束の間の休息
「こんにちは~」
今日は休日。
魔法学園もお休みだから、司書教諭の仕事も一息。
だから、私はあの本屋さんへ来ていた。
「いらっしゃい、スイちゃん」
「ザムさん、来ちゃいました」
本を図書室に入れて欲しいと頼んだ、本屋さん。
そこにはよく訪れていて、店主さんのことを名前で呼ぶくらいの仲になった。
ザムさんには、聖女ではなく名前で呼んでもらっている。
それが、なんだか嬉しかった。
「新刊が入ったぞ。買うかい?」
「買う買う!」
この国で特に人気の作家さん。
その新刊が発売されると飛ぶように売れる。
図書室に入れたいけど、なかなか手に入らないから困ってたんだよね。
そのときにザムさんと仲良くなったから、特別に1冊だけ取り置きしてくれているんだ。
「スイちゃんは本当に本が好きだねぇ」
「こっちの世界に来る前から大好きなんです。悔しいのは、大好きなシリーズの新刊が読めないこと!」
こっちの世界にも本はある。
でも、日本の本はない。
だから、続きが気になっていた本はもう読めないのだ。
そう考えると、とてつもなく寂しい。
「スイちゃんには悲しいかもしれんが、わしらにとってみれば聖女様は大切なんじゃ」
ザムさんは、私の気持ちを分かってくれたようだった。
ぽん、と頭を撫でてくれる。
その手のあたたかさが、大好きな祖父を想起させたのだった。
*
「聖女様、ザムじいのところ来てたんだ!」
「これ、食べていきな」
「どうだい! 青薔薇モチーフの髪飾りだよ!」
本屋さんを出ると、街の人々が私を見つけて微笑んでくれた。
そして、あたたかい感情をくれる。
慕ってくれる子どもたち。
甘いお菓子をくれるおばさん。
精巧な髪飾りを嬉しそうに見せてくれるおじさん。
みんなが、煌めく笑顔を浮かべていた。
これはきっと、平和の証。
司書教諭だなんだと図書室に引きこもっているけど、外に出れば私は聖女。
街の皆は、私を聖女として受け入れてくれている。
それが嬉しかった。
「ありがとう」
仕事の合間の時間。
その日は、たくさんのあたたかさを貰ったのだった。
「お土産は?」
「……フィスロには何の情緒もないのね」
帰って一発目が、その言葉なのが腹立たしい。
まぁ、それが一番居心地が良かったりするんだけどね。




