事件発生
ルーア王国の王太子は、隠されている。
それは、『異界の聖女』を召喚することと同じくらい国家機密である。
王太子の顔を知っている者は、ごく限られた者だけらしい。
そんなことが、ルーア王国の歴史書に記されていた。
「王太子殿下って、本当は誰か知ってる人なんじゃないの?」
冗談半分で聞いてみたら、フィスロが「意外と近くにいるかもしれませんね」と笑っていた。
まさか、アーノルドが王太子ってことはないよねぇ。
「こんな夜に、何事ですか?」
聖女殿の応接室。
ヒースと向かい合うように、フィスロとソファに腰かける。
王太子殿下の側近は、優雅に紅茶のカップを置いた。
「ここ最近、とある事件が起きましてね。王太子殿下と対処していたんですが、我々には手に負えなくて。聖女様にご助力いただこうと思ったのです」
ヒースは、真剣な瞳で私を見つめた。
「王宮図書館で保管していた禁書が、盗まれました」
「え?」
禁書とは、持ち出しが禁止されている本のこと。
この国では特に、古代魔術の本などが該当している。
厳重に保管され、外に出てしまわないように監視下に置かれているはずなのに。
「盗まれた禁書は、ほんの僅かに魔力を帯びています。その魔力を探知できるのは、聖女様だけです」
「なんで?」
フィスロみたいに優秀な魔法使いだって、探知できるんじゃ?
なんで、聖女限定なんだろう。
「僕はもう試したので」
「んえ!?」
まさかの事実。
フィスロは探知済みだったらしい。
それで探知できなかったから、私の方に話がきた訳か。
ほら、私は異世界転生者あるあるの『チート持ち』だからね。
「王太子殿下の側近が来たってことは、この事件は王太子持ちなんでしょ? なんで、フィスロはもう試したの?」
優秀な魔法使いだから?
「旧友だからですよ、ヒースがね」
フィスロは、微笑んで言った。
その笑みはどこか裏がありそうな、少し怪しい笑みだった。
……まさか、ヒースが王太子殿下だってことある?
側近だと偽って、ここまで来たとか?
いやいや、それはあり得ないか。
「聖女様、お願いできますか?」
ヒースは、深く頭を下げた。
「取り戻すことができなかったら、どこかで禁書が関わる事件が起こってしまいます。それを、なんとか防ぎたいんです」
「分かりました」
こうなったら、やるしかない。
本が盗まれたっていうのは、黙って見てられないし。
本はね、私にとって命でもあるんだから!
「ありがとうございます」
ヒースは、顔を上げてほっとしたような顔になった。
隣で、フィスロも安堵の笑みを浮かべていた。
*
「調査は、明日にしましょう」
ヒースが帰った。
私たちは、応接室を出て執務室へ向かう。
「ヒースとは、いつから仲が良いの?」
「幼馴染なんです」
ヒースとは幼い頃からの友人らしい。
まるで兄のように彼を慕い、今でも助けてくれる友人だそうだ。
いいな、そういう友情。
ちょっぴり羨ましく思ったのは、秘密だ。
「どうやって調査する?」
執務室に入って、ソファへダイブする。
ここは、主に聖女としての仕事をする部屋だ。
今は司書教諭のための部屋になっているけど。
執務室は自室とは違うから、フィスロも何の問題もなく入ることができるのだ。
「とりあえず、王宮図書館で現状を知りましょう」
フィスロも、向かい側のソファに座った。
襟足の長い銀髪を触りながら、何やら考え込む。
「この事件を調査している間、学園の図書室が空いてしまいますね。どうしましょう?」
「そっか。私もフィスロもいないとなると、誰も図書室になくなっちゃう」
私たちがいなくても、基本的な司書の仕事を手伝ってくれる人が必要だ。
学園長は難しい。他に仕事があるから。
ミール先生も、他の先生も難しい。
と、なると……。
「学生の力を借りるしかないですね」
「うん。……そうだ」
そうだ。良いことを思いついた!
閃いた! その意味を込めて、指をパチンと鳴らす。
……鳴らなかったけど。
「ダサい、ですね」
「うるさい」
失礼なフィスロに、とりあえずクッションを顔面ヒットさせておいた。
「図書委員を作ろう」
「トショイイン?」
「学生の有志を募って、図書室の運営とかをサポートしてもらうの。そうしたら、私たちも手が空く時間が増えるはず!」
この学園には、『委員会』の概念はない。
生徒会はあるけどね。
なら、作っちゃおう!
「魔法学園がどんどん変わっていきますね」
クッションを退けたフィスロが、おもしろそうに笑った。
……なんだ、もう少しクッションからダメージ受けてればよかったのに。




