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神殿

 神殿は、王宮からそう遠くないところにあった。

 白くて大きな大理石の建物が、街の中にドーンッとそびえ立っている。


「す、すごい大きさだ」

「国民が祈る場でもありますからね」


 神殿と言えば、国民から多額の寄付金を搾取しているイメージだ。

 ……というのは、ライトノベルの読みすぎかもしれないけど。

 まぁ、そんなイメージが私の中ではあるのだ。

 そのため。


「神官様。どうかこちらをお持ちになってください」

「いえいえ、それはご家族で召し上がってください。お気持ちだけで、我々神官は幸せでございます」


 国民と神官のこんなやりとりを聞いて、驚愕してしまったのである。


「神殿が、ちゃんと機能してる!?」

「当たり前ですよ。今までどんな神殿に会われてきたんです?」


 フィスロが、私に白い目を向けた。





「お久しぶりですなぁ、聖女様!」


 私を出迎えてくれたのは、神殿長さんだった。

 立派な白いヒゲをたくわえた、ザ・神殿長って感じのおじいさん。

 人当たりがよくて、優しいおじいちゃんみたいな雰囲気だ。


 ちなみに、私がこの世界に転移したときに『ようこそ、聖女様! あなたを待ち侘びておりました!』と叫んだ張本人である。


「陛下から伺っておりますぞ。聖女としての仕事をしたい、とのことでしたな」

「はい」

「ようやくスイ様が、聖女の仕事に目覚めてくださった……!」


 神殿長の執務室。

 私が座るソファの後ろで、フィスロがさめざめと泣く真似をしている。

 ふん。余計なお世話だよ。


「楽しそうで何よりですな、補佐官殿」


 神殿長は、孫を見るような目でフィスロを眺める。

 まぁ、楽しいのならいいのか?

 失礼な奴だけど。


「神殿長さん。聖女の仕事って、どんなことをするんです?」

「そうですなぁ。国が荒れているときは、地方に行くこともあるんじゃが」


 そう言って、神殿長は困ったように目尻を下げた。


「生憎と、現在は平和なので」


 ……平和であることに、『生憎』っていう言葉を使い始めちゃったよ。

 平和なのは、とっても良いこと。

 でも、平和を保つための機関は用がなくなる。

 だから態と争いを作る──のではなく、静かにしているらしい。

 それもそれですごいよね、この神殿。


「そもそも、なんでこんなに平和なんです?」

「それは、わしらも聞きたいことじゃよ」


 うほほ、と笑う神殿長。

 うん、吞気にもほどがあるね。





「神殿には、書庫なるものがありますぞ」

「なんですって!?」


 美味しいお茶をいただいていたとき。

 ふと、神殿長が思い出したように言った。


「普通の書庫ではありませんがね。この国の聖女や神殿に関わる記録や書物が、全て収まっている書庫になりますのじゃ。聖女や王族、神殿関係者など、決められた者しか入ることができない『特別禁書区域』もありますのでな」


 なにそれ!

 行きたい! とっても行きたい!


「……聖女の仕事をするのではなかったんですか?」


 じとーっと見つめてくるフィスロ。

 いやいや、そう言われてもねぇ。

 本って聞くと、本職の方の血が騒めくものなんですよ。


「司書教諭は副業ですからね?」

「そう言うフィスロ殿も、特別書庫に籠っていた時期があったのう」

「し、神殿長! それは秘密で!」

「へぇ、フィスロも。恥ずかしがらなくていいのに」


 もっと早く教えてくれたらよかったのに。

 そうしたら、一緒に本について語れるよね!


「お互いが本に熱を上げていると、仕事が捗らないでしょう? 僕は、スイ様の本職の方を円滑に進めていただくために、敢えて──」

「照れているだけですぞ、フィスロ殿は」

「ちょっと、神殿長!?」


 あはは、良いコンビだね。

 おじいちゃんにからかわれる孫みたい。

 そんな光景を微笑ましく眺めながら、私の頭の中では、1つの疑問が浮かんでいた。



 フィスロは、聖女補佐官。

 聖女補佐官は、神殿の管轄。

 ならば、神殿長よりも下の立場のはず。


 なのに、なぜ神殿長はフィスロのことを『フィスロ殿』って呼んでいるんだろう……?


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