読書センター
「重要なのは、読書環境の整備だよね」
学園長にカリキュラムを変更して貰った、次の日。
今日も今日とて誰もいない図書室を前に、私はぽつりと呟く。
以前より整備された図書室には、学生がちらほら来るようになった。
特に、新たに開館した日の周辺は、学生が多かった。
それなのに、今はまた逆戻りの状態。
勉強をしている学生さえ見ることがない。
「どうやって学生を来させるんです? 授業に乱入して勧誘するんですか?」
「そんなヤバいことはしないよ。学園長から許可は貰ったけど、さっそく使うにはまだ早いから」
やるからには、徹底した準備が必要!
図書室に来させても、その環境が充分に整っていなければ意味がない。
「ねぇ、フィスロ。街で人気の本、リスト化してくれた?」
「もちろんです」
フィスロに問いかければ、すっと書類が出てくる。
ふふふ、これを使うんだ。
上手く行けば、利用者が増えるかもしれない!
「ふっふっふ」
「……森の奥にいそうな魔女の笑い声、やめてください」
「失礼な。森の奥にいたって、悪い魔女とは限らないでしょ」
「確かに」
作戦決行である。
*
ザワザワとした騒めき。
講義棟の隅にある廊下では、ここまでの騒めきはめずらしい。
私は、作業していた手を止めて、図書室の扉を開けた。
「あ、聖女先生!」
「久しぶり~!」
「セイラちゃんにリアちゃん。いらっしゃい」
セイラとリア。
図書室の前には、彼女たちを始めとする何人かの学生がいた。
学生たちが見ているのは、図書室の掲示板だ。
『読みたい本選挙開催! 読みたい本に投票すれば、図書室に本が入るかも!?』
そんな見出しが書かれたポスター。
それはもちろん……。
「これって、聖女先生が考えたんですか?」
「うん。今、国中で人気の本をリストアップしてみたの。どの本も、図書室には入ってない本たちだよ」
「あ、私。これ読んでみたかったんです」
そんな声が聞こえた。
見れば、亜麻色の髪の女子学生がリストにある本を指さしていた。
「でも、実家の図書室にはなくて。そこは学問書ばかりなので、いつか文学を読みたいって思っていたんです」
「その想い、大事にした方がいい。読みたいって思った本こそ、自分のためになったりするのよ」
微笑んで応えれば、彼女はこくりと頷いた。
そして、掲示板の傍に置いてある机へ移動する。
そこには、紙とペン、投票箱が置いてある。
読みたい本のタイトルを書いて、投票箱に入れたら投票は完了。
あとは、結果待ちだ。
「よろしくお願いします」
亜麻色の女子学生は、嬉しそうに投票をした。
その様子を見ていたリアが、「私も~」とペンを持つ。
「アクセサリーを魔法に使う物語って、なんかおもしろそう!」
「偶には、文学もいいですね」
セイラも、ウキウキとして投票をする。
他の学生も、ちらほら投票をしてくれていた。
作戦、大成功。
この国の読書は、ほとんどが学問書であるとフィスロが調べてくれた。
なら、話は簡単。
普段触れることのない文学作品で、かつ国民に大人気シリーズをリストに入れる。
この学園は貴族も多いから、きっと庶民文学も気になる人もいるだろう。
それを見越して、たくさんの文学作品を候補として挙げたのだ。
うっふっふ。
こんなに賑わってる図書室は初めてだ。
*
「図書室にはね、3つの機能があるの」
「ほう」
「まずは、読書センターね。学校教育の中で行われる様々な『読書指導』や『読書活動』を充実させていくための拠点となるのが、学校図書館よ」
図書室は、読書を支える場所。
そんな場所を整備するのも、仕事の一種だ。
「空間の工夫とかも必要だけどね。まずは、読書の充実化を図ろうかな」
この学園では、きっとそれが第一優先だ。
学問書ばかり揃った図書室は、勉強の延長線みたいに思ってしまう学生もいるだろう。
そうではなくて、読みたい本を読むことができる場所にしたい。
大変な勉学から離れて、好きな本を読むこと。それが、心の安らぎになるはず。
まぁ、学習でも図書室を使って欲しいけどね。
それはまた、後日の話。
「そのために、僕は街中の本屋さんを駆け巡った訳ですか……」
ちなみに、私は意気揚々と語っているが。
目の前のフィスロは、はぁはぁぜぃぜぃとしていた。
膝を付いて、ずーんと項垂れている。
フィスロには、仕事をお願いしていた。
まず、入れて欲しい本リストを作るために、街中の本屋さんに聞き込みをして貰った。
次に、作ったポスターを学園中の掲示板に貼って貰ったのだ。
つまり、疲労困憊。
珍しくフィスロが息も絶え絶えなのである。
「ごめんって、フィスロ。フィスロにしか頼めなかったの」
フィスロの前にしゃがみ込んで言えば、彼はすっと顔を上げた。
美麗な顔にかかる前髪と、それを張りつかせる汗。
うーん、大人な魅力でかっこいい。
「お菓子、ください」
「へ?」
「今日のおやつです。そしたら、すぐに元気になります」
なんだかフィスロは可愛らしい。
超イケメンなのに、どこか子どもっぽいところが特に。
仕方ない。たくさん手伝ってくれたから、ご褒美あげないとね。
今日はチョコバナナケーキだから。




