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 司書教諭と学校司書の違いは、ややこしくなるときがある。

 ざっくりと言っちゃえば、


 「指導」をすることができるのが司書教諭

 「指導のアドバイス」をするのが学校司書


 である。


「つまり、司書は資格がなくてもなれるのよ」

「へぇ。司書教諭は資格が必要なんですね」


 そうだよ。

 司書教諭の講義は大変だった。

 夏休みを返上してまで受けた、集中講義。朝から夕方まで続いた講義の中で、一番楽しかったのは友人たちとのお菓子交換だ。

 司書教諭になりたかったから、講義は辛くなかったけどね。ずっと座ってるのが大変だった。


「司書教諭は、司書の先生みたいにずっと図書室にいるんですか?」

「ううん。担当教科の授業をしたり、担任を持ったり、部活の顧問をしたりするの。司書教諭だからって、授業の軽減措置はないのよ」

「うっへぇ」


 貴族らしかぬ声が、フィスロから零れる。

 フィスロらしいよね、それ。


「では、さっそく授業をしに行くんですか?」

「そんなまさか」


 いきなり押しかけて「授業やらせてください!」なんて、非常識だよ。

 クラスによって時間割が決まっているし、カリキュラムもある。

 それに、先生方は1年を見通して授業を行っている訳だから、そこに食い込むことは難しい。

 授業をするためには、その授業のために他の授業の時間を削らなくてはならないから。


「どうするんです?」

「決まってるじゃない」


 カリキュラムを組んでいるのは、この学園1番の敏腕教師。

 彼女が決めたカリキュラムは、学生の魔法を格段に伸ばしている。

 そんな彼女のところに行くのがベストだよね。


「学園長のところに行くよ」





 学園長室は、学園の最奥にある。

 物々しい雰囲気が漂う、学園長室前の廊下。

 息を吸い込めば、きゅっと喉の奥が狭まる感覚がする。


 コンコンコン。


 意を決して扉を叩くと、中から「はぁい」という声が聞こえてきた。

 のんびりな声に驚きつつも、おそるおそる扉を開く。

 その向こうには。


「あら、スイちゃん先生。どうしたの?」


 ……スイちゃん先生、ね。

 つい先日、図書室に遊びに来た学園長と仲良くなった時にできたあだ名だ。

 

「ぷっ、いつの間にかあだ名が……!」


 隣で、肩を震わせて笑っているフィスロ。

 目に涙を浮かべるくらい笑っていて、なんだかムカつく。

 よって、私の足がフィスロの足に制裁を下したのだった。


「学園長。今から、全学年の何時間かを私にくれませんか?」

「え、なんで?」

「図書室の利用者数が明らかに少ないんです。だから、私が読書教育を広めます」


 そう告げれば、学園長は首を傾げた。


「前任の司書の先生は、そんなことやられていなかったわよ?」

「司書と司書教諭は違うんですよ」


 2つの違いについて、私は学園長に存分に語る。

 その間、フィスロは足を押さえて蹲っていた。

 ふん、弱いね。


「……なるほど」


 学園長は、座っていた椅子の背もたれに寄りかかった。

 天井を仰ぐと、視線がぴたりと止まる。

 どうやら、思考を巡らせているようだった。


「補佐官殿のお考えは?」

「聖女としての責務を全うして欲しく思います」


 足を押さえていたフィスロだったけど、学園長が問いかけると嘘のように立ち上がった。 

 そして、真剣な瞳で声を響かせる。


 聖女としての責務って……。

 そもそも、フィスロが『聖女の仕事はない』って言ったんでしょ?

 だから、私は司書教諭になったの。

 日本で叶わなかった夢を追いかけるために。


「ちょっとフィスロ、その言い方──」

「ですが」


 フィスロに反論しようとしたとき。

 私の言葉をフィスロに遮られた。

 彼は胸に手を当て、エメラルドグリーンの瞳を煌めかせて言う。


「聖女様のお望みを、叶えて差しあげたいと思っております」

「フィスロ……」

「スイ様をこちらの都合で引き寄せたのは、我々ルーアの者です。国が平和で聖女が必要ないというならば、聖女様のお望みを叶えて差し上げるのが、我々の責務かと」


 その真剣な言葉に、その場が静まり返る。

 あれだけ、「聖女であることを忘れるな」と言ってきたフィスロ。そんなフィスロが、私の境遇をなんとかしようとしてくれている。

 ただの補佐官では収まり切らない、何か特別な感情が湧き上がってきた。

 そんな気がした。


「分かったわ。カリキュラムを変更しましょう」

「あ、ありがとうございます!」

「良い結果を待っているわ」


 フィスロの言葉に胸を動かされたのだろう、学園長はにっこりと微笑む。


「自由にやってちょうだい。そろそろ、教育に新しい風を入れたかったの」

「嬉しいです。ありがとうございます」


 これで、司書教諭としての教育をすることができる。

 そんな喜びに、思わず舞を舞いたくなる。

 本とかで嬉しさの余り踊っている人って、こんな感情なのかな。


「ありがとう、フィスロ」

「感謝、もっと言ってください」


 フィスロは、えへんと胸を張った。

 そんなフィスロはどこか子どもっぽくて、微笑ましい気持ちになった。


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