聖女の力
「えっと、まずは掃除よね」
王子会長たちが授業に戻ったところで、私の作業は再開だ。
本の分類もしたいし、片付けもしたい。
でも、一番最優先ですべきことは掃除だ。
「埃がすごすぎる。これで掃除してたの?」
「一応はしていたみたいですが、学生生活の中に掃除は含まれいないようなので」
な、なんだって?
学生と言ったら、学校を掃除するのが当たり前なんじゃないの?
「まぁまぁ。ここはスイ様の世界とは違うので」
「フィスロ、本当に軽すぎ」
そんな簡単にこの問題を放棄しないでよ。
ま、でもそんなことを抗議しても無駄か。
身に付いた習慣は取れないって言うしね。
じゃあ、とりあえず。
「浄化、使おうかな」
「……ここで?」
「ここ以外では使わないんでしょ。国が平和なんだもん、違うところで使ってかなきゃもったいない」
「スイ様、僕の話を根に持ってらっしゃる?」
「当たり前よ」
召喚しといて、聖女の力は今は不要ですって、本当に迷惑な話。
なら、こっちも勝手にやらせてもらいます!
えっと、浄化かぁ。
室内全部の埃を払って、隅から隅までピカピカにしたいよね。
あと、この淀んだ空気もなんとかしたい。
そんなイメージを湧かせながら、私は部屋の中央に立った。
しゃがみ込んで、床に両手を付く。
「何も知らないのにできるんですか?」
「本ヲタクを舐めないでよね。こういうシチュエーションの本はたくさん読んでるんだから」
「はぁ」
フィスロは呆れたように、でもおもしろそうに私を見つめた。
つくづく思うけど、フィスロって失礼なやつよね。
変に仰々しい人よりは話しやすくていいけど。
「じゃあ、行くよ」
そう言えば、体中がぽかぽかとあたたかくなってきた。
お、これが魔力かな。
湧き上がってくるあたたかいものを、思いっきり練ってみる。
『浄化!』
唱えると、空色の光がぱぁっと広がった。
日本語はダサかったかな。違う言語の方がかっこよかったかも。
他の言い方……クレンジング、はちょっとダサいか。
と、そんなことを考えているうちに。
私から出た空色の光は、部屋全体を覆っていく。
そして。
「おー、できた」
光が収まると、どこもピッカピカな図書室が現れた。
埃はなし、空気も綺麗、どこも光り輝いている!
これは、成功なのでは?
「さすが、聖女様ですね」
自慢げにフィスロを見れば、パチパチと拍手をしてくれた。
「聖女様としての力が使えたようで、何よりです」
「あんた、本当に失礼ね」
イケメンだからって何をしても許されると思ったら、大間違いなんだから!
*
浄化したところで、フィスロからお昼を言い渡されてしまった。
私は別に、本があればご飯はいらなかったんだけど。
『僕、お腹空きました』
フィスロが空腹を訴えたので、仕方なく昼食を取った。
まったく、どっちが補佐官なのか分からないよ。
「さてさて、フィスロさん」
「スイ様。ちゃんと全部食べましょうね」
少食だからもうお腹いっぱいなのに、まだ食べさせようとしてくるフィスロ。
こんなに細いんですからちゃんと食べましょう! らしい。
本があればいいのよ、本があれば。
「これから忙しいよ」
押し込められたサンドウィッチを飲み込んで、フィスロを見た。
フィスロは優雅に紅茶を飲みながら、「ん?」と目を向けてくる。
「あとは本を棚に入れて終わり、じゃないんですか?」
「終わりじゃないわよ。分類分けをしなくちゃ」
「分類分け?」
そう!
本の主題ごとに分類して、排架場所を決める。
日本の多くの図書館が『日本十進分類法』(日本図書館協会)を用いて分類しているんだ。
そうすることで、図書館の本は一気に見やすくなるの。
「へぇ。大変そうですね」
「それが終わったら選書よ。色々なジャンルの本をバランスよく収集していかなきゃ」
「ほぅ。それはそれは」
「ねぇ。他人事だって思って聞いてるでしょ」
私はフィスロに詰め寄った。
「フィスロ、あんたもやるんだからね」
「……マジですか」
「マジよ。よく知ってるね、その言葉」
そうと決まったら、善は急げだ!
ちゃっちゃと終わらせて、学生のみんなが過ごしやすい図書室を提供するんだから!
「まずは、とりあえず全部本を取り出すよ」
「ぜ、全部って、本棚もですか」
「そうだけど」
「……聖女の力で、パーっと終わらないんですか?」
聖女をバカにしたあんたが言うんじゃない!