魔法学園
「これはこれは、聖女様。よくいらしてくださいました」
魔法学園に着くと、学園長が出迎えてくれた。
若い女性で、敏腕教師らしい。
茶髪のボブで、金色の瞳。猫みたいでかわいい。
「スイ様のような魔力をお持ちの方でしたら、試験なしで今すぐご入学いただけますよ」
へぇ、魔力そんなにあるんだ。
異世界召喚とかって、主人公がチート系だよね。
私もその類に入るのかな。
学園長に連れられて、学園内を見て回る。
どこも白い大理石を基調としていて、窓枠などは全て木の茶色。
なんだかすごくおしゃれで、全体がカフェみたいだった。
「どうです? 学園生活を一緒に送りませんか?」
「いや、もう学生は大丈夫です」
起きて勉強、寝るまで勉強。
もう勉強はしたくない。どうせだったら、優雅にゆっくり過ごしたい。
「そうだ」
そうだそうだ、行きたいところがあったんだ。
ここに来た目的をすっかり忘れるところだった。
「図書室ってあります?」
学校図書室。
本がたくさんあって、綺麗に並べられていて、もう最高の場所。
私にとってのオアシスは、講義棟の角にあった。
「ここです」
開いてくれた扉を通って、中に入る。
天井まで届きそうな大きな本棚が、ずらりと並んでいる。壁一面も本棚で、ところどころに通路があるのが、本当に憧れの図書館みたいで心が躍る。
「うわ、最高! 何ここ、やばい!」
夢にまで見た、天井までの本棚。
自分の部屋に作ろうとして、お母さんに止められたっけ。
「スイ様は本がお好きなんですか?」
「はい、私の恋人です」
「……はぁ」
こら、フィスロ。ため息吐かないの!
授業時間中なのか、図書室には学生がいない。
じゃあ、見たい放題なのでは!?
最高だ。
私は、とりあえず一番手前の本棚に近づいた。
この本棚は、どんな本を置いてるんだろう。
『ルーア王国建国物語』
『最強聖女の優雅なる恋』
『近代魔術の変革』
「……なに、これ」
歴史物語に、大衆文学。それに学問書。
ジャンルも分類分けもされず、ただ色々な本が詰め込まれていた。
「それにしても、たくさん本がありますねぇ。さすが、魔法学園です」
「そうでしょう? 自慢の図書室なんです」
これが?
自慢の図書室?
「……やる」
「ん?」
「私、ここで働いてやる!」
*
日本の図書館・図書室には、分類がある。
種類によって分けて排架場所を決めることで、目的の本を探しやすくなるのだ。
それなのに、魔法学園の図書室にはそんな分類などなかった。
「お給料は出ませんよ?」
「本さえあれば大丈夫です」
「聖女としてのお役目は?」
「まぁ、そのときになったら呼んでください」
この図書室を変えるためなら、私はなんでもします!
学園長室。
応接セットのソファに座った私を見て、フィスロはくすくすと笑った。
「こんな聖女様は初めてですね」
「学生になられた方もいましたけど、教師陣に入る方はいらっしゃらなかったですね」
学園長も、なんだかおもしろそうに私を見ていた。
いやいや、学生より楽しそうなものを見つけたのでね。
何も整えられていない図書室を、自分の手で変革できるなんて最高じゃない!
聖女は本来、王宮預かりらしい。
だから、別の場所で働いたりするためには、国王の許可などがいるそうだ。
「数日お待ちいただきますが、大丈夫ですか?」
「じゃあ、待っている間は王宮図書館に連れて行ってください」
時間は大切にしないとね!