翠玉目録
正直、身震いがした。
こちらの世界には無いものを、スイは己の知識だけで作り出した。
歴代の聖女の中で、ここまで常識を覆した者はいなかっただろう。
スイは、きっと最高級聖女となるに違いない。
聖女補佐官は、聖女を守り、補佐をする立場。
その名誉ある立場に選ばれたのだ、全力で取り組むしかない。
「おはようございます」
今日も、スイと魔法学園へ行く。
朝食や準備を終えたタイミングを見計らって、スイの私室へ赴いた。
「今日の昼食とおやつはなんです?」
「第一声がそれ? 食いしん坊だね」
「食欲は大事ですよ」
つまらない人生だと思っていたのに。
スイと一緒にいると、何かがすっと和らぐ。
心に引っかかっていた何かが解けるように。
「わお、カップケーキ」
「チョコ味はあげないんだから」
スイと笑顔を見ると、今日も頑張ろうと思えるのだ。
◇
蔵書検索システム──翠玉目録──が完成した。
あとは、設置場所を決めるだけ。
どうしようかな、カウンター横で入り口の近くにしようかな。
余っていた机を運び、椅子を二脚用意する。
そして、その上に作った翠玉目録を置いた。
「いいんですか? 国宝級のものをそんなひけらかすように置いて」
「あまいね、フィスロ。その辺の対策はばっちりよ」
盗られないようにするには、机にくっつけちゃえばいい!
という訳で、用意したのは紐である。
これで翠玉目録と机を繋げれば……!
「スイ様って、完璧なようでたまに抜けてますよね」
「は、はぁ!?」
「そんなにすごいものを作っておいて、なんで最後だけ古典的なんです?」
……それはね、思ってたのよ。
どうにかして盗られないようにしようと考えたけど、これが限界だったのだ。
「じゃあ、これはフィスロに任せるよ」
私よりもいい考えを持っているはず!
そう期待を込めて見上げると、フィスロは不敵な笑みを浮かべた。
うっ。少しかっこいいと思ってしまった。
「分かりました。では、遠慮なく」
フィスロは、翠玉目録に向けて手をかざした。
『固定』
フィスロの手から、エメラルドグリーンの光が溢れだす。
……綺麗。フィスロの瞳みたい。
ただの緑じゃなくて、青を足したような美しい色。
なんだか暖かく感じる。
「これでどうでしょう」
光が収まると、フィスロは私を振り返った。
翠玉目録を取ってみても、普通に動かせる。
それなのに、机の上から離すことができなかった。
まるで、机の上の空気に固定されてるみたい。羽根ペンも、机の上から持ち出そうとしても無理だった。
「すごいよ、フィスロ!」
「ありがとうございます」
褒めると、フィスロは嬉しそうに笑った。
日本で飼っていた犬みたい。褒められたら、嬉しそうにくしゅっと目を細めるの。
フィスロから尻尾が出ていて、それがブンブンと振られていてもおかしくないくらい。
ついでに耳もありそう。
「カップケーキのチョコレート味、くれます?」
「それとこれとは違う」
図々しいけどね。
*
「あら、これはすごい」
一応、魔法学園の学園長に見せることになった。
図書室にやってきた学園長は、翠玉目録を手に取って目を丸くする。
「色々なところで導入されたら、きっと便利になるわ」
「それは、やめて欲しいです」
学園長だろうが、関係ない。
それだけは絶対にお断りだから。
「この世界には存在し得ないものを作ったんです。これが出回ってしまうと、どうなるか分からないので」
「……そうねぇ」
学園長はがっかりした様子だ。
ちょっと可哀想だけど、仕方ない。
翠玉目録がなくても回るシステムがここにはあるだろうし、作るのも大変なのだから。
ほとぼりが冷めたと思った、数日後。
使い方を学生に教えていたところに、フィスロが駆け込んできた。
「スイ様、大変です。国王陛下が、聖女様にお会いしたいそうです!」
「うわぁお」
うわ、マジか。
怒られるのかな。




