学園図書室
それから、数日後。
魔法学園の司書教諭が認められて、初出勤の日を迎えた。
「なんで、この服?」
「まぁ、一応スイ様は聖女なので」
「一応は余計ね」
白を基調として、金と青の刺繍が入った服。
ザ・聖女って感じで、ちょっとびっくり。
もう少し司書らしい服でもよかったんだけど。
「白の方が、スイ様の御髪が映えますわ」
この世界では珍しい黒髪。
異界からの聖女の特徴でもあるらしくて、それを際立たせるための服でもあるっぽい。
そのことを教えてくれたのは、聖女の侍女であるリンだった。
「行ってくるね、リンちゃん」
「はーい、行ってらっしゃい!」
手を振って、部屋を出る。
それを見ていたフィスロが不思議そうに首を傾げた。
「いつの間に仲良くなったんです?」
「いいでしょ。羨ましい?」
「僕も仲良くなりたいです」
「じゃあ、少し性格を治してきなさい」
「え、性格も容姿も超完璧美青年ですけど?」
「そういうところよ」
銀髪でめっちゃかっこいいのに。
残念なところがあるのが、フィスロだと思う。
学園長は、『自慢の図書室』と言っていた。
けれど、実態はそうではない。
半年前くらいに、司書の先生がご退職されたらしい。そこから今に至るまで後継者が見つからず、図書室は学園長と生徒会が少し手を加えている程度なんだとか。
おかげさまで、図書室はひっちゃかめっちゃかである。
「待って、読書用の机が本だらけじゃない!勉強用のところもめちゃくちゃ。なにこれ!」
この前見たのは、図書室の一部だったようだ。
奥に行けば行くほど、図書室の現状が明らかになっていく。
「まぁ、人の手があまり加わっていないとこうなりますよね」
フィスロが、司書用の机に積もった埃を払う。
その積もり方からして、きっと誰も座っていないのだろう。
「学生は図書室を使わないの?」
「司書の先生がいらしたときは、まだ使う学生がいたみたいですよ。今はこんな状況なので、使う人はいませんね」
「調べものとか、勉強とかには?」
「貴族は実家の図書室、庶民は国立図書館に行くので、そちらに集まっているのかと」
なんだそれ!
せっかく学園内に図書室があるのに、使わないんですと!?
もったいない!
「よし! 司書教諭の私が、この図書室を改善するぞ!」
「僕も手伝いますね。……ところで」
フィスロが腕まくりをしながら問いかけてきた。
「シショキョウユってなんです?」
*
「そちらの方が、聖女様ですか?」
フィスロに司書教諭について熱く語っていると、図書室の入り口の方から声がした。
はっとして見れば、そこには数人の学生たちが。
「聖女様」
私の語りを興味半分で聞いていたフィスロ(失礼な人)が、ピンと真面目な顔になった。
ちょっと。私の話も真剣に真面目に聞きなさいよ。
「こちらは、魔法学園の生徒会の皆さんです。半年間、この図書室を維持してくださっていたのですよ」
「それはどうも」
「お初にお目にかかります」
三人いる学生のうち、一人の男子学生が前へ進み出た。
金髪に緑の瞳。すらりとした身長で、やっぱりイケメン。
フィスロと並ぶと、どこか兄弟みたいな美形だった。
「アーノルド・ルーアです。この国の第二王子で、生徒会会長をさせていただいております」
わお。王子で生徒会長キャラが来た。
確かにそれっぽい感じだ。ライトノベルとかマンガあるある、王族会長のご登場である。
王子に挨拶されたら、挨拶をしなければならない。
私は、ライトノベルで学んだ『聖女像』を頭に思い浮かべながら礼をした。
「スイです。この度、この図書室で司書教諭をさせていただくことになりました」
「……聖女様」
なによ、フィスロ。
ツンツンと肘で突いてくるフィスロを、白い目で見る。
「司書教諭じゃなくて、聖女の方を名乗ってください」
「だって、聖女やることないでしょ。なら、いいじゃない」
「一応は聖女様ですよ? 聖女に見えなくても、一応は」
「うるさいわね、勝手に召喚しといて」
「あはは」
フィスロとやり合っていると、笑い声が聞こえた。
見れば、王子を始めとする生徒会のメンバーがくすくすと笑っていた。
「お似合いだな、二人とも」
「仲がよろしくて嬉しいですわ、フィスロ様」
「フィスロ様の素が出ておいでですね」
どうやら、フィスロは学生たちに親しまれているらしい。
ただの聖女補佐官ではなさそうだ。
「フィスロ、何者?」
「僕ですか? 自由気まま聖女様をお支えする補佐官ですよ?」
「余計なのがついてる! 自由気ままな司書教諭よ!」
「そっちですか!?」
本当、フィスロって何者?