賑やかさと静寂
図書室が、賑やかになってきた。
まずは、『入れて欲しい本投票』の結果発表。
たくさん票が入った本を当選として、図書室に入れることを掲示した。
加えて、第2回開催も。
次に、『まだ見ぬ君へ、本の贈り物です』のイベント。
今週のテーマは、『将来に困っている人へ』だ。
そんな誰かに贈りたい本を、専用の紙に書いて提出。
それを図書室の壁にたくさん掲示した。
「この本、読めるようになるんだ!」
「将来のこと悩んでるから、ちょっと読んでみようかな」
魔法使いの育成所だとしても、必ずしも魔法使いにならなくても良いのがこの学園。
魔法という力を得ることで、違う職業に就いても便利になる。
だから、将来について悩んでいる学生が、図書室に集まったのだった。
「すごいですねぇ」
司書のカウンターで様子を見ていたフィスロが、ふっと微笑んだ。
「僕が学生の頃は、こんなに賑わってはいませんでしたよ」
「図書室に来たいって思う気持ちを引き出しただけだよ」
図書室に行きたくないから利用しない、ではない。
図書室に行く理由がないから、利用しないのだ。
ならば、その気持ちを変えればいい。
自然に「行きたい」と思うところ、訪れる理由がなくても「行きたい」と感じるところ。
そんなところにしたいのだ。
*
サークル用の本のリストも、完成に近づいてきた。
放課後の時間、顧問の先生方が図書室に来ては、資料を探していく。
そして、該当する本をリストとして残していくのだ。
「うんうん。順調だね」
「この調子だと、次の単位認定レポート期間に間に合いそうですね」
この学園には、試験期間とは別に、『単位認定レポート期間』というものがある。
サークルに所属している学生が、研究成果で単位を取得するために書くレポートを作成する期間だ。
その期間中に、この図書室で調べものを行ってくれたら嬉しいな。
今日の仕事が終わり、フィスロと聖女殿へ帰る。
王宮の門をくぐり、聖女殿へ続く回廊を歩く。
もう陽は落ちていて、星がきらきらと輝いていた。
「星が綺麗だね」
「えぇ、とても。……スイ様」
ふと、フィスロが足を止めた。
私は、ん? と立ち止まる。
「フィスロ?」
「スイ様。僕の後ろに」
フィスロは、するりと腰の剣を抜いた。
私はフィスロの背後に回らされる。
守られるように。
コツ、コツ、コツ。
回廊の向こう側から、足音が聞こえてきた。
足音はだんだんと大きくなっていく。
私は怖くなって、フィスロのマントをぎゅっと握りしめた。
「誰だ」
フィスロの口から、普段からは考えられないくらい低い声が発せられた。
すると、足音はぴたりと止まった。
不気味なくらい、回廊が静寂で包まれる。
フィスロが警戒を続ける中、足音の持ち主は、カツーンと足を1回鳴らした。
「……なんだ」
その音を聞いた瞬間、フィスロは警戒を解いた。
剣を鞘に納めて、ふぅと息を吐く。
訳が分からないのは、私だ。
いきなり足音がして、止まったかと思ったら、別の足音がした。
それを聞いて、フィスロは安心した。
そこにあった因果関係を教えて貰いたいよ!
「だ、誰なのフィスロ!?」
「普段の足音とは変えてやって来た、迷惑な奴です」
「その『奴』の名前を聞いてるんだけど!?」
「くくっ」
暗闇の中で、足音の持ち主が笑った。
そして、さっきとは全く違う足音で近づいてくる。
「初めまして、聖女様」
月明りに照らされた、男性の姿。
綺麗な茶髪に、青い瞳。
端麗な顔に、笑みを浮かべて。
「王太子殿下の側近、ヒースです」
王太子殿下!?
なぜだ!
「フィスロ、知り合いなの?」
「昔からの悪友ですよ。こうして変な登場をしては、僕を驚かせてくる奴なんです」
「酷いですね。僕はただ、君を試しているだけなのに」
「それが迷惑なんですよ」
なるほど、仲良しの友達ってことね。
職場に仲が良い人がいると安心だよね。
……で?
王太子殿下の側近が、何の用なの?




