謁見
「国王陛下にご挨拶いたします」
王宮に呼ばれたのは、それから数時間後だった。
謁見の間に入れば、国王が高い位置から私を見下ろしていた。
フィスロと共に、膝をついて挨拶をする。
「そう堅苦しくなるでない。して、聖女殿。貴殿は『翠玉目録』なるものを作ったそうではないか」
……やっぱり、きた。
きっと、学園長が報告したのだろう。
魔法学園内での私の行動は、学園長が逐一報告を上げている。
図書室を改善しているのも、国王に筒抜けだった。
「はい」
作ったのは、事実。
でも、絶対に量産は許さない。
これは、図書室のために作ったんだから。
「それに関してなのだが、ぜひ触らせて──」
「嫌です」
「え?」
「……スイ様」
断りの返事を、国王の言葉を遮って言った。
すると、フィスロがツンツンと私の肩を突いてきた。
「陛下は、ただ触らせて欲しいだけのようですよ」
「え?」
うわ、まじか。
どうやら早とちりしたみたい。
それは、ごめんなさい。
「さ、触ることも許されないのか……? では、わしも学生をもう一度……」
「そんなことありませんっ! ぜひ、お触りください!」
ごめんって、王様。
そんなにしょげないでよ。
持ってきていた翠玉目録を、控えていた騎士さんに渡す。
騎士さんはそれを受け取ると、国王のところまで持って行った。
「ほう。魔法紙を使っているのだな」
「はい。そのおかげで魔法がかかりやすく、時間をあまり費やすことなく本を探すことができます」
「それはすごいな」
国王は、感心したように翠玉目録を見ていた。
というより、いじって遊んでいた。
……まぁ、いいんだけどね。
宰相さんとかに怒られなきゃいいけど。
「それで、さっきも言っていたが、これを実用化することは──」
「しません」
どうしてもしたくない。
こちらの世界の発展は、住民たちがやった方がいいから。
外部の私が介入したら、変に文化が壊れてしまうかもしれない。
それは、嫌だ。
私はもう、この国が好きなんだから。
「他の図書室に置くということは──?」
「しません。自分で作ったものですもの、自分で管理します」
これは、我が図書室だけにある魔法道具。
私たちの特権。
これがあるだけで、話題性はばっちりだ。
そうしたら、図書室利用が増えるかもしれない。
「わしもかね?」
「はい。触られるのは、この時間が終わるまでです」
きっぱりと告げれば、国王ががっくりと俯いた。
「わし、もっといじっていたい」
「だめです。遊ぶものじゃないんですから!」
いくら王様のお願いだろうと、絶対にだめなんだから!
「陛下のおもしろい顔が見れてよかったです」
聖女殿への帰り道。
隣を歩いていたフィスロがにやにやと笑っていた。
「仲良いんだね、王様と」
「腐れ縁ですよ」
フィスロは、ふふふっと微笑んだ。
「昔から世話になりましてね。木の上に置いてきたバナナを、取りに行ってくれたこともあったっけな」
「……ちょっと待って、情報が多すぎない?」
木の上にバナナ?
それを取りに行った?
従者ではなく、国王陛下が?
何してるの、あの国王は。
「いやぁ、お恥ずかしながら、幼少期は木の上でバナナを食べながら昼寝をすることが好きでして」
「もしかして、サルだったの?」
「そんな訳ないですよ。フィスロは、生まれてからずっとかっこいいフィスロです」
「あっそう。もういいや」
「えぇ! もっと話聞いてくださいよ~!」
早く図書室に行きたい。
そして、フィスロと他愛のない話をしながら、図書室について考えていきたい。
「明日のおやつ、バナナケーキがいいです」
「私に言わないで、リンちゃんに言いなさい」
こんな聖女補佐官だけど、いてくれるだけでほっとするから。
安心できる拠りどころになっているから。




