許可
司書教諭と学校司書の違いは、ややこしくなるときがある。
ざっくりと言っちゃえば、
「指導」をすることができるのが司書教諭
「指導のアドバイス」をするのが学校司書
である。
「つまり、司書は資格がなくてもなれるのよ」
「へぇ。司書教諭は資格が必要なんですね」
そうだよ。
司書教諭の講義は大変だった。
夏休みを返上してまで受けた、集中講義。朝から夕方まで続いた講義の中で、一番楽しかったのは友人たちとのお菓子交換だ。
司書教諭になりたかったから、講義は辛くなかったけどね。ずっと座ってるのが大変だった。
「司書教諭は、司書の先生みたいにずっと図書室にいるんですか?」
「ううん。担当教科の授業をしたり、担任を持ったり、部活の顧問をしたりするの。司書教諭だからって、授業の軽減措置はないのよ」
「うっへぇ」
貴族らしかぬ声が、フィスロから零れる。
フィスロらしいよね、それ。
「では、さっそく授業をしに行くんですか?」
「そんなまさか」
いきなり押しかけて「授業やらせてください!」なんて、非常識だよ。
クラスによって時間割が決まっているし、カリキュラムもある。
それに、先生方は1年を見通して授業を行っている訳だから、そこに食い込むことは難しい。
授業をするためには、その授業のために他の授業の時間を削らなくてはならないから。
「どうするんです?」
「決まってるじゃない」
カリキュラムを組んでいるのは、この学園1番の敏腕教師。
彼女が決めたカリキュラムは、学生の魔法を格段に伸ばしている。
そんな彼女のところに行くのがベストだよね。
「学園長のところに行くよ」
*
学園長室は、学園の最奥にある。
物々しい雰囲気が漂う、学園長室前の廊下。
息を吸い込めば、きゅっと喉の奥が狭まる感覚がする。
コンコンコン。
意を決して扉を叩くと、中から「はぁい」という声が聞こえてきた。
のんびりな声に驚きつつも、おそるおそる扉を開く。
その向こうには。
「あら、スイちゃん先生。どうしたの?」
……スイちゃん先生、ね。
つい先日、図書室に遊びに来た学園長と仲良くなった時にできたあだ名だ。
「ぷっ、いつの間にかあだ名が……!」
隣で、肩を震わせて笑っているフィスロ。
目に涙を浮かべるくらい笑っていて、なんだかムカつく。
よって、私の足がフィスロの足に制裁を下したのだった。
「学園長。今から、全学年の何時間かを私にくれませんか?」
「え、なんで?」
「図書室の利用者数が明らかに少ないんです。だから、私が読書教育を広めます」
そう告げれば、学園長は首を傾げた。
「前任の司書の先生は、そんなことやられていなかったわよ?」
「司書と司書教諭は違うんですよ」
2つの違いについて、私は学園長に存分に語る。
その間、フィスロは足を押さえて蹲っていた。
ふん、弱いね。
「……なるほど」
学園長は、座っていた椅子の背もたれに寄りかかった。
天井を仰ぐと、視線がぴたりと止まる。
どうやら、思考を巡らせているようだった。
「補佐官殿のお考えは?」
「聖女としての責務を全うして欲しく思います」
足を押さえていたフィスロだったけど、学園長が問いかけると嘘のように立ち上がった。
そして、真剣な瞳で声を響かせる。
聖女としての責務って……。
そもそも、フィスロが『聖女の仕事はない』って言ったんでしょ?
だから、私は司書教諭になったの。
日本で叶わなかった夢を追いかけるために。
「ちょっとフィスロ、その言い方──」
「ですが」
フィスロに反論しようとしたとき。
私の言葉をフィスロに遮られた。
彼は胸に手を当て、エメラルドグリーンの瞳を煌めかせて言う。
「聖女様のお望みを、叶えて差しあげたいと思っております」
「フィスロ……」
「スイ様をこちらの都合で引き寄せたのは、我々ルーアの者です。国が平和で聖女が必要ないというならば、聖女様のお望みを叶えて差し上げるのが、我々の責務かと」
その真剣な言葉に、その場が静まり返る。
あれだけ、「聖女であることを忘れるな」と言ってきたフィスロ。そんなフィスロが、私の境遇をなんとかしようとしてくれている。
ただの補佐官では収まり切らない、何か特別な感情が湧き上がってきた。
そんな気がした。
「分かったわ。カリキュラムを変更しましょう」
「あ、ありがとうございます!」
「良い結果を待っているわ」
フィスロの言葉に胸を動かされたのだろう、学園長はにっこりと微笑む。
「自由にやってちょうだい。そろそろ、教育に新しい風を入れたかったの」
「嬉しいです。ありがとうございます」
これで、司書教諭としての教育をすることができる。
そんな喜びに、思わず舞を舞いたくなる。
本とかで嬉しさの余り踊っている人って、こんな感情なのかな。
「ありがとう、フィスロ」
「感謝、もっと言ってください」
フィスロは、えへんと胸を張った。
そんなフィスロはどこか子どもっぽくて、微笑ましい気持ちになった。




