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翠玉目録

 正直、身震いがした。

 こちらの世界には無いものを、スイは己の知識だけで作り出した。

 歴代の聖女の中で、ここまで常識を覆した者はいなかっただろう。

 スイは、きっと最高級聖女となるに違いない。


 聖女補佐官は、聖女を守り、補佐をする立場。

 その名誉ある立場に選ばれたのだ、全力で取り組むしかない。


「おはようございます」


 今日も、スイと魔法学園へ行く。

 朝食や準備を終えたタイミングを見計らって、スイの私室へ赴いた。


「今日の昼食とおやつはなんです?」

「第一声がそれ? 食いしん坊だね」

「食欲は大事ですよ」


 つまらない人生だと思っていたのに。

 スイと一緒にいると、何かがすっと和らぐ。

 心に引っかかっていた何かが解けるように。


「わお、カップケーキ」

「チョコ味はあげないんだから」


 スイと笑顔を見ると、今日も頑張ろうと思えるのだ。





 蔵書検索システム──翠玉目録──が完成した。

 あとは、設置場所を決めるだけ。

 どうしようかな、カウンター横で入り口の近くにしようかな。


 余っていた机を運び、椅子を二脚用意する。

 そして、その上に作った翠玉目録を置いた。


「いいんですか? 国宝級のものをそんなひけらかすように置いて」

「あまいね、フィスロ。その辺の対策はばっちりよ」


 盗られないようにするには、机にくっつけちゃえばいい!

 という訳で、用意したのは紐である。

 これで翠玉目録と机を繋げれば……!


「スイ様って、完璧なようでたまに抜けてますよね」

「は、はぁ!?」

「そんなにすごいものを作っておいて、なんで最後だけ古典的なんです?」


 ……それはね、思ってたのよ。

 どうにかして盗られないようにしようと考えたけど、これが限界だったのだ。


「じゃあ、これはフィスロに任せるよ」


 私よりもいい考えを持っているはず!

 そう期待を込めて見上げると、フィスロは不敵な笑みを浮かべた。

 うっ。少しかっこいいと思ってしまった。


「分かりました。では、遠慮なく」


 フィスロは、翠玉目録に向けて手をかざした。


『固定』


 フィスロの手から、エメラルドグリーンの光が溢れだす。

 ……綺麗。フィスロの瞳みたい。

 ただの緑じゃなくて、青を足したような美しい色。

 なんだか暖かく感じる。


「これでどうでしょう」


 光が収まると、フィスロは私を振り返った。

 翠玉目録を取ってみても、普通に動かせる。

 それなのに、机の上から離すことができなかった。

 まるで、机の上の空気に固定されてるみたい。羽根ペンも、机の上から持ち出そうとしても無理だった。


「すごいよ、フィスロ!」

「ありがとうございます」


 褒めると、フィスロは嬉しそうに笑った。

 日本で飼っていた犬みたい。褒められたら、嬉しそうにくしゅっと目を細めるの。

 フィスロから尻尾が出ていて、それがブンブンと振られていてもおかしくないくらい。

 ついでに耳もありそう。


「カップケーキのチョコレート味、くれます?」

「それとこれとは違う」


 図々しいけどね。





「あら、これはすごい」


 一応、魔法学園の学園長に見せることになった。

 図書室にやってきた学園長は、翠玉目録を手に取って目を丸くする。


「色々なところで導入されたら、きっと便利になるわ」

「それは、やめて欲しいです」


 学園長だろうが、関係ない。

 それだけは絶対にお断りだから。


「この世界には存在し得ないものを作ったんです。これが出回ってしまうと、どうなるか分からないので」

「……そうねぇ」


 学園長はがっかりした様子だ。

 ちょっと可哀想だけど、仕方ない。

 翠玉目録がなくても回るシステムがここにはあるだろうし、作るのも大変なのだから。




 ほとぼりが冷めたと思った、数日後。

 使い方を学生に教えていたところに、フィスロが駆け込んできた。


「スイ様、大変です。国王陛下が、聖女様にお会いしたいそうです!」

「うわぁお」


 うわ、マジか。

 怒られるのかな。


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