隣の椅子に座り、じっとこちらを見つめてくる。


「聖女を召喚している年数や、その理由をね」

「え、国王が代替わりするのに合わせて、召喚しているんじゃ?」

「聖女は、国が波乱になった際に召喚しているの。だから、聖女不在の代もあったのよ」


 ……知らなかった。

 聖女は国王の代替わりごとに召喚されるものだと、勝手に思っていた。

 なら、前任の聖女はどの時代を生きたのだろう。


 聖女が平和をもたらすために召喚されるのなら、私が召喚されたこの時代で何かが起きるの……!?


「フィ、フィスロに確認しなきゃ」


 聞きたい。

 今すぐ聞きたい。


 震える足になんとか力を入れて、椅子から立ち上がる。

 揺らぐ視界には、本を選ぶ学生たちが映った。


「ん?」


 ふと、一人の学生に目が留まった。

 自分の背より高い棚にある本を、精一杯手を伸ばして取ろうとしているのだ。

 しかし、手は届かない。

 それでも、ぐいっと手を伸ばして、一冊の本に手をかける。

 そして、その本を思いっきり引き抜いた。


「……あ」


 一瞬の出来事だった。

 引き抜かれた本によって、できた隙間。

 そこに隣の本が倒れ込み、他の本たちがドミノ倒しのように崩れていく。

 そして。


「危ない!」


 本による雪崩が、学生へと押し寄せた。





 本が落ちる。

 学生が怪我をしてしまう。


 二つの危機を目の当たりにし、私は咄嗟に手を伸ばした。

 その学生と本に向かって、手を掲げる。


『浮遊!』


 ピカ、と水色の光が溢れる。

 光の粒がぶわりと現れ、本を一気に包み込んだ。


「よかった……」


 本は、空中でぴたりと止まった。

 学生に降りかかることなく、ふわふわと浮いている。


「怪我はない!?」


 慌てて学生に駆け寄れば、学生は腰を抜かしてぺたんと座り込んでいた。

 浮かび上がる本たちを呆然と見上げ、ぱくぱくと口を動かしている。


 ……うん、怪我はなさそうだね。

 何やらぽかんとしているけど。


「これ、聖女先生がやったんですか?」

「え、えぇ。まぁ、そうなるね」

「……凄い! ありがとうございます!」


 学生は、ぴょこんとお辞儀をした。


「今後は気を付けてね、足場を用意してあるから、無理して高い所の本は取らないように」

「はい! そうします!」


 魔法を解いて、本を抱える。

 学生は、その中から一冊取って、ぺこりと頭を下げた。

 そして、足早に去っていく。


 なんだか知らないけど、台風みたいな子だ。

 目を輝かせた後、本を抱えて走り去るなんて。

 よっぽど、急いでいたのに違いない。

 少し微笑ましく思いながら、本を片付けていく。


「お見事」

「学園長先生」


 そんな声に振り返れば、パチパチと拍手をしている学園長が。

 少し気恥ずかしくなって、私は手元の本を見る。


「やはり、聖女の風格があるわ」

「やめてください。今の私は、『司書教諭のスイ』ですから」

「そうね」


 そう言って、学園長は微笑んだ。


「咄嗟に動けること、さっと発動できる魔法。これほどまでの逸材なのですから、この国は安泰ですね」

「え?」

「司書教諭としても、とても立派です。安心して良いと思いますわ」

「学園長先生?」


 急に変わった口調。

 私を褒めるような言葉。

 急に何があったの?


 落としていた目線を、そっと上げる。

 目の前には、嬉しそうに微笑む学園長の姿。

 そして、その奥には──。


「……っ、なんで」


 私を見つめる、フィスロとヒースさんの姿があった。


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