和解
「おはようございます、スイ様!」
朝。
どんよりとしながら目覚めて、ぼんやりとリンちゃんに身支度をしてもらっていると。
バンッと扉が開け放たれて、フィスロがやってきた。
「お菓子をお持ちしました!」
「……」
はつらつと笑っているフィスロ。
こっちは気に病んでそんなに寝られていないというのに、なんでそんな元気なのよ。
そんなイライラが、体の奥底から這い上がってきた。
「着替え途中だ、この変態!」
とりあえず、傍にあったクッションを投げつけておいた。
聖女の魔力で、威力を何倍にもして。
「とりあえず、お菓子でも食べてください」
「なんなのよ」
にこにこスマイルが、なんだか腹立たしい。
少しイライラしながらも、フィスロが持ってきたお菓子を見る。
粉砂糖が降りかかったチーズケーキだ。おいしそう。
アールグレイをお供に、ぱくんと頬張る。
「おいしいよ」
「よかった。それ、スイ様への罪滅ぼしです」
「……私の方が色々とやらかしてるけど」
フィスロに怒鳴っちゃったし。
私の方こそ、謝らないといけないのに。
「いえ。僕の方が、隠し事が多いので」
フィスロは、紅茶を優雅に飲みながらそう言った。
「補佐官として言えないことが、たくさんありましてね」
「いつか、教えてくれる?」
そう問えば、フィスロは目を伏せた。
哀しそうに見えるその瞳は、アーノルドみたいな緑色だった。
「僕の口からは何とも。第二王子殿下に会われたんですよね、何か仰っていましたか?」
「王太子──お兄さんを助けて欲しいって言ってた」
「そうですか」
その曇った顔は、王太子がらみで何かありそうだった。
王太子は近くにいるんだよね。
ヒースさんは、結局どうなんだろう?
緑色の髪だし、『運命』の絵画の色に合っているけど。
「この国の秘密、調べることならできますよ」
「え?」
不意に、フィスロが言った。
暗い顔ではなく、不敵な笑みで。
あぁ、いつものフィスロだ。
「神殿の書庫です。あそこは、古い文献がたくさん置いてありますからね」
そうじゃん!
*
「ほっほっほ。久方ぶりじゃの」
「こんにちは」
神殿に行くと、神殿長が出迎えてくれた。
久しぶりにおじいちゃんの家に行ったときみたい。
神殿長は、嬉しそうに笑ってくれていた。
「待っていたぞい。ちょうど、パンケーキが焼き上がったところじゃ」
「パンケーキ!?」
平和である。
神殿特製パンケーキをごちそうになった後は、待望の書庫へ。
ここはきちんと分類がされている。
でも、読書環境は整っていなかった。
「机もそうだけど、全てが埃っぽいね」
「あまり使われていないですからね」
「ここを連携システムで利用するなら、居心地の良い環境にした方がいいかも」
久しぶりの図書室改革だ。
わくわくして、胸が高鳴る。
「……調べものをしに来たんじゃないんですか?」
「本を読むには、やっぱり最高の読書環境が欲しいじゃん!?」
いざ、改革へ!
腕まくりをし、何から取り掛かるか考える。
そんな中、ふと見たフィスロは淡く微笑んでいた。
「──と、この……れたら、……に」
途切れ途切れの言葉が、彼の口から溢れた。
聞こえなかった、それを聞き返す勇気はなかった。
だから、私はいそいそと本棚へ近づいていったのだった。
「この先もずっと、このままの関係でいられたら、いいのに」




