書庫
ここの神殿にも、やっぱり礼拝堂みたいなところはあるみたいだった。
歴代、戦乱の世に転移してきた聖女は、その礼拝堂で毎日のように祈りを捧げていたらしい。
そこに連れて行ってもらうことになった。
しかし。
「先に、書庫に行かれますかな?」
夜も遅いし、という理由で礼拝堂に行くのは明日になった。
そのため、神殿長がそんな提案をしてくれたのだ。
「行きます! 行きたいです!」
「……神殿長。スイ様を甘やかさないでください」
うるさいね、フィスロ。
本に会えるのなら、どこにでも行くのが当たり前なんだから!
書庫は、神殿長室の隣にあった。
神殿の上層部しか持っていないという鍵で、かちゃんと施錠を解く。
木の扉を開けば、紙の良い香りが漂ってきた。
「わぁ! すごい!」
少し大きめの部屋に、本がぎっしりだ。
天井にまで届く本棚がいくつも並び、入りきらなかった本は机の上に置かれている。
どこか埃っぽいけれど、それがまたこの書庫の良さを醸し出していた。
「いつ来ても、ここの書庫は飽きないですね」
私がはしゃぐ隣で、フィスロが懐かしそうに本棚を見上げた。
本を一冊手に取って、柔らかな瞳でパラパラを見つめる。
「王宮図書館にも、国会図書館にも無いような本もあるんです。大昔の文献などが揃っているんです」
きっと、ここが最古の図書室ですね。
フィスロはそう言って微笑んだ。
へぇ、ここにしかない本があるんだね。
でも、ここは神殿に来ないと入ることができない。
普通の図書室のように立ち入りは自由らしいけど、鍵を持つ上層部の人がいなければ開けることができないのだ。
少し不便だよね。
研究とかで古い文献が必要になったら、ここで調べものができるのに。
すぐにでも本を読むことができるシステムが欲しいな。
「ここの本って、借りることはできるんですか?」
「もちろん。国民なら、階級問わず誰でも貸出が可能じゃ」
神殿長はにこりと笑った。
「しかしのう。ここに本を借りることができるというのを、知らない人が多くて」
「もったいないですね。せっかく貴重な資料があるのに」
ここに来なくても、本を借りられるシステムがあれば良いよね。
そうしたら、利用者数が増えるかもしれない。
何か、できることはないかな。
普通の図書室みたいに。
……そうだ!
「神殿長さん。学園の図書室と連携システムを組みませんか?」
「連携システム?」
そう。
読みたい本がここにあったとき、手続きをして学園側が本を借り、利用者に貸し出すというシステムだ。
これは、日本の図書館でも導入されているもの。
申請をすれば、県外の図書館に行かなくても本を借りることができるのだ。
ちなみに、学校現場でも活用しているところがある。
読みたい本が自分の学校になくても、他校には蔵書があったとき、学校図書室が他校に申請をして貸し出してくれるのだ。
そのシステムを、ここに取り入れたい!
「良い案じゃな」
こと細やかに説明すると、神殿長はうんうんと頷いた。
「そうすれば、ここにしまわれているだけの本たちも喜びますな」
じゃあ、決定!
ここにある蔵書を、翠玉目録に登録しなきゃ!
翠玉目録で検索をかけたときに、神殿の書庫には蔵書があるっていう情報を載せなきゃならないからね。
「聖女様の魔法で行いますか?」
止めても無駄だと思ったのだろう、フィスロは反対せずに、やり方を問いかけてきた。
うーん。
そっちの方が効率がいいけど。
やっぱり、一冊ずつ見てきたいな。
「魔法は使わないでやっていくよ。そうしたら、本を読む時間もできるし」
「……何をしに神殿に来たか、覚えています?」
フィスロが、私をうかがわしい目で見てきた。
あ、あはははは~。
これが本職だから、許して欲しいな。
「という訳で、神殿長さん。しばらく書庫でお世話になります」
「承知しましたぞい」
「違いますって! 聖女の仕事をするんでしょ!?」
とうとう、フィスロの突っ込みから敬語が消えた。
良い記念日になりそうだ。




