ぎくしゃく
「なるほど。和解はしたんですね」
神殿の書庫で調べものをしてから、聖女殿へ帰る。
フィスロは執務室に向かい、私も自室へ戻った。
そして、リンちゃんに着替えを手伝ってもらいながら、今日のことを報告する。
「うん。まぁ、一応?」
「もと通りに戻ってくださって、私は嬉しゅうございます」
リンちゃんは、くすっと微笑んだ。
「あの期間は、スイ様もフィスロ様も、どこか寂しそうでしたから」
「寂しそう?」
「えぇ。きっと、お互いがなくてはならない存在になっているのではないですか?」
なくてはならない存在……ね。
思い返してみれば、私はずっとフィスロと一緒にいる。
召喚されてから聖女になって、司書教諭をやらせてもらって。
たくさんのことがあったけど、隣にいたのはフィスロだ。
フィスロはかっこいい。
顔が整っているし、背が高い。
輝く銀髪も、煌めくエメラルドグリーンの瞳も。
偶に見せる子どもっぽいところが、私は──。
「好き、ですか?」
「ななななな、何言ってるの!?」
リンちゃん!?
何、変なこと言ってるのよ!
「私は、お二人が幸せなら満足です」
リンちゃんは、綺麗な笑みを浮かべた。
「だから、自分を大切にしてくださいね」
まるで、聖母のような優しくてあたたかい言葉だった。
*
「スイ様。おいしいお菓子のお店、行きませんか?」
街の視察。
話しかけてくれる人々に、一人ずつ反応していく。
これもまた、聖女の仕事みたい。
そんな中、フィスロが声をかけてきた。
通りの向こうを指さして、にこやかに私を見てくる。
「この前見つけたお店でして。ぜひ、スイ様と一緒に行きたいなぁと」
「いいね。行こう!」
この国のお菓子はおいしいからね!
私は、意気込んでフィスロに向き直った。
そのとき。
こつん。
振り返った反動で、指先がフィスロの手に当たってしまった。
普段だったら、何気ない日常の一コマ。
そのはずだったのに、リンちゃんと話したあのときの言葉を思い出してしまったのだ。
『好き、ですか?』
「うわぁっ、ごめん!」
「こ、こちらこそ!」
慌てて手を引っ込める。
フィスロも、退いて焦っていた。
何だろう、何かが違う。
それはきっと、フィスロも一緒。
呆けた顔で、私の方を見ている。
たぶん、私も同じような顔でフィスロを見ているんだろうな。
「い、行こうかフィスロ」
なんとか振り絞って出した言葉は、なんとも言えないものだった。




