余白譚
「あれ、フィスロは?」
今日も、図書室での仕事が終わった。
聖女殿に帰るときはいつも、フィスロと一緒に帰る。
それなのに、待っていたのはリンちゃんだった。
「他にお仕事があるみたいですよ」
馬車に乗り込めば、リンちゃんが笑顔でそう教えてくれた。
ふーん、なるほど。
聖女補佐官だもん、色々忙しいよね。
「じゃあ、夜食のクッキーは二人で食べちゃおうか」
「いえ、先に召し上がられましたよ。『お腹を空かせたスイ様に食べられちゃう』って」
ちゃっかりしすぎじゃない?
それに、失礼すぎ。
食いしん坊キャラでもないし、人の分を勝手に食べないよ!
「まったく、フィスロは」
「仲良しですね」
「どこがよ」
*
「婚約者の様子はどうかね?」
国王の執務室。
そこに、フィスロは呼び出されていた。
「まぁ、普通ですよ」
「お前は昔からごまかしが上手いなぁ」
「光栄です」
「褒めてはないぞ」
くっきりとした顔立ちが特徴の国王。
凛々しいその姿は、この国でも多くの女性の人気を誇っている。
スイ曰く、『イケオジ』らしい。その言葉が示す意味は分からないけれど。
「名も顔も知らぬ婚約者だったからな。少しは心配していたのじゃよ」
「いえ。これも、私の宿命ですから」
そう微笑めば、国王も口角を上げた。
「礼を言う。ありがとう」
「いえ」
「そうだ、アーノルドも寂しがっている。会ってやれ」
「はい」
「これ、スイ様から」
廊下ですれ違った、第二王子殿下。
彼の姿を捉え、すっと包みを渡す。
「聖女先生から! ありがとうございます」
王子とはいえ、彼が使ったのは敬語。
それに気付いたフィスロは、眉をひそめる。
「敬語はやめてくださいね」
「だって……」
いつもはクールに、でも爽やかな笑顔でいるアーノルド。
そんな彼が、悲しそうに目を伏せた。
今にも泣きそうな子どものように。
「いつか、その時を待っていてください。それまで、貴方は王子として凜としているのです」
「分かりました」
アーノルドは、ピンと背を伸ばす。
そんな姿が愛おしくて、フィスロは思わず笑うのだった。
「では、また」
「はい。お気を付けて」
こうして、何日かに一回の面会が終わる。
フィスロの重要な仕事の一つが。




