調べ学習
「おー、図書室だ」
「授業で図書室を使うとは、初めてですわね」
わらわらとやってきた学生たち。
私は、緊張しつつも笑顔で迎える。
「スイ先生」
学生たちの最後に入ってきた、ミール先生。
ミール先生はにこやかな笑みを浮かべながら、私のところに近づいてきた。
「既にどんなことをするのかは、さらっとだけ伝えてあります。あとは、先生のお好きなように進めていただいて結構です」
「い、いいんですか?」
「もちろん。司書教諭なのでしょう?」
そう! 今日は図書室を使う授業の日!
ミール先生のクラスで、日本で言うところの『総合的な学習の時間』の授業を実践するのだ。
にしても、ミール先生最高すぎる!
私のことを司書教諭として認めてくれているし、授業も任せてくれる。
教育実習の担当教官みたいに思えてきたよ。
「じゃあ、皆さん。席に座りましょうか」
席はどこでもいい、そう言う前に学生たちは座っていた。
教室での座り方と同じ場所で、姿勢良く。
「え、図書室で授業したことあるの?」
「ないですけど、なんとなく座りました」
……すごいねぇ。
ミール先生の学級経営が気になるよ。
*
「調べ学習、開始です!」
気になる職業を調べること。
様々な職業が書かれている本を探すことで、調べやすくなる。
また、調べた内容は紙に書き留めること。
どの本から抜粋してきたのかを書いておくと良い。
ざっと説明をしただけで、学生たちはさっと動き出した。
あらゆる本棚を見て周り、欲しい情報が書かれた本を探していく。
「あれ、図書室が使いやすくなってる」
「ジャンル分けされてるだけで、こんなにも探しやすくなるんだな」
そんな声が聞こえてきて、私はにっこり。
えへへ、嬉しいよね。
頑張って整備した甲斐があるなぁ。
本を持ってきて調べている学生たちの間を、机間巡視する。
一人で黙々とやっても良し、数人で調べ合うのも良し。
ここは図書室だから、少し自由な授業形態の方が楽しく活動できるよね。
そんなことを考えながら、ちらちらと学生の手元を見ていく。
ほうほうほう。
商人に、魔術師。教師もいれば、剣士もいる。
きっと、貴族の学生たちは家を継がなければならない現状もあるのだろう。
なりたくてもなれない、そんな職業があるのかもしれない。
「あ、アーノルドさん」
ふと、第二王子を見つけた。
彼は、黙々と作業を続けている。
良い学生だなぁ。微笑ましく思いながら手元を覗く。
そこには。
「冒険者……」
「あ、聖女先生」
私に気付いたアーノルドが、こちらを見上げて微笑んできた。
「アーノルドさんは、冒険者に興味があるんですか?」
「はい。絶対なれないけど、昔から憧れだったんです。僕は、兄さんの補佐になることが決定してますから」
そっか。
アーノルドは第二王子。ならば、第一王子がいることは、当たり前なことで。
王太子は、いずれこの国の王冠を頭に乗せる。
その補佐として、第二王子は在らなくてはならなのだろう。
鳥籠みたいだ。
飛びたくても飛べない、籠の中の鳥。
自由に空を飛びたいよね……。
「そういうときは、本を読んだらどうかな」
寂しそうなアーノルドの瞳に耐えかねて。
私は、ちょうど近くにあった本棚から一冊抜き取った。
「これ、冒険者が主人公の物語よ。宿命を背負いつつも、自分の夢を追いかけ続けるの。今のアーノルドさんにぴったりだと思う」
「僕に……」
アーノルドは、そっとその本を受け取った。
そして、嬉しそうに微笑む。
「借りたいです」
「ぜひ」
笑顔が戻ったようでよかった。
アーノルドのような学生たちには、少し大変な学習だったかもね。指導案に書き足しとかないと。
ふと見れば、フィスロが離れたところで笑みを浮かべていた。
「え、殿下ずるい。僕も、聖女先生に本を選んで貰いたいです」
「私も!」
「んえ?」
アーノルドの笑顔を眺めていると、急に近くで声がした。
見れば、私の回りを学生たちが取り囲んでいる。
えぇ!? 何、この状況!
「おすすめの本は!?」
「私にぴったりの本って、何ですの?」
な、なんで急に!?
「だって、もう課題終わっちゃったんですもん」
「まだ時間あるし、せっかくなら殿下みたいに本を選んで欲しいなって!」
確かに、学生たちのほとんどが課題を終えている。
しまった、この学生たちは大変な優秀生だということを忘れていた。
この課題は、授業1コマ分もいらなかったんだ。
「……じゃあ、授業変更で! 本について語ります!」
「わーい!」
「スイ先生、私にもおすすめの本を教えてくださいな」
「ミール先生! 横入り禁止です!」
わいわい、がやがや。
図書室が賑やかになっていく。
静かな図書室もいいけど、授業内の図書室はこれくらい賑やかな方がいいよね。
まぁ、授業じゃなくなってるけど。
「調べ学習は終わりですか?」
「本について語る方が楽しいじゃない!」
「……そうですか」
フィスロが呆れたような顔をしてたけど、関係ない!
私は学生たちを引きつれて、本をどんどん紹介していくのだった。




