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余白譚

「あれ、フィスロは?」


 今日も、図書室での仕事が終わった。

 聖女殿に帰るときはいつも、フィスロと一緒に帰る。

 それなのに、待っていたのはリンちゃんだった。


「他にお仕事があるみたいですよ」


 馬車に乗り込めば、リンちゃんが笑顔でそう教えてくれた。

 ふーん、なるほど。

 聖女補佐官だもん、色々忙しいよね。


「じゃあ、夜食のクッキーは二人で食べちゃおうか」

「いえ、先に召し上がられましたよ。『お腹を空かせたスイ様に食べられちゃう』って」


 ちゃっかりしすぎじゃない?

 それに、失礼すぎ。

 食いしん坊キャラでもないし、人の分を勝手に食べないよ!


「まったく、フィスロは」

「仲良しですね」

「どこがよ」





「婚約者の様子はどうかね?」


 国王の執務室。

 そこに、フィスロは呼び出されていた。


「まぁ、普通ですよ」

「お前は昔からごまかしが上手いなぁ」

「光栄です」

「褒めてはないぞ」


 くっきりとした顔立ちが特徴の国王。

 凛々しいその姿は、この国でも多くの女性の人気を誇っている。

 スイ曰く、『イケオジ』らしい。その言葉が示す意味は分からないけれど。


「名も顔も知らぬ婚約者だったからな。少しは心配していたのじゃよ」

「いえ。これも、私の宿命ですから」


 そう微笑めば、国王も口角を上げた。


「礼を言う。ありがとう」

「いえ」

「そうだ、アーノルドも寂しがっている。会ってやれ」

「はい」




「これ、スイ様から」


 廊下ですれ違った、第二王子殿下。

 彼の姿を捉え、すっと包みを渡す。


「聖女先生から! ありがとうございます」


 王子とはいえ、彼が使ったのは敬語。

 それに気付いたフィスロは、眉をひそめる。


「敬語はやめてくださいね」

「だって……」


 いつもはクールに、でも爽やかな笑顔でいるアーノルド。

 そんな彼が、悲しそうに目を伏せた。

 今にも泣きそうな子どものように。


「いつか、その時を待っていてください。それまで、貴方は王子として凜としているのです」

「分かりました」


 アーノルドは、ピンと背を伸ばす。

 そんな姿が愛おしくて、フィスロは思わず笑うのだった。


「では、また」

「はい。お気を付けて」


 こうして、何日かに一回の面会が終わる。

 フィスロの重要な仕事の一つが。


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