神殿
神殿は、王宮からそう遠くないところにあった。
白くて大きな大理石の建物が、街の中にドーンッとそびえ立っている。
「す、すごい大きさだ」
「国民が祈る場でもありますからね」
神殿と言えば、国民から多額の寄付金を搾取しているイメージだ。
……というのは、ライトノベルの読みすぎかもしれないけど。
まぁ、そんなイメージが私の中ではあるのだ。
そのため。
「神官様。どうかこちらをお持ちになってください」
「いえいえ、それはご家族で召し上がってください。お気持ちだけで、我々神官は幸せでございます」
国民と神官のこんなやりとりを聞いて、驚愕してしまったのである。
「神殿が、ちゃんと機能してる!?」
「当たり前ですよ。今までどんな神殿に会われてきたんです?」
フィスロが、私に白い目を向けた。
*
「お久しぶりですなぁ、聖女様!」
私を出迎えてくれたのは、神殿長さんだった。
立派な白いヒゲをたくわえた、ザ・神殿長って感じのおじいさん。
人当たりがよくて、優しいおじいちゃんみたいな雰囲気だ。
ちなみに、私がこの世界に転移したときに『ようこそ、聖女様! あなたを待ち侘びておりました!』と叫んだ張本人である。
「陛下から伺っておりますぞ。聖女としての仕事をしたい、とのことでしたな」
「はい」
「ようやくスイ様が、聖女の仕事に目覚めてくださった……!」
神殿長の執務室。
私が座るソファの後ろで、フィスロがさめざめと泣く真似をしている。
ふん。余計なお世話だよ。
「楽しそうで何よりですな、補佐官殿」
神殿長は、孫を見るような目でフィスロを眺める。
まぁ、楽しいのならいいのか?
失礼な奴だけど。
「神殿長さん。聖女の仕事って、どんなことをするんです?」
「そうですなぁ。国が荒れているときは、地方に行くこともあるんじゃが」
そう言って、神殿長は困ったように目尻を下げた。
「生憎と、現在は平和なので」
……平和であることに、『生憎』っていう言葉を使い始めちゃったよ。
平和なのは、とっても良いこと。
でも、平和を保つための機関は用がなくなる。
だから態と争いを作る──のではなく、静かにしているらしい。
それもそれですごいよね、この神殿。
「そもそも、なんでこんなに平和なんです?」
「それは、わしらも聞きたいことじゃよ」
うほほ、と笑う神殿長。
うん、吞気にもほどがあるね。
「神殿には、書庫なるものがありますぞ」
「なんですって!?」
美味しいお茶をいただいていたとき。
ふと、神殿長が思い出したように言った。
「普通の書庫ではありませんがね。この国の聖女や神殿に関わる記録や書物が、全て収まっている書庫になりますのじゃ。聖女や王族、神殿関係者など、決められた者しか入ることができない『特別禁書区域』もありますのでな」
なにそれ!
行きたい! とっても行きたい!
「……聖女の仕事をするのではなかったんですか?」
じとーっと見つめてくるフィスロ。
いやいや、そう言われてもねぇ。
本って聞くと、本職の方の血が騒めくものなんですよ。
「司書教諭は副業ですからね?」
「そう言うフィスロ殿も、特別書庫に籠っていた時期があったのう」
「し、神殿長! それは秘密で!」
「へぇ、フィスロも。恥ずかしがらなくていいのに」
もっと早く教えてくれたらよかったのに。
そうしたら、一緒に本について語れるよね!
「お互いが本に熱を上げていると、仕事が捗らないでしょう? 僕は、スイ様の本職の方を円滑に進めていただくために、敢えて──」
「照れているだけですぞ、フィスロ殿は」
「ちょっと、神殿長!?」
あはは、良いコンビだね。
おじいちゃんにからかわれる孫みたい。
そんな光景を微笑ましく眺めながら、私の頭の中では、1つの疑問が浮かんでいた。
フィスロは、聖女補佐官。
聖女補佐官は、神殿の管轄。
ならば、神殿長よりも下の立場のはず。
なのに、なぜ神殿長はフィスロのことを『フィスロ殿』って呼んでいるんだろう……?




